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週刊こぐま通信
「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」

幼小一貫教育の実現に向けて

第41号 2015/6/2(Tue)
こぐま会代表  久野 泰可
 こぐま会は創立以来「幼小一貫教育」の理念を掲げ、年少児から小学校3年生までの6年間の基礎教育のあり方を研究し、実践してきました。「教科前基礎教育」の考え方に基づき、幼児期の教育は、小学校の教科内容を易しく薄めて学ぶのではなく、小学校から始まる教科学習の基礎を、しっかりつくっておこうという考え方です。ですから、例えば算数科につながる数の教育は、「数式は使わないけれど、小学校3年生までの四則演算の考え方は、生活に即してしっかり学ぶ」という原則を貫いています。簡単に言ってしまえば、かけ算九九はやらないけれど、かけ算の考え方である「1あたり量×いくつ分」の考え方(こぐま会ではこれを一対多対応と命名しています)は徹底して学ばせるということです。

私は海外、特に東南アジアの国々に出掛けて講演会を開くことが多く、そのたびごとにその国の教科書や問題集を見てきます。特に、算数の教科書がどのように編集され、数概念を育てるために、どんな導入の仕方をしているかに注目してきました。日本の小学校1年生の教科書も何十年と見続けてきましたが、どの国の教科書もほとんど同じような導入法で1年の学習が始まります。私がいつも不思議に思っているのは、なぜ数の概念を育てるために「数字」の学習から始まっているのかということです。数字の書き方や、数字と具体物を対応するところから始まって、すぐに「1+1=2」となるのです。ですから、その後に続くのは当然、たし算・ひき算の計算です。そして計算が習得できると、今度は文章題へと発展していくのです。今一番問題になっている、「計算はできるけれど、文章題になるとできなくなる子が多い」という現象は、高学年の問題ではなく、すでに小学校1年生から始まっているのです。私は、数字の指導から入る小学校1年生の算数の導入の仕方を昔から批判してきました。誤解を恐れず言えば、「文章題から入るべきだ」ということです。もちろん、最初から文章を読ませたり、数式を立てさせたりするのではなく、日常生活のありふれた場面の話を聞かせて、数がどのように変化するのかに注目させ、答えを導き出させるべきだと考えています。その理由は以下の通りです。

(1) 幼児期の子どもたちは、教えられなくても、必要に応じて数の自己教育を行っている
(2) 数的体験は、数字があって成り立っているのではなく、具体的な場面で具体的な物に即して行っている
(3) 数字の世界は、いわば抽象的な世界であり、具体的な場面を背景におかない数字の世界だけの操作では、数学的思考は育たない
(4) 幼児期や小学校低学年の子どもたちには、具体と抽象との橋渡しを常に意識した指導が必要であり、数字の世界に呼び込んだ学びだけでは、結局文章題において具体的場面での数の変化を数式に置き換えることができない
(5) 具体から抽象へ、抽象から具体への相互作用がどうしても必要であり、抽象の世界(数字の世界)を重視する指導は、結局計算主義の指導に陥り、挙句の果てに、文章題の立式ができない子どもを大勢生み出してしまう

算数を数字の操作と勘違いした指導が蔓延している今、もう一度「数学的思考」を育てることはどういうことかを考える必要があるのではないかと思います。幼児期の学習を小学校の教科学習に繋げる試みは今も続いていますが、昨年幻冬舎から出版した「幼児のたしざん・ひきざん」「幼児のかけざん」「幼児のわりざん」という問題集は、そうした我々の経験を生かして作った問題集です。特に「幼児のたしざん・ひきざん」(1・2)は、最初のうちは数式を使わないで、たし算・ひき算の考え方を身につけられるような問題になっています。この問題集は、すでに何回か増刷を繰り返し、今一番売れている問題集の一つになっています。

生活の中に見られる四則演算の数的体験を、できる限り具体物に即して考え、その結果を最後に数式で表現し、数式の意味を捉えさせながら、計算トレーニングを徹底するという方法こそ、幼小一貫教育の一つのあり方だと思います。小学校で学ぶ内容を、易しくして幼児期の子どもにさせるのではなく、幼児期の子どもたちには、具体の世界を充実させ、そこでの数的体験を数式化していく指導が必要です。その意味で、幼児期の子どもたちは、かけ算やわり算につながる経験はすでに必要に応じて行っているわけですから、1年でたし算・ひき算、2年でかけ算、3年でわり算という、計算の難易度に応じて、四則演算の学習に3年間も費やすというバカげたことをやっているのです。しかもその結果、計算ができても次のような問いかけに答えられない小学校3年生が大量に生まれているのです。

次のような式になるお話を、イチゴを題材にしてつくってみてください。
(1) 6+2
(2) 6-2
(3) 6×2
(4) 6÷2

同じ数字を使って、四則演算の意味の違いをとらえさせる簡単な問題ですが、こぐま会ではこの内容を、就学準備の講座(年長1月~3月)で、行っています。この4つの式のいがが理解できれば、あとは、数式を使った計算を徹底してトレーニングし、いろいろな文章題を解く練習をして行けばよいのです。

こうしたことを考える時、私たちが開発した年長児向けの数のプログラムを、小学校1年生にも最初の導入としてさせるべきだと考えています。その内容は、

(1) 分類
(2) 分類計数
(3) 同数発見
(4) 10までの数の構成
(5) 一対一対応
(6) 数の等分
(7) 一対多対応
(8) 包含除
(9) 数の増減
(10) 交換
(11) 数のやりとり

すべて生活場面を再現し、具体物を使って操作させ、そののち暗算で行うよう組み立てられています。

こうした経験を踏まえて、数字の世界・数式の世界に導けば、算数嫌いな子はなくなっていくはずです。おはじきや具体物を使った数の操作を行わないで、すぐに数字の世界に呼び込んだらどうなるか、容易に想像できると思います。

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