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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

生活の中で学ぶ (2) 体験を重視した入試問題

第860号 2023年6月16日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 6月11日の午前中、代官山蔦屋書店で「トークイベント 小学校?中学校? 受験のススメ」を開催いたしました。小学校受験を目指す保護者の方にも中学受験の正確な情報をぜひ知っていただきたいと思い、SAPIX の教育事業本部長の広野氏にお声がけして、今回のトークイベントが実現いたしました。またモデレーターには教育メディア「リセマム」 編集長の加藤紀子氏をお迎えし、大学受験まで見据えた教育を取り巻く環境の変化についてお話しいただきました。これから受験を目指す方にとっては、学校選択の参考になったのではないかと思います。

私がこのような機会を設けたいと考えた理由は2つあります。
  1. 小学校選びの際に、将来の受験のことも視野に入れるご家庭が増えてきていること
  2. 小学校受験で難関校に合格しても、再度中学校受験を目指すご家庭が増えていること
こうした現状を踏まえ、幼児教室で指導する私たち教師も、また受験をお考えの保護者の皆さまも、上級学校の受験、特に小学校受験の次に控える中学校受験の現状を正確に知っておくことが大事であると考え企画しました。

モデレーターである加藤氏は、これまで子育てに関する3冊の本を出版し、特にダイヤモンド社から出版された『子育てベスト100』は17万部のベストセラーとなり、多くの方に読まれています。教育分野での取材を通して、これからの受験がどのようになっていくのか、また、早期化する英語教育についてなど、子どもを持つ保護者の皆さまの関心事にさまざまな視点からアドバイスをされています。
その加藤氏から、「社会の変化」「大学受験の変化」「学校の変化」など、現在の日本の教育が置かれている現状を分析していただき、その後、私と広野氏が小学校受験と中学校受験の現状を報告しました。私からは「小学校受験の現状」「小学校受験の特徴と難しさ」「入試対策の在り方」をお伝えし、広野氏からは受験を終えた保護者の皆さまのアンケートを通じて「中学受験をさせようとしたきっかけ」「中学受験をさせようと決めた理由」「サピックスへの入塾時期」「最近の中学校受験者の総数や日程など」をお話しいただきました。そのうえで、それぞれの立場から教え込みでは解けない「考える力」が問われる入試問題を紹介し、参加された皆さまと一緒に考えてみました。

私の方からは、考える力が求められる問題、実体験がないと問題そのものの意味がつかめないと思われる4つの入試問題を紹介し、会場の皆さまと一緒に何が難しいのかを考えてみました。
そのうちの2つを改めてご紹介します。

「数の増減とやりとり」
  • クマとイヌとパンダが、持っているリンゴを半分の数だけ、同時に矢印のほうにいる動物にあげます。2回、同じようにリンゴをあげたとき、パンダが持っているリンゴの数はいくつになりますか。その数だけ下のお部屋にをかいてください。

「数の推理」
上の絵を見てください。パンダとウサギが星のカードを3枚ずつ持っています。相手からは持っているカードは見えません。
これから相手のカードを1枚ひきます。ひいたカードを見せ合い、数が多いほうが勝ちです。ひいたカードは自分がもらえます。
  1. ウサギが2のカードをひくと、パンダが勝ちました。パンダは星いくつのカードをひいたのでしょうか。その数だけイチゴのお部屋にをかいてください。
  2. 今度はパンダが2のカードをひきました。すると今度もパンダが勝ちました。ウサギは星いくつのカードをひきましたか。その数だけリンゴのお部屋にをかいてください。
  3. 2回勝負をしたあと、2匹が持っているカードの星の数の違いはいくつですか。その数だけバナナのお部屋にをかいてください。

この問題を取り上げたのは、以下の理由によります。
  1. 身近な生活や遊びの中で経験したことがある
  2. 2つの視点が同時に求められている。すなわち、「リンゴをあげる - もらう」「トランプカードを取る - 取られる」だが、これは一つの視点にこだわる幼児にとっては難しい
  3. 一連の行為を連続して捉えられないと、リンゴの移動の問題やトランプの最後の問題が解けない
こうした問題を、解き方を教え込んで理解させることはできるでしょうか。ある一つの問題でそれをすることは可能でしょう。しかし、それで分かったつもりになったとしても、同じような別の問題を解くことはできません。自分自身が経験し、問題の意図をしっかり理解し、試行錯誤して解く経験をさせることがまず大事です。合格のためにこうした問題に早いうちから取り組ませ、解き方を教え込んでも「考える力」は身につきません。ペーパーに毎日何十枚と取り組ませても、パターン化して教え込むことはできないのです。問題の意図がつかめれば、それほど難しい問題ではありませんが、それには自分が実際にやってみるという経験が大前提です。生活や遊びの場でありそうなこうした問題を自分の力で解くためには、生活や遊びの場で考える機会を多く持たせることが大事です。

広野氏からは、2023年度の入試問題の中から4教科にわたって、生活体験が豊富でないと解けない問題や、最近の傾向である記述式の問題例の説明がありました。サイコロの転がり方、甘いものに課税するという意見に対する反論、ヒグラシの鳴き声、煮干しが使われるおせち料理、桃太郎の話に出てくる「シバ」の使い道、都市化による水道整備の問題で、知識偏重の詰め込みでは対応できない、自分で考えて答えを導きだす問題や、経験や生活に根差した問題が紹介されました。

私自身もある時期中学校受験の指導をしたこともありますし、毎月1回の定例会でサピックスキッズ・SAPIX小学部の先生方と話し合う機会があるため、現在の中学校受験の様子をそれなりに知っていたつもりでしたが、広野氏の解説をお聞きして小学校受験との関連性を痛感し、「なるほど・・・」と思うことがたくさんありました。社会や理科の問題も含め、本当に生活に密着した問題が多く出されていることや、指定された文字数で意見を述べる記述式の問題が多いことも知りました。知識偏重と思われがちな中学校受験でも、小学校受験と同じように日々の生活体験の大切さが改めて浮き彫りになり、教え込みの指導ではとても合格できない入試の現実を再認識しました。会場からもご意見やご質問が多く寄せられ、これから小学校受験を目指す皆さまが中学校受験の現状を知っておくことの必要性や、中学受験を目指す方にとっても幼児期の経験や具体物を通した学びの大切さを改めて痛感いたしました。


 こぐま会代表 久野泰可 著「子どもが賢くなる75の方法」(幻冬舎)

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