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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼稚園での講演会

第628号 2018年6月8日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 6月3日に大阪市東住吉区にある学校法人 大阪慈光学園 中野幼稚園において、日曜参観行事の一つとして私の講演会を組んでいただき、「大切な幼児期に何をどう学ぶか」と題したお話をさせていただきました。昨年8月下旬に行われた「教師のための地域研修会」で、私の行った授業と講演にご賛同いただいた園長先生から、「来年6月3日に講演会をしていただけないか」と要請を受け、実現したわけです。10時半頃まで各クラスで授業参観をされた100名以上の保護者の皆さまに講堂にお集りいただき、園長先生のお話の後、幼児期の基礎教育のあり方について、1時間ほどお話しいたしました。

幼稚園の保護者の皆さまに向けた講演ですから、どんなお話をすればいいのかを事前に園長先生にご相談し、KUNOメソッドというよりも私の経験を踏まえて「大切な幼児期に何をどう学ぶのか」・・・特にご家庭でどんな経験を積み、「考える力」をどのように育てたらよいのかを10の思考法としてまとめ、お伝えしました。園長先生から、「どうしてもペーパー中心の家庭学習になりがちなので、ペーパー学習の前に大切なことがたくさんあるということをぜひお伝えいただきたい」というご希望をいただいておりましたので、できるだけ具体的に、「考える力」を育てるために大切な事物教育のあり方をお伝えしました。最後に、私が年長児のクラスで行っている授業の様子を映像でご覧いただきました。実際の雰囲気が伝わりやすいのではないかという想いで、講演会の最後にはいつもこうした映像を流しています。

最近、幼稚園や子ども園から講演依頼を多くいただくのは、やはりこれまでの遊び保育ではいけないという考え方が、幼児教育の現場に浸透してきている証拠ではないかと思います。新しい指導方針の中でも、「小学校とのつながりを意識した指導」が強調されており、各園で何をどう指導したらよいのかの模索が始まっているのではないかと思います。幼児教育の大切さが強調されても、何をどう学べば良いのかの蓄積がないため、どうしても従来の教育の流れを汲んで、知識を教えることが教育だという考え方が根強くあります。その結果、ペーパーだけを使った知識の教え込みや、読み・書き・計算に偏りがちな教育が盛んに行われているようです。アクティブ・ラーニングの必要性が言われ、また非認知能力の重要性がうたわれている現在、何かを教える教育ではなく、子ども自らが考える力をどう身につけるかを考えた教育が必要です。そのためには、幼児教育に対する明確な理念が必要です。私たちが指導の現場から積み上げてきた「教科前基礎教育」「事物教育」「対話教育」の実践こそが、そうした要請に応えられるものだと考えています。これまでの教育に対するイメージを一度壊し、子どものいる現場から発想しないと、時代の要請に応えうる新しい教育法は生み出せません。遊び保育のよさを生かしながら、将来の教科学習につなげるとしたら、私たちの提唱する3つの理念に必ず行きつくはずです。あとは、年齢に応じた具体的な教育内容を、実践を通して積み上げていくしかありません。これまで敬遠されてきた「幼児期における正しい知育のあり方」が、やっと活発に議論される時が来たのではないかと期待しています。

今回の講演会でお伝えした「10の思考法」については、指導の現場でもう少し時間をかけてたくさんの事例を積み上げ、いずれまとめて発表することになると思います。実践を積み上げれば、年齢による縦のつながりや指導領域による横のつながりが見えてくるはずです。そうすれば、1枚のペーパーで何を学ぶのかの目的がはっきりしてきます。領域ごとの課題の出来不出来に関心が集まりすぎると、そのペーパーができなければ形を教え込む結果になってしまいます。これでは子どもの考える力は育ちません。今、目の前にあるペーパーができたかできないかではなく、このペーパーを通してどんな思考法を育てるのかが明確になれば、1枚のペーパーを使っていろいろな視点からの問いかけが可能になり、もっと深く学ぶことができるようになるはずです。ぜひこのように考えて、家庭学習に臨んでいただきたいと思います。そうした意味でも、「10の思考法」は大事な視点だと思います。私たちもこれまでの実践を違う視点で見直し、KUNOメソッドを補完する新しい視点の導入として完成させていくつもりです。

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