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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

一対多対応の基礎学習

第332号 2012/3/16(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 3月11日(日)に、日常授業の一環としての「ばらクラス特別授業」を各クラス一斉に行いました。そこで行ったのが、かけ算の考え方の基礎になる「一対多対応」の授業です。「一対多対応」という言葉は我々が作った造語で、辞書を引いてもどこにも出てきません。これについては「ひとりでとっくんシリーズ」を作成する際、かけ算の考え方の基礎をどう命名しようか担当者で議論しました。そして、差を求める数の基本操作として、1に対して1が対応する「一対一対応」があるのなら、1に対して2以上が対応するものはひっくるめて「一対多対応」にすればわかりやすい・・・という結論に至ったのです。これをまねした同一名の教材が他社から出ているようですが、これらはまったくのものまねでしかありません。

かけ算は小学校2年生の2学期以降学習するはずです。九九を覚えることはもちろん大事ですが、その前に「かけ算」という計算の持つ意味が、「たし算」や「ひき算」とどう違うのかしっかり身につけておかなくてはなりません。九九ができても文章題が解けないのでは、かけ算が本当に解ったことにはなりません。また、3×4と4×3の違いがわからないのでは困ります。現在の指導において、かけ算は「一あたり量」×「いくつ分」であらわすことができるということを、九九を覚える前に学習するはずです。実はこのことがとても大事で、これが理解できないと文章題の立式の段階で間違えてしまします。この「一あたり量×いくつ分」の学習については、年長児対象の「就学準備クラス」の中で徹底して行いますが、その基礎となる考え方を、今回の「一対多対応」の学習で学びました。

かけ算という計算を、子どもたちの生活や遊びの中にテーマを探すと、一番わかりやすいのは「お客さんごっこ」であるし、入試問題との絡みで考えると「タイヤの数」に注目した問題です。ですから、こぐま会の基本クラスでは、次のようなカリキュラムで授業が行われます。

 1. お客さんごっこ
  1. 5人のお客さんに、コップを1個ずつ、キャラメルを2個ずつ、折り紙を3枚ずつ配るのに必要な数を考え、用意する。
  2. お客さんに配り終えた時点で、あまったり足りなかったりした場合、その数を言う。

 2. 車づくり
タイヤのついていない車両の絵カード(3種類)が見せられる。それぞれの車両(3~5台)を作るには、全部で何個のタイヤが必要かを考える。台数を変えていろいろ行う。
  1. 5台の自転車
  2. 4台の三輪車
  3. 3台の自動車
 3. 袋づくり
  1. 3つの袋に3本ずつ鉛筆を入れるには、全部で何本の鉛筆が必要かを考える。
  2. 12本の鉛筆を3本ずつ袋に入れるには、袋がいくつ必要かを考える。(包含除の考え方)
  3. 全部の鉛筆の数と1袋に入れる鉛筆の数を変えて、いろいろ行う。

 4. ペーパートレーニング

「お客さんごっこ」と「パンクの修理屋さん」の経験を積むと、ペーパー化された問題を解く際に、自分の経験を重ね合わせてイメージしやすくなり、理解が進みます。事物教育が意味をなすのはこの時です。事物に触れ試行錯誤を重ねる中で、物事の本質、問題の解き方が身についていくのです。事物に働きかける経験とワークブックの学習の橋渡しをしてあげるのが、我々教師の役割です。そのつなぎがうまく行けば、その後は子ども本人が問題の解き方も含めいろいろ工夫していくはずです。解き方の形式を教え込む方法と、事物を使った経験を積み上げていく方法との違いは、まったく新しい問題が出された時の対応の違いになって表れてきます。子ども自身が「解き方」を工夫できるような応用学力を身につけるためには、教え込みの教育ではだめなのです。

ところで、かけ算の「一あたり量」を子どもに意識させるために、授業の中で、声を大にして伝えることがあります。それは、「1人分・2人分・・・」であったり「1台分・2台分・・・」の際の「~分」という言い回しです。次の問題を見てください。これは、お客さんごっこを経験させた後、最初に提示する問題です。

ビスケットを1人に2個ずつ配ると、ビスケットはいくついるでしょうか。
そのビスケットの数だけ、下ののなかに青いをかいてください。

この問題は、5人の子どもたちにひとり2個ずつビスケットをあげるには、全部でいくつ必要かという問題です。この問題を子どもたちがどのように解くかよく観察していると2つのパターンが見られます。その一つは、5人の子どもを1人ずつ指で押しながら「1・2」「3・4」・・・と5人目まで数え上げ、10という解答を見つける子です。もう一つは、「ひとり分」と言いながら解答欄にまず2つを書き、次に2人分と言ってまたを2つ書き・・・それを5人分になるまで書き続けて、その作業の結果全体で10個必要だとわかる子です。同じ10という解答を導き出していますし、結果だけを見れば同じですが、まったく違った解き方をしていることがわかります。どちらが正しいという問題ではなく、それ以降の課題を解いていくためにどちらの方が応用が利くかと言えば、明らかに後者の方です。例えば、5人の絵が消えてお話だけで問題が出され、解答欄だけが与えられた場合、前者のやり方ではかなり困難になるし、全体の数が10以上の数になる場合、たとえば「車が5台とまっています。タイヤの数は全部でいくつでしょう」となったらおそらくお手上げだと思います。全体の数が解ってから、おはじきを取ったり、を書いたりするのではなく、全体の数を求めるために、どのような作業を繰り返せば良いかを理解する方が応用が利くのです。「1人分」「2人分」・・・と「一あたり量」の繰り返しを何回行えばよいか・・・・それを理解させることが、「かけ算」の意味を伝えていくために必要です。こうした経験を積んだ子どもたちは、入試終了後に行う「就学準備クラス」で、かけ算の授業をしっかり理解できるようになるのです。そこが理解できれば、後は九九を暗唱するだけです。この4月に小学校に入学する子どもたちの授業は今週で終了しますが、全員かけ算の意味の理解と、九九を言えるようになって(まだすべての段ではありませんが)、入学を迎えます。ばらクラスで行った「一対多対応」の授業を踏まえ、かけ算の理解につなげることができれば、かけ算でつまずく子どもたちは出てこないはずです。たし算の繰り返しのかけ算ではなく、「一あたり量×いくつ分」の考え方を徹底し、かけ算を導入することが大切です。

ところで、最近の数に関する入試問題をみると、明らかに「一対多対応」に関する問題が増えています。先ほどの「お客さんごっこ」や「タイヤに関する問題」だけでなく、生活のさまざまなシーンの中でかけ算の考え方が問われています。その中でも特に難しい「交換」の問題は、たくさんの学校で工夫され、出題されています。何回もこのコラムでも取り上げたと思いますが、あらためて、実際の入試で出された典型的な「交換」の問題をここに紹介しましょう。

 動物村のパン屋さんは次のようにパンを取り替えてくれる。
  • メロンパン1個はドーナツ2個と交換できる
  • 食パン1斤はメロンパン2個と交換できる
  • ハンバーガー1個はメロンパン1個とドーナツ1個と交換できる

 問1. ドーナツ4個は、メロンパン何個と交換できるか
 問2. 食パン2斤は、ドーナツ何個と交換できるか
 問3. ハンバーガー4個は、食パン何斤と交換できるか
(雙葉小学校 入試問題)

絵本1冊と、鉛筆2本、消しゴム4個は、同じ値段です。
花子さんは絵本を2冊買いました。
問:絵本2冊と同じ値段で買えるものが入っているカバンを探して青いをつけてください。
(聖心女子学院初等科 入試問題)

まだたくさんの問題がありますが、この2つは典型的な問題です。この交換の問題についての指導法はあらためてお伝えしますが、基本的な考え方は「一対多対応」の考え方です。また、シーソーにおけるつりあいの問題も、交換の問題と全く同じで、この一対多対応の考え方を応用するのが一番良い方法です。

ネコ1匹とリス3匹は同じ重さでシーソーはつりあいます。ネコが3匹、リスが4匹います。シーソーがつりあうためには、リスは何匹足らないですか。その数だけリスのお部屋にをかいてください。

(光塩女子学院初等科 入試問題)

かけ算の考え方はわり算の考え方と表裏一体の関係にあり、特に、数のまとまりを作る「包含除」の考え方は、この「一対多対応」をしっかり理解すれば間違いなく理解できます。そうした意味で、幼児期における数の学習の中でキーポイントとなるのは、間違いなくこの「一対多対応」の理解であると思います。この考え方を理解すると、数に関する入試問題への対応は一挙に広がります。「複合問題」の多くが、この「一対多対応」と絡んで出題されているからです。

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