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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.9「英語学習、丸暗記はNG」

2010年5月28日(金)
こぐま会 Primary English代表
第一教務部長
廣瀬亜利子
 英語クラスに途中入会してくる子どもの中に、ときどき「小3で英検4級をとりました。」などという「すごい」子がいます。
去年の秋、一昨年2年生のとき5級、3年生の春に4級を取得したという子どもが私のクラスに入会しました。

年長の1月から私とずっと一緒にやってきた子どもたちは、明るく元気で、心から楽しんでクラスに参加してくれていることがはっきり伝わってきます。また、静かにさせるのに一苦労するほど話し好きで、この1週間のあいだに起こったできごとをおのおのが夢中で話してくれます。気が済むまで全部話を聞いてあげたいのですが、そして聞いてあげるべきなのでしょうが、時間が限られているのでどうしても途中で切らざるを得なくて、いつも心苦しく思います。

「4級の3年生」がはじめてきた日、あの元気な子どもたちは、いつもとまったく様子が違い、まるで借りてきた猫のようでした。おそらくその子の「肩書き」に恐れをなし、「きっとすごいんだろうなー。」と気になったのでしょう。こんな小さな子どもたちでも、そういう気持ちは沸くのだということもそのとき初めて目の当たりにしましたが、とにかくいつもと比べてとても緊張した表情のまま席に着きました。

授業風景 全員揃い、いつものようにクラスがはじまりました。
「Good afternoon!」
いつもの子たちはこの時点でまず何となく「あれ?」という表情を見せましたが、あまり気にせず次に進みました。お互い自己紹介をした後、いつものように一人ずつ質問に答えてもらいました。
「How are you?」「How is the weather?」「When is your birthday?」「Where does your grandmother live?」「Which fruit do you like better, apples or oranges?」 ...etc.

いつもの子たちからは緊張した表情もいつのまにか消え、得意気にはつらつと答えてくれました。いよいよ新入りの子の番がきました。皆「注目」です。

「How did you come here, today?」
「.......??」
「どうやってここまで来たの?電車?車?」
「車」
「Can you say that in English? 」
「???」
「英語で言ってみて」
「car.」

いつもの子たちの顔は急に安心したような表情に変わりました。

この「英検4級の3年生」は英検合格だけを目指して学んできた子どもに多く見られる典型的な例です。このように「肩書き」と現実とのギャップが大きいことがほとんどです。英検受験の準備教材や問題集と実際の出題を見比べますと、少なくとも5級、4級に関しては、本当に理解しているかしていないかに関係なく、徹底的に問題集をやり尽くし、出てくる単語を完璧に丸暗記すれば、まずテストに合格できると思います。しかし、そのレベルの英語を果たして本当に習得できたかというと、ほど遠いものがあります。準備教材という限られた枠の中に出てきた単語や構文のみ、それも出てきたままの形でないとわからないのです。しかもほとんど理解することなしに丸暗記しただけなので、ちょっとでも形が変わったりすると太刀打ちできませんし、時間が経つと忘れてしまいます。

英語はそもそも「暗記もの」ではありません。
多くの大学受験生が英単語や構文を丸暗記して入試に臨みますが、合格したとたん、覚えたもののうち半分は忘れてしまうとよく言われています。その後も入った先が英文科など、英語を勉強し続ける場合は別ですが、ただ大学に合格することだけが目的で丸暗記した場合、日常的に繰り返し使い続けていない限り、更にどんどん忘れていくでしょう。日本人の語学力が、実際の勉強量の割に外国人のそれと比べて低いといわれるのは、「丸暗記」という間違った学習法によるところが大きいと思います。

それまで大学に籍をおきながら普段は通訳の仕事をしていた私が、ある些細なきっかけにより、子どもたちに英語を教え始めて15年ぐらいになります。そのきっかけについてここでは触れませんが、その教授法について考えていく中で、私自身がイギリスの学校で受けた語学教育がとても参考になりました。また、イギリスで生活していく中で自然に英語を習得していった過程を振り返ったとき、そこに大きなヒントがありました:

  1. 英語はパターン化したものや単語を規則的に暗記させるものではない。
  2. 母国語がしっかりと確立したときが習い始めるベストタイミングである。なぜなら、子どもが理解できるようにきちんと説明する必要があるから。
  3. 教科書や絵カードだけの机上の学習ではなく、「屋さんごっこ」「レストラン」「飛行機の中」などいろいろな場面設定による実践活動をなるべく多く行う。
  4. 料理、工作などいろいろな作業を通して英語に触れさせる。
  5. 正しい発音を徹底的に教える。模倣させるのではなく、音の作り方を説明して教え練習する。
  6. 暗記はダメであるが、反復練習は逆に繰り返し行う。

自分が過ごしている日常生活を客観視してみて気がついたことですが、私たちは普段決して難しいことばを使っているわけではありません。むしろとても単純なことばを使っていることのほうが圧倒的に多いと思います。それは日本だけではなく、当然イギリスでもドイツでもどこでもそうなのですが、自分の国の言葉でないと、まるで大変難しい言い回しをしているかのような錯覚に陥りがちです。

私自身も、始めてイギリスに行った当初はほとんどことばを聞き取ることができなかったので、きっとイギリス人はすごく難しいことばばかりを使っているのだろうと思いこんでいました。しかし、毎日学校に通い日常生活を送っていくうちに、少しずつ「言葉」として聞こえてくるようになりました。そしてあるとき気がついたら自分にとってごく自然な言語として感じられるようになっていました。そこではじめて、日本語同様、英語も決して難しいことばを並べたてているわけではないということと、日常生活における「頻発ワード、頻発フレーズ」が確かに存在することに気づきました。

授業風景 ご縁あって今私はこぐま会で英語を教えさせていただいておりますが、私がこの15年間子どもに英語を教えるにあたって守り続けてきたことと、こぐま会の考え方に通ずるものをいつも感じます。こぐま会では一歩一歩正しく段階を踏みつつ、単元毎に実践活動や作業を通して子どもに経験を積ませます。また事物を使って子どもが正しく理解できるよう説明します。その上で少しずつ事物を抽象化していき、最後にペーパーで仕上げます。1年間この方法に正しくしたがって学習してきた子どもたちは、1年後には小学校5年で習う算数の基礎ができあがっているといっても決して過言ではありません。しかも小学校入試だけを目的とした他塾のようにペーパーをただ教え込むようなことは決してしませんので、皆応用力が身についています。暗記して詰め込んだだけの付け焼刃的なペーパー学習とはまったく違い、ひとつひとつ理解しながら積み上げたものなので、忘れることはなく定着しているのです。

英語教育も同じだと思います。私も必ず子どもたちにしっかりと理解してもらえるように、日本語を使ってきちんと説明します。理解しているとしていないでは、吸収力がまったく違うと私自身の経験から確信しているからです。理解できたあとは、活動、作業、場面設定などのあらゆる経験を通して、その言い回しなりフレーズなり言葉なりを繰り返させます。暗記ではなく「同じことばを違うシチュエーションの中で繰り返すこと」が大事なのです。日常生活のシミュレーション化のようなものです。

私は、英検を決して否定しているわけではありません。逆に、児童英語というものはなかなか結果が目には見えにくいものですので、英検をひとつの目標に定めることはよいことだと思います。ただし「合格するため」だけを目標にした受験は、たとえ合格したとしてもそれは「中身のない合格」で、実際は何も身につかないでしょう。一方、私の教室に通い続けてくれている子たちは、一歩一歩着実に理解し、実践活動を通して英語を習得してきています。その子たちにとって、目に見える形で習熟度をチェックするという感覚で英検を活用してみることはよいことだと思いますので、むしろ積極的に勧めています。

新しく入ってきた子も今ではすっかり皆と打ち解けて、今週もまた元気に皆揃いました。

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