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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

受験を経験したからこそ できること

第270号 2010/11/26(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 11月20日の夜、父親サークル「土曜ゼミ」の打ち上げを近くのレストランで行いました。
「土曜ゼミ」とは、お父さま方に入試の現状を具体的に報告し、家庭学習における父親の役割を伝え、「子育て」への参加を促すための勉強会で、昨年度は5回にわたって実施してきました。毎回セミナー後の懇親会で父親同士が交流を深め、情報交換などされてきた関係で、9月の最後の土曜ゼミの際「入試が終わったら、合否に関係なくまた集まりましょう」ということになり、今回の「打ち上げ」になった次第です。第1志望の学校から御縁をいただいた方、第1志望ではないけれども私学に入学が決まった方、繰り上げ合格を待っている方、残された国立の試験に望みを託す方・・・・結果に関してはいろいろな立場の方がいらっしゃいましたが、久しぶりに顔を合わせ、話が盛り上がりました。1年間の受験生活を振り返っての苦労話等を1人ずつお聞きしましたが、本当に皆さん工夫され、子どものために頑張り、そして受験に向けた準備を通して家族の絆が深まった事を知りました。それぞれのご家庭の取り組みを聞きながら、小学校受験が一つの動機付けになり、幼児期の基礎教育がまともな考え方で行われれば、子どもの成長にとって、受験勉強は教科学習の基礎を作る大事な教育だということを改めて痛感しました。

遊び保育中心の現在の幼稚園や保育園の指導から除外された、系統だった思考力の育成は、残念ながら今の日本では、この「小学校受験」にしかありません。幼保一元化問題が「子ども園」構想でまとまるかに見えて、今なお迷走を続ける日本の保育行政。10年先の「子ども園」構想より、いま現に幼稚園や保育園に通う子どもたちにとって、1日も早く解決してもらわなくてはならない「幼児期の基礎教育の在り方」についての議論の貧困さを思うと、「私たちが実践している『教科前基礎教育』を見習え」とつい言いたくなってしまいます。それほどまでに、日本の幼児は劣悪な教育環境に置かれているということです。園に通いながら、自分の子どもは果たして小学校に入学してから授業についていけるのだろうかと心配し、家庭の責任において、いろいろなおけいこ事や通信教育をさせているのが現状です。その心配を解消する手立てを幼稚園や保育園が持たなかったら、何のための幼児教育施設なのでしょうか。遊び保育は大事です。しかし、遊び保育だけでは教科学習の基礎は育成できません。幼児にもきちんとした系統だった教育が必要なのです。そうした教育内容の議論もないまま形式的な「幼小一貫」をうたったり、「子ども園」構想で縄張り争いをしたり、子ども不在の議論で全くナンセンスです。

ところで、こぐま会では受験対策と並行して行ってきたこれまでの「教科前基礎教育」に引き続き、教科学習につなげる「幼小一貫教育」が1月から始まります。それに向けたセミナーを11月23日の勤労感謝の日に行いました。まだ国立附属小学校の入試は残っていますが、今年の私立小学校の受験を終えた方々にお集まりいただき、これから始まる教科学習、特に算数科における学習の流れと子どもたちの学力の問題点等を明らかにしながら、学習の継続を呼びかけました。2年間の移行措置を経て、平成23年度から本格的に始まる新しい指導要領を見ると、大きな変化がいくつか見られます。その一つは、ゆとり教育で先送りされた内容が、また再び元の学年に戻ってきたことです。例えば4年生や5年生に先送りされた分数や小数が、再び3年生で学ぶことになったり、また、図形においては多くの課題について学年が繰り上がり、中には中学校に移行したもの(例えば図形の合同や、縮図・拡大図)が5・6年生に戻ってくるような事態です。それ以上に驚いたのは、これまでは「数と計算」の項目でくくられていた文章題に関する立式が、「数量関係」の中に「式による表現」として登場し、例えば2年生では「乗法の場面を式に表す」としている点です。これは私たちが20年以上も前から「計算はできるけれど文章題になると式が立たない。これでは子どもたちの算数的思考は育たない」と主張してきたことがまさしくその通りであった事を証明しており、計算主義の算数教育の弊害にやっと文科省も気付き、「立式」を重視し始めてきたことの現れです。この2つの変化が際立っています。

こうした教科としての算数の変化の背景を説明し、そのうえでこれまでの幼児期の基礎教育を活かし、同じ考え方で幼小を一貫させる教育を行う必要があることを伝えました。幼児期に相当量の学習を積み上げてきた子どもたちだからこそできる指導があるはずだ、事物教育を土台とした算数教育があってしかるべきだ・・・そうした考えのもと、この2年間、算数特進「ひまわりクラブ」の実践を行ってきました。このひまわりクラブの指導方針は、
1.小学校に入学するまでに、これまでの学習と関連付けながらかけ算・わり算の考え方を含め、四則演算の考え方をしっかりと身につける
2.小学校1年生が終了するまでに、四則演算全ての計算・文章題ができるようにする
3.現実の数の変化を式化することに力を入れるだけでなく、式を見ながら現実の数の変化をイメージし、作問ができるようにする
4.小学校3年生までに、教科書レベルの6年生の課題まで、一部を除き習得させる
現在の2年生はすでに4年生の学習内容まで進み、先週は「式と計算」の学習をしました。早いことだけがよいとは思いませんが、幼児期に学習した内容につなげてあげれば無理なく学習は進みます。逆に言えば、それだけ難しい課題を小学校受験向けに学習してきたわけです。しかし、合格さえすれば良いという考え方で過去問トレーニングだけに専念し、系統だった学習をしてこなかったために、幼小を一貫させる教育理念も何もなく、教科につなげるための戻るべき基礎体験ができていない子の場合は、こうした幼小一貫プログラムは無理といわざるを得ません。幼児期にどんな考え方で学習を進めてきたのか、そのあり方が受験が終わった今問われているのです。「本当に意味のある基礎教育であったのかどうか」という点で、受験期に行われた学習は厳しい評価にさらされているのです。
私たちが行ってきた幼児期の「教科前基礎教育」は、2つの意味で継続させる必要があります。その一つは、教科の系統性において、そしてもう一つは、学習習慣の継続においてです。小学校受験対策といえども幼児教育です。学ぶ内容の系統性を活かし、教科学習につなげていくこと、そして何より、日常化した学習習慣を継続することによって、「子ども自らが積極的に学ぶ」力へと高めていくことが大事です。莫大な時間を費やしてきた受験対策の学習を正当に引き継ぎ、次のステップの学習につなげていくことがとても大事なことだと思います。

受験を経験してきたからこそ、できることがある・・・かけ算やわり算の考え方を生活レベルで徹底して学習してきた子が、なぜ2年~3年生になるまでその学習を待たなくてはならないのか。待つ必要はないのです。今こそ、その課題に取り組ませるべきなのです。現在の小学校算数の指導法とは違った方法で、子どもたちの「数学的思考力」を育てていくことはできるはずだ・・・そうした信念で、次のステップである「幼小一貫教育」に取り組んでいくつもりです。

<ひまわりクラブ 第1期(1月~3月) 授業内容>
第1回「たし算・ひき算って何?」・・・数の構成とたし算・ひき算
一対一対応・数の構成・数の増減復習/3つの部屋の数の構成/足だし式の練習/話を聞いて式を立てる
第2回「声を出して読み・文を書こう」・・・音読と聞き取り
文章題の基礎としての読み・書きの練習/詩や絵本を音読する/聞いた単語を書く/読み上げられた文章を書く
第3回「たし算・ひき算の計算法」・・・数の増減とたし算・ひき算
数の増減・足だし式・3つの部屋の数の構成復習/暗算練習/プラス・マイナスの記号の理解とその計算法
第4回「隠れた数を探せ」・・・ブラックボックス・逆思考
逆思考の問題復習/10の構成/3×3方眼による数の構成(数字で行う)/魔法の箱を数字で行う/□を使った式(空欄を埋める)
第5回「かけ算って何?」・・・一対多対応とかけ算
一対多対応の復習/絵を使ってまとまりを作る練習/かけ算の式の立て方(一あたり量×いくつ分)/立式練習
第6回「わり算って何?」・・・等分や包含除によるわり算
等分除・包含除の復習/わり算の式の立て方/立式練習
第7回「かけ算って答えをどう出すの?」・・・かけ算の計算法
×式の意味/かけ算九九表/一対多対応暗算とかけ算/簡単なかけ算 5の段・2の段
第8回「わり算って答えをどう出すの?」・・・わり算の計算法
÷式の意味/等分除・包含除の意味/暗算練習とわり算の答えかた
第9回「話を聞いて式を立て、解いてみよう」・・・文章題の基礎
短文を聞いて式を立てる/長文を聞いて式を立てる/立てた式を解いて答える
第10回「文を読んで式を立て、解いてみよう」・・・文章題の基礎
短文を読んで、式を立てる/長文を読んで、いくつかの質問に答える/文章題解決のコツ

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