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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「総合子ども園」構想にふれて

第325号 2012/1/27(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 待機児童解消問題や、幼保一元化問題をどう解決させるかという問題への取り組みに関し、政府は、幼稚園と保育所の機能を持つ「総合子ども園」構想を発表しました。「2015年から3年で保育所を総合子ども園に移行する」というものです。幼稚園は当面残しつつ、いずれ幼稚園も移行させる方針のようです。両者を「総合子ども園」に移行し、これまで抱えてきた諸問題を解決しようとしています。同じ日本人でありながら、保育園に入れたか幼稚園に入れたかによって、幼児期の基礎教育の中味が違ったのではまずいということは昔から言われてきたことですが、それが今回の「総合子ども園」構想で解決できるのか、はなはだ疑問です。教育改革には当然、制度や仕組みの改革が必要ですが、日本の教育改革はいつも教える内容の改革がない「仕組みの改革」に終わってしまっています。今大事なのは、そこで行われる「教育の中味」であるはずなのに、その点の議論がないまま、またしても形だけの改革に終わりそうです。

韓国では、この3月から5歳児を義務化する政策が実施されると聞いています。教育費の負担増が政治不信につながらないようにという表向きの理由だけでなく、そこには幼児期の基礎教育をどうするのかという議論があるはずです。もともと、幼児期から「英語教育」や「考える力教育」への関心が高い国です。これまでも小学校並みの時間割で知的教育が行われてきた国ですから、義務化となれば、当然そこで行われる教育の中味が問題になるはずです。こうした教育内容にまで踏み込んだ「改革」でない限り、行政面の改革だけでは、日本の子どもたちの学力問題は決して解決するはずはありません。「小中一貫」教育や「中高一貫」教育が盛んに試み始められているのに、なぜか「幼小一貫」教育だけが「幼小連携」にトーンダウンした背景には、教える中身をどうするかの確信が持てないところに最大の原因があるはずです。私がこの世界に飛び込んで40年間主張してきた「教育内容の改革」が、またもやないがしろにされ、形だけの改革に終わりそうです。改革を推進する役人や有識者の頭の切り替えを断行しなければ、この国の幼児教育の中身は一向に変わらないまま、一方で「遊び保育」が、またその一方で「早期注入教育」という両極端の教育が行われ、子どもたちの成長とともに、「考える力を育む」教育環境にはほど遠い結果になりそうです。教育全体の中で一番大事であるはずの幼児教育を軽視してきたことが、人材が育たず、研究者・役人主導の改革になり、実践者の声を無視した「中身のない改革」になってしまう最大の原因だと思います。国の政策が信用できないならば、ひとつひとつの教育現場が子どもたちにとっての「良い教育環境づくり」に力を入れ、頑張り抜くしかありません。そのためにも、私たちが実践を通して作り上げてきた「教科前基礎教育」のプログラムを、幼稚園や保育園の生活に見合った形に組み替え、普及させる活動をより強固なものにしていく必要を痛感しています。

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