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週刊こぐま通信
「行動観察だより」

広がるコミュニティ

第12回 2013/3/1(Fri)
こぐま会教務部長 廣瀬 亜利子
 今週は、4週間に1回のペースで行う「自由あそび」の日でした。遊び道具は前回と同じつみ木、ボーリング、輪投げ、絵本、ぬいぐるみで、自分の好きなコーナーで自由に遊ぶというものでした。今回、3回目の「自由あそび」でしたが、また一段と成長した子どもたちの姿を見ることができました。それは特に各コーナーでの子どもたちの会話から感じました。
まず一番大きいつみ木グループの会話が、自然に私の耳に入ってきました :

「何作る?」
「ん~、お城はどう?」
「え?お風呂?」
「ちがうよ!お風呂じゃないよ、お・し・ろ。」
「あ~、お城ね。」
「でもお風呂もいいね。このクマのお風呂とかどう?」
「温泉にする?」
「いやだよ!そんなの。お城がいい!」
「私たちのお城を作っておうちごっこしない?」
「うん、うん、いいねぇ~。」
「じゃあ、お城をまず作るね?」
「うん、いいよー!」
「じゃあ、材料を集めようか、ここにね。」

と言って、この会話に参加していた7人の子どもたちは、箱の中に入っていたつみ木を1個ずつせっせとそばにあったホワイトボードの両脚と壁との間にできた囲いの中に運び込みました。箱から直接つみ木を取り出してお城を作れば良いのに、わざわざ別の場所に運び込んで、それから改めてお城の「建設現場」に持っていくという発想がユニークだなぁと思いながら見ていました。

「どうする、この丸いのは?」
「ここに乗せたら?」
「ここもう少し高くしない?」
「そっちばっかり高いのはおかしいよ!」
「でもお城っぽく見えてきたからいいんじゃない?」
「そうだよ!ぜんぜん変じゃないじゃない!」
「そろそろおうちごっこを始めたいんだけど、私は。」
「私に何になってほしいの?」
「お姉さんでどう? 私はおかあさんでいい?」
「いいよ。だったら私もおねえさんがいい。」
「私も!」「私も」「私も」「私も」

結局この家族構成はおかあさんと6人姉妹ということになったようでした。
おかあさんは娘たちを集めて声をかけました。

「そろそろ町に買いものに出かけてきてくれる?」
「何を買うの?」
「これはいいなと思うもの何でもいいから買ってきて。」
「何かほしいものある?」

「カメラだけは絶対に買ってきて。」
「わかった。」
「お金渡すからみんな集まってちょうだい。」
「すごいお金だね!」
「落とさないようにね。」
「行ってきま~す。」
と言って、娘たちは町に出かけて行きました。しばらくすると娘の1人が違う大きさのつみ木を2個重ねて持ってきて、
「はい、カメラ。」
「よく買えたね!ありがとう。ご飯の支度をしておいたわよ。みんな、ご飯を食べなさい。」
「私も作るの手伝いたかったのに、勝手にご飯作ってずるいよ!」

私はそこからボーリンググループを覗きに行きました。ここでは4人グループがボーリングゲームを楽しんでいたのですが、その中の誰よりも楽しそうにしていたAちゃんは、実際にボールを投げることは1回もなく、ただひたすら倒れたピンをさっさと並べ直すことを楽しんでいたようでした。そして、お友だちが投げる度に「惜しかったね!もう1回投げてみたら?待っててね!」と言って、相手の反応を待たずにさっさとピンを並べ直しました。「はい、どうぞ!投げて!がんばってね!」「やったー!」全部のピンが倒れると、まるで自分のことのように心の底から喜んでいる様子が伝わってきました。まだ幼い子どもなのに、自分のことは置いておいて、他人の成功をこんなに喜べるとはすごいなぁと思いました。なるほど、その子には弟がいます。おそらくその子は、お姉ちゃまとしての自覚が芽生え、いつも弟のために何かしてあげることの喜びを知ったのでしょう。
一方、ゲームを楽しんでいた子どもたち3人もしきりに「並べるの替わるからAちゃんも投げたら?」と、Aちゃんを気遣っていました。自由遊びを行う度に、前回と比べて明らかな成長が見られます。
輪投げグループの3人からも、お互いを配慮し合う気持ちがはっきり伝わってきました。1個も入らないときは、「もう1回やっていいよ。」とお友だちに優しく声をかけ合っている光景が印象的でした。まだこのクラスが始まって間もない頃は、このような配慮はとても期待できなかったのに、たった3か月で皆大きく成長したからです。

先ほどのつみ木グループに戻ると、メンバーがさらに10人に増えていました。そしていつの間にか「ごっこ遊び」の内容も変わっていて、「歯医者さんごっこ」が行われていました。

クマのぬいぐるみがつみ木で作られた診察台に寝かされていました :

「先生、この子が虫歯で歯が痛いと言ってさっきから泣いています。」
「じゃあ、まず誰か、大急ぎで望遠鏡!望遠鏡を大急ぎで買ってきて!」
「ハイ!」 「望遠鏡です!」と誰かが持ってきた長細いつみ木を受け取った歯医者さんは、
クマさんの口の中を望遠鏡で覗き込みました。
「わー!大変!虫歯のばい菌がどんどんすごい勢いで増えています。どんどん増えているよ、大変だ!」
「じゃあ、私がお薬を作ってあげる。」
「私は冷えピタ貼ってあげる。」
「ばい菌がたくさんだからライトが必要ね。私がライトを持っているから、先生、もう一度望遠鏡で見てください。」
「どうですか?よく見えますか?」
「わー!さっきよりもっとたくさんばい菌だあ!」
「お薬できました。」
「じゃあ、お薬を口の中に流すよー。」
「間に合わないから、ジャーっと流さないと!」
「あー、よかったぁ。間に合ったね!」
「ばい菌はいなくなったね!バンザーイ!」
「よかったね。」

と言って「歯医者さんごっこ」はハッピーエンドで終わりました。このつみ木グループの子たちの会話は、初めから終わりまで聞いていて思わず笑ってしまうほどおもしろいものでした。話している内容がとにかくおもしろかったのですが、その言葉の一言一言が、台本によるものでなく、そこに参加していた子どもたち全員によって自然に生まれたことばであったからおもしろかったのだと思います。今回子どもたちの会話をここに再現したかったのは、会話が、そこに参加していたうちの限られた数人によるものではなく、全員によるものだったからです。耳から聞いているだけでも無意識のうちに思わず聞き入ってしまうほど会話の運びがリズミカルでテンポが速かったのですが、それも2人の間での会話というならあり得る運びかもしれませんが、そこに参加していた子どもたち7人~10人が100%「素」になり、完全にその遊びの中に入り込み、心がひとつにならずにはこのような会話は生まれてこないでしょう。その会話を聞いていた私は一人で笑っていましたが、当の本人たちは真剣そのものの表情で会話しながら遊んでいました。そういう姿は無邪気で子どもらしく、本当に愛おしく思えました。そして何よりも感動したのは、もともとそこには参加していなかった子が他から移ってきたとき、ちょっとフラッと立ち寄ったとき、その輪の中に自然に受け入れてもらえるという空気をはっきり感じることができたということです。出入り自由で、お互いの存在を意識し合いながらも不必要に束縛しない、しかもそこは常にひとつの大きな輪という、まさに理想的なコミュニティができあがっていたのです。
また、つみ木グループだけではなく、ボーリングも輪投げも、それぞれのグループでしっかりと意思伝達という意味でのコミュニケーションを取ることができていました。もはや自己主張しすぎる子どもは見当たらず、誰かが言った意見について、まず耳を傾けることができてきたこと、その上で反対は反対、賛成は賛成と、明確に自分の意思を伝えることもできるようになってきた点に大きく成長を感じました。

一般的には、年齢からいってもまだ「集団活動」にさほど慣れていない子たちのはずです。
2~3人であれば多少なりとも自由に会話できたり関わり合うことができる年齢の子たちなのです。このクラスの子どもたちもはじめは皆ほとんど一匹オオカミでした。が、このように毎回いろいろな集団活動を経験し、そこでのお友だちとの関わりややりとりを重ねる度に、少しずつ自分以外の存在に対する意識が芽生え、会話が生まれ、その輪が徐々に大きくなっても自然に会話し、コミュニケーションを図ることができるようになってきました。
1年前の今頃皆がゆりクラスだったころ、10人の子どもたちがつみ木を囲んで個々に黙々とお城作りをして、10個の小さいお城ができました。
あの日の光景が今では懐かしくさえ思います。

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