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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

ゲームで論理を鍛える

第857号 2023年5月26日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 「小学校の入試問題がどのように作られるのか」は、指導する私たちにとって大変興味のあるテーマです。50年ほど前の小学校入試は知能テストの問題がほとんどでした。ですから、年長の夏頃から訓練すれば、パターン化した問題はほぼ解くことができていました。その後受験者が増え、そのような問題では子どもを選抜できないと感じた学校側は、小学校の学習内容に即して大量のペーパー問題を課しました。しかし、ペーパー中心の学習は子どもに相当のプレッシャーを与え、精神的に不安定になる原因の一つとなり、心療内科や精神科の現場から警告が発せられました。そのため、小学校入試からペーパー試験がなくなった時期がありました。その後、ペーパー問題の内容や枚数が改善され、現在では生活に密着した問題が6~8枚程度課せられるようになっています。

最近の入試は問題の中味が精選され、訓練によって解けるかつての知能テスト的な問題は激減し、「聞く力」「作業する力」「考える力」が求められるようになりました。つまり、自分で考え、問題を解決していくような生活経験がないところでペーパーだけを訓練しても、今の入試では何の力にもならないということです。生活や遊びの中で培った経験、特に物事を関係づける力が求められています。学校側が問題づくりをする際に、何を参考にしているかという視点で入試問題を分析してみると、まず考えられるのは小学校に入学して以降、学習する教科の中味が前提になっているのは確かです。しかし文字は読ませない、書かせない、数字は使わないということが暗黙の了解事項になっている以上、小学校の内容を易しくして薄めて出すわけにはいきません。出題する側も、幼児が対象であるということを考えれば、当然問題の中味は、生活や遊びに根差した内容にならざるを得ません。出題する学校側も、子どもにとって問題の意図が伝わりやすい内容は、普段経験している遊びやゲームをいかに活用するかということを考えているはずです。遊びに密着した課題であれば、問題の意図は伝わりやすいし、子どもにとっても前向きに取り組めるはずです。最近の入試で出された問題を詳しくみてみると、子ども自身も経験のある遊びやゲームと結びついた問題が多く出されていることに気づきます。たとえば、
  1. しりとり遊び
  2. すごろく遊び
  3. 折り紙を使った遊び
  4. さいころ遊び
  5. ピクチャーパズル
  6. つみ木遊び
  7. トランプ遊び
といったような、子どもたちが普段遊びとしてやっていることに着目し、それを使って考える力を求める問題です。

例えば次の問題は、実際にトランプカードを使ったゲームやオセロゲーム、囲碁を経験した子とそうでない子とでは、問題の意味の理解が相当違ってくるのではないかと思います。

「数の推理」
上の絵を見てください。パンダとウサギががかかれたカードを3枚ずつ持っています。相手からは持っているカードは見えません。
これから相手のカードを1枚ひきます。ひいたカードを見せ合い、数が多いほうが勝ちです。ひいたカードは自分がもらえます。
  1. ウサギが2のカードをひくと、パンダが勝ちました。パンダはいくつのカードをひいたのでしょうか。その数だけイチゴのお部屋にをかいてください。
  2. 今度はパンダが2のカードをひきました。すると今度もパンダが勝ちました。ウサギはいくつのカードをひきましたか。その数だけリンゴのお部屋にをかいてください。
  3. 2回勝負をしたあと、2匹が持っているカードのの数の違いはいくつですか。その数だけバナナのお部屋にをかいてください。

最初の2つの問題は、勝ち負けの判断ですから問題なくできると思いますが、最後の質問は、2回の勝負の結果、それぞれの手持ちのカードがいくつになっているのかを判断しないとできません。トランプカードがどのように移動したかを振り返るためには、このゲームの意味をしっかり理解する必要があります。経験の差が理解の差につながっていくはずです。

「推理(三並べ)」
シロヤギさんとクロヤギさんがゲームをしています。シロヤギさんは白い石を、クロヤギさんは黒い石をあいているマスにかわりばんこに置いていき、縦・横・斜めのどれでもよいので、自分の色の石を先に3つ並べられたほうが勝ちというゲームです。
  1. 左上のお部屋を見てください。シロヤギさんの番です。シロヤギさんが勝つには、どこに石を置いたらよいですか。その場所にをかいてください。
  2. 右上のお部屋を見てください。クロヤギさんの番です。クロヤギさんが負けないためには、どこに石を置いたらよいですか。その場所にをかいてください。
  3. 左下のお部屋を見てください。シロヤギさんの番です。クロヤギさんに勝たせないようにするには、どこに石を置いたらよいですか。その場所にをかいてください。
  4. 右下のお部屋を見てください。クロヤギさんの番です。次のクロヤギさんの番に、クロヤギさんが必ず勝つには、どこに石を置いたらよいですか。その場所にをかいてください。

縦横斜めに先に3つ並べた方が勝ちというゲームで、碁石並べと考えればいいと思います。今回この4つの問題の中では、最初の問題が基本ですが、2問目の「黒ヤギさんが負けないためにどうするか」、3問目の「黒ヤギさんに勝たせないようにするためにはどうするか」、4問目の「次の次に黒ヤギさんが必ず勝つためにはどこに石を置いたらよいか」は、視点を変え、先を見据えて相手に勝たせないためにどうするかを考えなくてはなりませんので、結構難しい問題です。もし、オセロゲームのように挟んだら自分のものになるというルールが追加されれば、より複雑な問題になるはずです。

今見ていただいた2つの問題は、ゲームでありながら、考える力がかなり求められます。子どもが経験するゲームを素材に、「見通す力」「視点を変えてみる見方」といった論理性が求められています。こうした問題は、今後もたくさん出されていくと思います。ゲームにはルールがありますが、そのルールの説明は試験では1回しかされません。その説明をしっかり理解するためには、実際にやってみて経験を積んでおかなければなりません。その意味で、次のゲームはぜひ家族で楽しみながらやってください。
  1. トランプを使ったゲーム
  2. すごろくを使ったゲーム
  3. オセロを使ったゲーム
  4. しりとりゲーム
回を重ねるごとに、子どもも工夫した対応をするはずです。教えたからわかるのではなく、自ら経験して、ゲームに勝つためにはどうしたらよいかを自分で工夫し、理解していくはずです。幼児期にはそうした繰り返しの経験が必要です。

以前にも、入試で「ゲーム」のような問題がたくさん出された時期がありました。それがきっかけとなって「ひとりでとっくん」シリーズの中に「ゲームブック」を作成していますので、ぜひ使ってみてください。






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