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週刊こぐま通信
「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」

新しい教育の担い手・人材育成の難しさ

第23号 2014/8/26(Tue)
こぐま会代表  久野 泰可
 40年以上、幼児教育の現場に身を置いてきた立場から見ると、今はある種の幼児教育ブームの時代のように思います。さまざまな視点から幼児教育の重要性が指摘され、地方自治体のみならず国家レベルにおいても、これからさまざまな試みが行われていくはずです。やはり、OECD保育白書の影響が大きいと思われます。すなわち、「幼児教育・保育への投資が社会全体にもたらす経済効果は、その後の就学期、就学後への投資よりはるかに大きい」という、ノーベル経済学受賞者のシカゴ大学J.ヘックマン教授の考え方がその根底にあります。しかし、政治がらみの改革は、必要性が議論されても、実行されるまでには相当の時間を必要とします。特に、保育内容の変革には相当時間がかかるはずです。

私たちのような民間の教育機関においても、これまでさまざまな試みが行われてきました。その中には、子どもたちに1日も早く実施してほしい、素晴らしい教育実践も数多くあります。しかし、民間の教育機関の実践は、時として「色眼鏡」をかけて見られるため、どんなに素晴らしい成果を上げても、それが一般化していくためには、いくつもの壁を乗り越えていかなければなりません。この40年間、ことあるたびに、「幼児期の正しい知育の在り方」を幼稚園や保育園の関係者に訴えても、以前はあまり良い反応は得られませんでした。「知育」は小学校からで良いという考え方が根強く残っていたからです。しかし最近は、そうした場で「幼児期の基礎教育」の重要性を伝えると、とても感心を持ち、興味を示していただけるようになりました。昔のように、特別な英才教育ではなく、将来の学習の基礎をつくるための幼児教育として、ごく自然に受け止めてもらえるようになりました。

しかし、ここでも問題があります。考え方に共鳴してもらっても、それを日常の保育活動に導入するには、やはり大きな壁が立ちはだかっています。何よりも、現場での実践を支える保育者の皆さまの理解が得られないと、園長や理事長がいかにその重要さを認識しても、実際の保育活動に取り入れられて行くのは難しいようです。日本の幼児教育に新しい風が吹くには、まだ多くの困難が待ち受けています。その最大の壁は、やはり「人材育成」という点だと思います。教員養成の段階から、新しい幼児教育理念が徹底されなければ、現場は変わりようもありません。「子どもをどうとらえるか」「幼児期の基礎教育の内容をどう定めるか」「幼児期の教育方法をどうするか」・・・そのすべてにおいて、従来の考え方を総点検し、変えるべきところを変えていくという柔軟な発想がなくては、新しい考えの教育は浸透していかないでしょう。

民間でどんなに素晴らしい実践をしても、それが公の幼稚園や保育園で取り上げてもらえなかったら、日本の幼児教育は少しも変わりません。そのためには、行政による強制的な改革ではなく、子どもたちのいる現場で、そこに携わる人たちの考え方が変わらない限り、従来の「自由保育」「遊び保育」のみの保育は変わっていかないでしょう。今、多くの幼稚園や保育園で課外活動として行われている「新しい試み」が、正課にきちんと取り上げられていくことによってしか、現場は変わらないでしょう。その意味でも、園長はじめ現場に関わる実践者の皆さまの奮闘に期待するしかありません。

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