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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

数の学習をどう積み上げるか

第331号 2012/3/9(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 1月から始まった合格カレンダー連続講座の第5回目は、「数の学習をどう積み上げるか」というテーマで行いました。幼児期の基礎教育にとって、将来算数科の基礎となる「数の概念」をしっかり身につけ、四則演算の基礎になる考え方を身につけるのは大変重要な課題です。また、小学校の入試においても一番重視されている領域です。昔から言われてきた学力の基礎としての「読み・書き・そろばん」のそろばんの部分ですが、幼児期の数の課題は決して計算力を高めるということではありません。たし算・ひき算の計算問題が入試で出されるわけではありません。集合数の基礎としての「分類」、そして順序数の基礎としての「系列化」・・・・こうした数概念を形成する考え方をしっかり身につけ、その上で生活や遊びの中で見られる数の変化をとらえさせながら、将来の算数科につながる考え方の基礎を身につけることが大事です。そのため入試問題のほとんどが、生活場面の話を聞いて数の変化をとらえさせる形になっています。例えば、次のような形で出題されています。

  • 男の子と女の子がお皿に5個ずつアメを持っている。
    男の子が女の子にアメを1個あげて、女の子が男の子に3個あげたら、2人のアメの数はいくつになるか、それぞれのお部屋にを描く。 
    (2012年度 暁星小学校)


  • 4匹のサルが9個のりんごを2個ずつ食べると何個余るか。その数だけを描く。

  • ウサギ3匹の耳は全部で何本か。その数だけを描く。

  • 鳥が7羽いたが、4羽飛んでいってしまった。そこへまた2羽やってきた。今何羽いるか。その数だけを描く。

  • ワニが陸に4匹、池の中に2匹いる。陸にいるワニがみんな池に入ると全部で何匹になるか。その数だけを描く。

  • リスが7匹いたが、そのうち2匹がいなくなった。そこへまた3匹来たら何匹になるか。その数だけを描く。
    (2009年度 東洋英和女学院小学部)


  • 長いお話の中の部分で
    ハンバーグを4枚のお皿に2個ずつのせようとしたが、1個足りなかった。お母さんとあきちゃんはハンバーグを何個作ったか。その数だけ晴れ(または雪だるま)のお部屋に青いを描く。
    (2010年度 聖心女子学院初等科)

ですから、小学校になってから行われる計算を早い段階から訓練するという発想ではなく、計算の基礎になる考え方を、生活や遊びの中に題材を見つけ、数の変化をとらえさせるという発想が大事です。入試対策においても、ただ出題された問題を何の脈絡もなく解かせるのではなく、領域ごとに整理し、やさしいものから難しいものへと内容を系統化し、積み上げていかなくてはなりません。入試のためという目標があるにせよ、その学習が将来の算数の基礎になっていくような学び方をしなければいけませんし、学校側もそれを求めているのです。今回のセミナーでは、こぐま会の日常授業で積み上げてきた経験を踏まえ、家庭における「数の学習」の方法について、次のような内容でお話ししました。

ひまわり会合格カレンダー連続講座
第5回 「数の学習をどう積み上げるか」
1. 入試における数領域の問題例
2012年度入試における数領域の問題
どんな能力が求められているか
2. 学習をどう積み上げたら良いのか
学習の手順を間違えると、数嫌いな子をつくる結果になる
入試までどのような手順で学習したらよいか
A) 分類
B) 分類計数
C) 数の構成(5~10)
D) 同数発見
E) 一対一対応
F) 一対多対応
G) 数の等分
H) 数の増減
I) 数のやり取り
J) 交換
3. 暗算能力をどう高めたら良いか

4. 学校側が問題を難しくする手法

2012年度入試で出された数の問題を領域ごとに整理し、どんな能力が求められているか、何が子どもにとって難しいかをお伝えしました。その上で、数に関する学習の積み上げ法を、こぐま会の授業に即して紹介しました。子どもの理解度に合わせて、また一つの課題を解決するための「レディネス」という観点から、やさしいものから難しいものへ学習内容を系統化させたものが、上記2.(A)~(J)の内容です。こぐま会の年長クラスの学習は、現在(G)まで進んだことになり、すでに基礎段階の学習は終え、入試で良く出される応用段階の学習に入っています。今回のセミナーでは、(A)~(J)までの10項目の学習の意図と、それに絡む入試問題を紹介し、学習のポイントをお伝えしました。この10項目は、入試に出る - 出ないに関係なく、幼児期の数の学習にとって欠かせない大事な課題です。こうした基礎教育があってこそ、計算が早く正確にできる能力が生きてくるのです。計算だけが先行した今の低学年の算数学習の中に、こうした内容が取り込まれてくれば、算数嫌いな子は出てこないと思います。計算がまず先にあって、現実の生活における数の変化をとらえさせる学習が後に来るような、逆転した今の小学校における数の指導法を改めなければ、計算はできるけど文章題になるとできない子どもを大勢つくる結果になってしまいます。同じように、受験対策の準備教育においても、解き方を教え込み、訓練によってパターン化していく方法では、将来の算数科で求められる思考法は育ちません。

今回のセミナーでは、「なぜ暗算能力を高めておくことが大事か」「学校側がどのようにして問題を難しくしていくか」などもお伝えしました。指を使った解き方では時間制限がある最近の問題には対応できないこと、また長いお話を聞いて数の変化をとらえ、答えだけを解答欄に書かせていくような問題には対応できないことなどを具体的に明らかにし、どうしても「数の内面化」、つまり暗算能力が必要であることを説明しました。その上で、暗算能力の高め方を具体的にお伝えしました。また最後に、問題を作成する学校側がどのようにして問題を難しくしていくのか、その手法も分析しました。こうした観点を踏まえた学習を家庭でも心がけることによって、入試に必要な数の能力が効果的に身についていくはずです。

(学校側が問題を難しくする方法)
  1. 時間制限を厳しくする
  2. ルールを説明し、作業によって答えを導きだす
  3. お話によって、場面の数を変え、変わった場面で問題を出す
  4. 視点を変えて質問する(数のやり取りなど)
  5. いろいろな場合を考えさせる
  6. 場面を見せないでお話だけを聞かせて数の操作をさせる
  7. 小学校高学年の文章題で求められる思考法を、やさしくして問う(旅人算・消去算・植木算など)

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