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週刊こぐま通信
「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」

何を学習課題にするか KUNOメソッドの実践(1) 未測量

第31号 2014/12/16(Tue)
こぐま会代表  久野 泰可
 これまで、「日本の幼児教育が危ない」と題し、幼児教育をめぐるさまざまな動きに対してコメントしてきました。その中で「理念なき幼児教育・内容議論のない改革は失敗する」ということを主張し続けてきました。批判するのは簡単です。しかし、それに代わる内容・方法を提示しなければ発言する資格もありません。そこでこれから数回にわたり、「どんな理念」「どんな教育内容」が必要なのか、私が40年間実践してきた「KUNOメソッド」をご紹介します。第1回目は「未測量」の学習内容です。

「未測量」という表現は、おそらく辞書にはない言葉だと思います。数学者である遠山啓氏が、「歩きはじめの算数」の中で述べたのが最初ではないかと思います。「未だ測ってない量」という意味ですから、「何センチ」「何グラム」「何リットル」といった単位のつく前の量と考えればよいと思います。つまり、大きさ・多さ・長さ・重さといった生活に身近な量を使って、「量の相対化」や「量の系列化」を学習するというものです。この考え方の背景には、「量を土台とした数教育を・・・」という遠山氏の考え方があります。あの有名な「水道方式」の中から生まれた「タイル」は、量を土台にした数教育の考え方が結実した教材です。

この「未測量」では、大きさ・多さ・長さ・重さの4つの量を学習対象とします。それぞれの量にはその特性がありますが、学習する視点は共通しています。

1. 比較する方法を身につける
2. 比較する言葉を身につける
3. たくさんある中から、最大量(最小量)を探す
4. 量の相対的な見方を身につける
5. 量の系列化を身につける

こうした量の学習の中の最大の課題は、「量の系列化」です。例えば、大きさであれば、「大きい方から何番目」、「小さい方から何番目」、「大きい順に並べる」、「小さい順に並べる」といった課題ですが、この量の系列化の学習は、数概念の形成に深くかかわっています。数の概念は、「集合数」と「順序数」の考え方に支えられていますが、量の系列化は、順序数の考え方の基礎を形づくっています。また、この学習を通して身につけるものの考え方には、「視点を変えてものを見る」という大事な課題も含まれています。それは、同じものを大きい方から見て何番目とも言えるし、小さい方から見て何番目とも言えます。「~番目に大きいものは同時に~番目に小さい」というものの見方は、視点を変えてものを見る大事な経験です。

また、もう一つ大事な課題があります。それは、「量の相対的な見方」です。A<B<Cの場合、Bの存在は、「Aよりは大きいけれどCよりは小さい」という存在であり、絶対的な存在ではありません。比べる対象によってより大きかったり、より小さかったりする存在であるということです。この相対的なものの見方も、視点を変えてものを見る見方の一つであり、このように量の学習を通して、「論理」の学習をしているのです。比較したり、ものごとを相対的に見たり、ものごとを順序づけたり・・・こうした学習を通して、「考える力」の基礎を学んでいるのです。

具体的な授業内容を紹介しましょう。未測量で最初に学ぶ、「大きさ・多さの学習」では、次のような内容で行っています。

未測量1 「大きさ・多さくらべ」
さまざまな量を比較する方法や、量の相対化・系列化を学び、数概念の基礎である順序数の考え方を身につける。

1. 多さくらべ(相対化・系列化)
a. 2つの違う容器に入った水の量を比較する方法を考える。
b. 6つのビンに入ったジュースを、多い順や少ない順に並べる。並べたあと、1番多いジュース、3番目に多いジュースはどれかなどを、みんなでさがす。
c. コップにジュースの入った絵が描かれたカード7枚を多い順・少ない順に並べ、その中から「~よりも多いジュース」「~よりも少ないジュース」をさがす。

2.大きさくらべ(相対化・系列化)
a. 10段階の円柱コップを使って、タワーをつくる。
b. 積まれたタワーを見て、「1番大きいコップは何色ですか」「1番小さいコップは何色ですか」「~より大きいコップはいくつありますか」「~より小さいコップはいくつありますか」などの質問に答える。
c. 大きい順にコップを収納し、箱にしまう。
d. 大きさの違いを描いて表す。
d-1) 大きさの違う2つの三角を描く
d-2) 大きさの違う3つの四角を描く
d-3) ~より大きい丸を描く
~より小さい丸を描く
~より大きくて~より小さい丸を描く
d-4) 大きさの違う5つの丸を描く

具体物を使い、カードを使い、ペーパーを使って学習する、3段階学習法を採用しています。子どもたちの生活経験をベースに、具体的な思考から抽象的な思考に導くために、どうしても3段階の学習は必要です。ペーパーのみの教育がはびこる今の状況は決して好ましいものではありません。事物教育を中心とした方法で、「自ら考える力」を育てるべきです。それはまた、「読み・書き・計算」の教え込み教育に代わる、新しい教育法になると確信しています。

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