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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

小学校における図形教育のあり方

第627号 2018年6月1日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 試験が終わり、この4月から小学校に入学した子どもたちを対象とした、幼小一貫「こぐま会小学部」の算数授業が新しく始まりました。小学校に入ったとたん、教科書の範疇で行ってきたこれまでの小学部の算数と違い、KUNOメソッドの考え方による幼児期と小学低学年の授業を連続して行うという考え方での授業です。

こぐま会のKUNOメソッドでは、6領域を設けて幼児期の基礎教育を行っていますが、特に小学校以降の算数科につながる内容として、「未測量」を踏まえた「数」の授業、それに、「位置表象」(空間認識)を踏まえた「図形」の学習を行っています。私たちは、小学校で行う教科学習を易しく薄めて下ろすという指導は行いません。子どもたちの生活や遊びで経験することの中から将来の学習につながる内容を、「事物教育」と「対話教育」で実践してきました。

子どもたちの生活や遊びの中にすべての学習の基礎があると考え、教室で再現しながら教科へのつながりを考えた授業を行っています。特に算数科につながる「数」「図形」に関しては、将来の学習の基礎が何であるかを明確にし、ものごとに働きかけながら、考える力を育てる授業づくりに集中してきました。その内容は、単に小学校1年生の内容につながるものだけでなく、2年、3年先の学習にもつながるものを多く含んでいます。


幼児期の学習内容の中で子どもたちが一番興味を示すのは、図形領域の学習です。粘土・折り紙・パズル・つみ木といった、遊びの中で使われる素材が多く、その素材を生かした授業は、子どもたちにとって一番興味が持てる内容のようです。これだけ豊富な素材が幼児期の子どもたちの周りにたくさんあるにもかかわらず、小学校ではほとんど使われていないのが現状です。それはどうしてでしょうか。図形教育の目的がそもそも違う方向を向いているからにほかなりません。小学校の図形教育は、端的に言えば、図形の知識を持たせることが目的のようです。それぞれの図形を構成する要素、例えば辺の長さであったり角の数や角度であったり、図形の持つ性質をそうした視点でまとめ、それを知識として持たせることが指導の基本のように感じられます。私たちは、幼児期の図形教育は図形を知識として教えるのではなく、図形感覚を育てることを目的にすべきだと考え実践してきました。その図形感覚が、将来、図形問題を解く際に、例えばどこに補助線を入れたら解決するのかといった場面で生かせるのではないかと考えているからです。面積にしても、体積にしても、複雑なものは図形感覚が豊かでなければなかなか解けません。高学年のそうした難しい図形問題を解くためには、たくさんの知識を持たせるのではなく、鋭い図形感覚を持たせることのほうがどれだけ意味のあることか・・・そう考えると、小学校に入っても、粘土・折り紙・パズル・つみ木などの素材を使うことは、意味のあることだと思います。実際、図形感覚を育てるための研究や実践も行われており、折り紙やパターンブロックを使った研究授業も行われているようですし、改定された新しい指導要領では、「図形感覚を育てる」ということも強調されています。しかし、そうした「感覚を育てる」図形教育はどこまで浸透しているか疑問です。図形教育が「知識教育」になってしまっていては、図形感覚を育てることはできません。

楽しかったはずの図形学習が、小学校の学習になったとたん、おもしろくないといって苦手意識を持つのは、幼児期からの経験の積み上げを取り込んでいないところに大きな原因があるように思います。そんな状況の中で、先日行った小学校1年生の最初の図形授業は、「三角パズル」を使って行いました。

  • 三角パズル6枚を使って左上の形を作ってください。この形からパズルを1枚ずつ動かして次の形を作っていってください。

この授業は、年長児のばらクラスでも行ってきたものです。こぐま会では「山手線ゲーム」といっているもので、三角パズル6枚を使い、1枚ずつ移動させて形を変えていくというものです。年長児のときは4枚を基本に行ってきましたが、今回はやや難しくして6枚でやってみました。変わった部分と変わらない部分を把握し、どの1枚を動かせばできるかどうかを考える課題です。子どもたちがとても興味を示す内容ですが、こうした活動の後、ペーパー教材を使っていろいろな形の三角形を示します。三角形といってもいろいろな特徴があるため、共通しているものは何かなどを問いかけると、「3つの辺の長さが等しい」とか、「2つだけ辺の長さが同じ」といったような、正三角形や二等辺三角形の特徴に自ら気づいているようでした。最初からそれぞれの三角形の特徴を教え込むのではなく、似たような三角形の共通性を言語化させることを通して、三角形の特徴や種類に気づいていってくれればいいと思います。

  • いろいろな三角がありますね。どこが似ていて、どこが違いますか?
    また、同じ番号のついた三角はどこが似ていますか?

物に触れ、働きかけ、問題を解決していくプロセスは、幼児のときと同じように大事にしてあげなくてはなりません。上から下への改革ではなく、下から上への改革ができれば、幼小一貫教育の意味がますます大きくなると確信しています。図形教育においては、何よりも「図形感覚を育てる」ことを目的とした実践を積み上げていかなければなりません。新しい教科書づくりのためにも、現場での挑戦はまだまだ続きます。


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