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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

就学準備のクラスが始まりました

第607号 2018年1月12日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 昨年12月末で、国立附属小学校の入試が終了し、これをもって2018年度の私立・国立附属小学校の入試は終了しました。年長児の皆さまは、きっと昨年とは違ったお正月を過ごしたことと思います。学習することが日常生活化した子どもたちは、入試が終わっても以前と同じようなリズムで学習していると聞きます。とても良いことですし、学習することの楽しさを知ったことは、小学校入試に取り組んできたひとつの成果だと思います。これから入学式を迎える4月まで、これまでの経験を生かし、継続的に「学び」の場を持ち続けてください。

「教科前基礎教育」を指導理念に掲げてきた「こぐま会」では、これから入学までの3カ月間がとても大事な時期だと考えています。それは、こぐま会の会員クラスの内容を支える「KUNOメソッド」の考え方のひとつに、「幼小一貫教育」があるからです。つまり、幼児期に学んだことを、小学校の内容にスムーズにつなげていく「橋渡しの教育」が必要だということです。そのことは、逆に言えば教科学習の内容を薄めて下ろし、幼児期の教育課題にすることはしないということの表明でもあります。教科学習に入る前の基礎教育は、生活や遊びにテーマを求め、事物に働きかけながら学習するべきです。知識を与えるのではなく、普段経験している遊びや生活の中で、子どもたち自身が必要に応じて学んでいるという事実を自覚させ、その経験を生かして概念化や抽象思考に導く・・・という手法です。たとえば、数の学習においては、これまで一度も数字や数式を使った学習はしていません。四則演算の場面を生活の中から見つけ出し、具体物を使ったり、お話を通して考えていくような学習を積み上げてきました。小学校の入学試験でも同じような形で出されているからこそ、基礎教育をしっかりしておけば入試の対策にもなると言ってきたわけです。その入試も終わり、4月から1年生になる子どもたちに、これまでの学習とのつなぎを無視し、教科書的な数字の世界に子どもたちを無理やり引きずり込み、具体的な生活場面から離れた計算をいくら繰り返しても、積み上げてきた数的体験を生かして数学的な思考を深めていくことはできません。これまでの学習を小学校で学ぶ算数科につなげるために行うべきことは、

  1. 数の内面化を促進し、暗算能力を高める
  2. 具体物を使って四則演算の基礎を身に付けてきたこれまでの事物教育の経験を生かし、それを数式に置き換えていく練習をする
  3. 数式から具体的な生活場面での数の変化を考えたり、お話を聞いてそれを式に表す(立式)経験を積む

少なくとも1年間、長い方は2~3年間かけて行ってきた小学校受験準備の成果を無駄にしてはなりません。下から学習を積み上げてきた事実を踏まえると、今になって今度は上から下ろすという発想をしてしまっては、教える教師にとっては楽なことですが、それでは意味がありません。あくまでも、これまで学習してきた内容を教科学習にどうつなげるかを考えたカリキュラムが必要です。

私が担当する算数科に限っては、10回のカリキュラムを次のように考えています。

  1. たし算・ひき算って何?
  2. たし算・ひき算の計算法
  3. 隠れた数を探せ(魔法の箱を数式で)
  4. かけ算って何?
  5. わり算って何?
  6. かけ算の答えはどう出すの?
  7. 文章題に強くなる(1) 立式練習
  8. 図形課題(三角形の分割・線対称・展開図)・時計
  9. 文章題に強くなる(2) 数式を見てお話をつくる
  10. 総まとめ

可能な限り、ペーパーだけの学習で終わらせないよう、具体物・おはじき・サイコロ・数カード・等号不等号カードなどを基本教材としてセットにし、それを幼児期の算数のお道具箱として一人一人に渡し、それを操作する学習をまず行ってから、数式を使った数の学習に導きます。

今週行う第1回目の学習は、次のような内容を考えています。

就学準備クラス 算数
第1回「たし算・ひき算って何?」指導内容

1. ばらクラスで学習した数あてゲーム
暗算トレーニング
さいころを使った7の構成(10の構成)など
2. カードゲーム
  1. 数字カードを並べ、2つの数を合わせて8になるようにカードを組み合わせる。できたら、違う組み合わせも考える。
  2. 今度は3つのカードをあわせて10になるように組み合わせを考える。できたら、違う組み合わせも考える。
3. ペーパーを使って
  1. 一対一対応
  2. 数の構成(8の構成)
  3. 数の構成(10の構成)
  4. 数の増減(ばらクラスの復習)
  5. 数字練習
  6. 3つの部屋の数の構成
  7. 3つの部屋の数の合成
  8. たし算 構成・合成(たし算の記号の意味)
  9. たし算とひき算(たし算とひき算の意味)
  10. 話を聞いて式をたてて解く

これまで基礎学習をしてきたからこそできる学習があると考え、それを10回の授業で行うつもりです。かけ算やわり算も扱いますが、それは計算を素早く行う方法を教えるためではなく、一対多対応の考え方をかけ算につなげ、また等しく分けること(等分)や数のまとまりをつくる(包含)ことをわり算につなげるためです。そして、こうしたことを通して四則演算の考え方の違いを知ってもらおうと考えています。過去の経験から、それが必ずできるという確信があるからにほかなりません。1年でたし算ひき算、2年でかけ算、3年でわり算と決められていますが、いったいどんな根拠があってそう決めたのでしょうか。計算の順序や難易度以外に根拠はありません。数学的な思考を育てるという観点に立てば、わり算的な思考を3年先まで先延ばしする理由はどこにもありません。幼児の生活を見渡せば、その中にすべての計算の基礎があるはずで、実際、小学校の入試でもすべての考え方が求められているのです。その点を考えれば、小学校1年生の算数の教科書が、いかに子どもたちの経験と思考の筋道に合っていないか分かるはずです。幼小一貫教育とは、上から知識を教え込むことではなく、子どもたちの生活経験に沿って下から上に積み上げ、つなげていくものです。それを徹底すればするほど、今の教科書の中身を変えていかなければならない・・・と私は考えています。私が「ひとりでとっくん」100冊を作った理由の1つは、こうした内容を小学校の低学年でていねいにやってほしいという想いも込めているからにほかなりません。

今年から、幼稚園教育においても小学校とのつながりを考えた教育内容を現場で考えるように通達が出されています。しかし、何をどうやったらよいのか、依然として明らかにされていません。私たちの実践がその要求に応えられるよう、現場で試行錯誤しながら子どもたちにとって楽しくわかりやすい算数につくり上げていきたいと思っています。教え込みの知識偏重の教育を変えなければならないとしたら、まず小学校1年生の内容に手をつけるべきだと思います。そのスタートが従来と同じような形であれば、結局知識偏重の教育は何も変わらないということになってしまうでしょう。その意味でも今こそ、すべての教育関係者が「幼児期の教育内容を小学校にどうつなげるか」を真剣に考えなければならない時期に来ていると思います。

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