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週刊こぐま通信
「行動観察だより」

ことばで表現する

第7回 2013/1/29(Tue)
こぐま会 廣瀬 亜利子
 毎週金曜日に更新している「行動観察だより」ですが、授業終了の後発熱し更新することができませんでした。ようやく復活しましたので、先週の授業の報告をさせていただきます。

この日は「お話作りと伝言ゲーム」を中心に活動を行いました。前回は、自分の気持ちを絵に描いて表現することがテーマで、冬休みの楽しかった思い出の絵を描いてもらいましたが、今回は、「言葉で自分の気持ちや意見などを表現する」がテーマでした。

言葉で表現することについては、もともと話すことが大好きで、語彙も豊富で、的確なことばを使って立派に表現できる子もいれば、話すことが大の苦手で、心の中では自分の意見を持っているもののどうしてもことばに表すことができない子もいて、両者の間の差はとても大きいように思います。それは生まれ持った性格の違いも一因を担っていることは明らかだと思いますが、それだけではなく、その子の置かれた生活環境や家族構成などもその「差」の原因を作っているように思います。しかし、少なくとも私のクラスの子どもたちは、たとえどんな環境にあっても、ことばでしっかりと表現できるようになってほしいと強く願っています。これから先、長い学校生活を送る上で、そしてその後、社会人として、人と人が関わり合う上で「言葉による意思の伝達」は絶対的に必要不可欠な要素だからです。
入試における行動観察テストの中で、コミュニケーション力が求められていることは周知の事実ですが、やはり「ことばによるコミュニケーション力」も合わせて求められている要素であることは否めないでしょう。

ことばで表すことが苦手な子どもにとって、それを克服することはそう容易なことではないでしょう。逆に話すことはとても上手ではあるけれど聞くことができない子、人の話には耳を傾けず自己主張ばかりしている子にとって、人の話に耳を傾けることができるようになるのはもっと難しいかもしれません。いずれの場合も、行動観察クラスの1年間の中でいろいろな活動を経験し、いろいろな場面に接しているうちに、少しずつ変わっていくであろうと確信しています。その課題に向けて訓練して矯正していくのではなく、あくまでも子ども同士で関わり合っているうちに、自然に意識が芽生え克服することができるのだと思います。

今回は、「ことばで表現する」がテーマでしたが、「ことばによるコミュニケーション力を高めること」が私の意識の中で、その延長線上にあります。そのために、日本語として、純粋に言語として、いかに正しく表現できるかが何よりもまず第一に重要と考え、活動内容も「お話作り」「問題解決」「伝言ゲーム」というような、「コミュニケーション寄り」ではなく、「日本語として正しく伝達すること」にあえて焦点を絞り込みました。

はじめに、子どもが名詞の絵カードを1枚くじ引きし、その言葉を使って短い文を作って発表してもらいました。
箱の中には、トラ、ネコ、花、ケーキ、木、アイロン、タオル、コップ、etc. など、あらゆる種類の絵カードが40枚入っていて、たまたま引き当てたことばを使って文を作らなければいけないので、好きなカードを選んで作るのに比べて、作りにくかったり、なかなか思い浮かばなかったりもしがちでした。が、皆一生懸命考えて、とても上手な文を作ることができました :
「リンゴ」 - 「木にリンゴがたくさんついていました。太郎君はリンゴを5個切り落としておばあちゃまに持って行ってあげました。」
「アイロン」 - 「花子さんは幼稚園のお友だちのお誕生日に呼ばれました。ブラウスにお着替えしようと思ったらしわがついていたのでお母さんにアイロンをかけてもらいました。」
「ライオン」 - 「動物園にライオンがいました。赤ちゃんライオンもいました。みんなでいっしょにお昼寝していました。」

一人ずつ前に出てきて発表してもらったのですが、全員しっかりと発表できました。
うち3人の子については特に印象的でした。行動観察クラス1回目の時点では、とても今日のようなことができるとは想像できないほど引っ込み思案だった子たちでした。それが、たった7回目にして、3人ともすでに大きく変化し、もはや「引っ込み思案」という要素はいつの間にか、全くと言ってよいほど見られませんでした。むしろ言葉の使い方もとてもしっかりしていて話も上手でした。その子たちの発表する姿を見て、私としても大変喜ばしく思いました。

続いて、動詞のカードを使って、先ほどと同じ方法で、一人ずつ短文を作ってもらいました。皆、いくつもいくつも作りたがりましたが、時間の関係で、やむなく2つ止まりでした。おなかいっぱいにするのではなく、いつもの「腹8分目作戦」です。

次に、「問題解決」を行いました。題目は「お母さまがもし高熱で寝込んでしまったら幼稚園(保育園)をどうするか?」「何をして遊ぶかお友だちと意見が割れてけんかになってしまったらどうするか?」の2つでした。端から順番に一人ずつ強制的に言わせるのではなく、思いついたら手を挙げて意見を述べるというフリートークの形式で行いました。
「ハイ!」「ハイ!」「ハイ!」「ハ~イ!」ほとんどの子どもの手が一斉に上がり、皆次々と積極的に意見を述べることができました。
「お母さまが熱で寝込んでしまったら?」の質問に対して「幼稚園(保育園)を休む」「パパに連れて行ってもらう」が主な回答でしたが、中には「冷えピタを貼って熱を下げる」「ママの銀行カードを持ってお金を出してきて薬屋さんでお薬を買ってきて飲ませる。そして熱が下がったら幼稚園に連れていってもらう。」というような、とても個性的な意見も出てきてとても面白かったです。子どもたちは、やっぱり何気に母親の姿を常に見て育っていくのだな、と改めて「母と子の絆の強さ」を垣間見たようで、微笑ましく思いました。

最後に「伝言ゲーム」をしました。4~5人でグループを作り、縦1列に並んで先頭の子は私から伝えられた文を聞こえた通り後ろの人に伝え、最後尾の人は前の人から聞き取った通りを発表する、というように、一般的なルールに従って行いました。私からの伝言は、
「ネコがソファで昼寝をしています。」というごく単純なものからスタートし、最後は「花子さんが昨日、八百屋でトマトを買いました。」というように、「いつ」と「どこで」という修飾語が付け加わったやや複雑なものへと発展しました。

伝言ゲームの活動意図は、「自分が聞き取ったことを聞き取った通りに次に伝えること」にあります。結果が正しかったかどうかは全く問題なく、むしろ人から人へと伝言しているうちにちょっとずつ変わっていってしまうこと、そこにこのゲームの面白さがあるのですが、子どもによっては「正しくないといけないのではないか?」と心配になってしまい、後ろの人に伝達できずに滞ってしまう光景も見られました。「これは途中で変わってしまうところがおもしろいのだから、心配せずに、前の人から言われた通り後ろの人に言えばいいのよ。正しく言う練習ではなくて、聞こえた通り言う練習だからね。」と何度も説明しているうちにだんだん心配が薄れてきたようでした。全体的には例年に比べて滞りが少なく、比較的スムーズに進みました。
ちなみに、最後の「花子さんが昨日、八百屋でトマトを買いました。」ですが、
ひとつのグループはパーフェクト! もう一つのグループは「トマト」が「トンボ」に変わっていました。そしてもう一つのグループは「お母さんは昨日お花を買いました。」に変わっていて皆で大爆笑でした!このゲームは、決して深刻にならず、明るく笑い飛ばすぐらいの気持ちで臨めば結構楽しめると思います。

今回取り組んだ「お話作り」「問題解決」「伝言ゲーム」という3つの課題のいずれにおいても、自分自身に対してブレーキがかかってしまうと、ことばで表すことがしにくくなってしまうものです。練習の場である行動観察クラスに身を置いている子どもたちが、緊張しないで自分の「素」を出せるよう配慮すること、不安な気持ちを抱くことなくリラックスして活動に取り組める環境作りを心がけることが、私に与えられた必要最低限の課題だと思っております。

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