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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

できることと、わかること

第143号 2008/03/14(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 最近、ショップこぐまや書店のこぐま会コーナーで、「難しい問題集はありませんか」というお問い合わせが増えているようです。入試まで半年あまりを残した今の時期に、難問を求める動きが加速しているように思います。これまでの学習でしっかりと基礎を固め、そのうえで難問を求めることについては、何も問題はありませんが、どうもそうではなさそうです。周りのお友だちの学習進度や第一志望校の問題レベルを知るにつけ、早く難しい問題に取り組まなければ・・・という親の焦りが、難問を求める動きになっているようです。

長い間受験指導をしていると、いろいろな学習相談を受けます。会員の方だけでなく、一般の方や、海外在住で秋の入試を受けるために、こぐま会の問題集を使って準備をしている方からのメールでの相談など、いろいろ受けてきました。そうした相談の中で、私がいつも危惧してきたことは、基礎がしっかりできていないのにも関わらず、「難しいことをやることが受験対策だ」と考えている方があまりにも多いということでした。

こんな相談もありました。ちょうど入試を半年後に控えた4月ごろのことでした。2歳ごろから小学校入試を念頭に、いろいろな問題集を使って学習してきた子のお父さんからの相談でした。「こぐま会で出している問題集を全部やりこなしてきて、模擬テストを受けたのですが、点数が思うように取れませんでした。今後どんな問題集を使って学習したら良いのでしょうか」という質問でした。私もその話を聞きびっくりしました。入試を半年後に控えた4月の時期に、すでに「ひとりでとっくん」をはじめすべての問題集をやりつくしたというからです。本当に理解しているのだろうかという疑問があったため、一度その子にきてもらい、テストで点が取れなかったという個別テストも含め、具体物を使って学力を点検してみました。その結果判明したことは、基礎学力がしっかり身についていないということでした。それはなぜかと言えば、答えの根拠を自分の言葉で説明できないからです。それなのに難しい問題ができてしまうという事実。お父さんにこれまでどのように学習してきたかを尋ねました。すると、「すべてペーパーを使って学習してきた」というのです。できなければ徹底して解き方を教え、繰り返しトレーニングしたというのです。こうしたトレーニングによって、本当に理解してはいないけれど、問題はある程度できてしまうというおかしな現象が起きてしまうのです。ですから、入試で同じ問題が出ればできるけれど、子どもにとって初めての問題には、手がつけられないのです。

受験に向け熱心なご家庭であればあるほど、こうした間違った学習をしてしまう場合が多いように見受けられます。つまり基礎が何であり、応用が何であり、そのうえで難問が何であるのかということが判らないまま、「難しいことをやることが受験対策だ」と考えてしまうのです。ですから、模擬テストなどで正解率が低い難しい問題ができても、「なぜそう考えたの?」というように、理由を聞かれる基礎的な問題で点が取れないという逆転現象が起こるのです。

幼児期の基礎教育に、携わっていていつも感じることは、幼児の場合「本当にわからなくても、できてしまうことが良くある」ということです。ペーパーだけのトレーニングによって身につけた解き方でやれば、なぜそうなるのかを理解していなくても、がもらえてしまうことが良くあるということです。その結果周りの大人は「理解した」と錯覚してしまうのです。こうした子どもたちは、学校側が工夫して作ったオリジナルな入試問題に歯が立たないのです。なぜでしょう。それは、「はじめての問題」が出された場合、それまでの学習で身につけた考え方を駆使して解いていけるような「基礎学力」ができていないからです。

本当に理解しているかどうかをチェックするためには、ペーパーではなく具体物やカードを使った学習で、答えの根拠を説明させることです。どのように考えて解いたのかを、子ども自身が自分の言葉で説明できるようになれば、その理解は本物だということです。この方法を用いれば、基礎ができないままに応用問題や難問に挑戦させるようなことがどれだけ意味のない学習であるのかがわかるはずです。

受験対策は難しいことをペーパーでトレーニングする事ではありません。事物教育で基礎学力をしっかり固め、その理解度に合わせて一歩先の課題に挑戦させ続けることです。入試までに誰もが到達できる内容を、半年前に早くできたからといって・・・そのことで合格できる保証はどこにもありません。基礎ができているのならともかく、基礎ができないまま、難しいことに挑戦させれば、それは逆の効果を生むということを、これまでも沢山見てきました。そんな誤りだけは犯さないでください。

難しい「過去問」は、夏休みにできるようになれば、十分間に合います。今の時期は考え方の基礎を事物教育で固め、どんな角度から問われても十分対応していける柔軟な思考力を身につけるべき時です。「この子は本当に理解しているのか」と常に疑問を持ちながら、いろいろな角度から点検する姿勢を親が持てば、どれくらい難しい問題がその子にとって一歩先の問題かがわかるはずです。この一歩先の問題に挑戦し続けることが、子どもの能力を引き上げる最大のポイントです。

「できること」と、「わかること」とは同じでないということを肝に銘じ、本当に理解してがもらえるような、系統性を持った学習を心がけてください。

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