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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

生活の中で数を学ぶ

第848号 2023年3月3日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 こぐま会で実践している「数」の基礎教育は、小学校の算数科で学ぶ内容を見据え、生活や遊びの中にある「数体験」を思い起こしながらまず具体物を使って取り組み、その数の操作を踏まえてプリント教材で同じテーマで学ぶという流れです。最初から数字の世界に呼び込み、生活と切り離された数の操作をさせるわけではありません。その学習内容は次のように設定しています。
  1. 数概念の基礎として・・・分類計数/数の構成
  2. たし算・ひき算につながる基礎として・・・数の合成~分解/一対一対応/数の増減
  3. かけ算の考え方につながる基礎として・・・一対多対応/交換
  4. わり算の考え方につながる基礎として・・・等分/包含除/交換
基礎的な内容から応用段階の学習までをらせん型に組み立て、幼小一貫教育の考え方に立ってカリキュラムを作成しています。その一つひとつの授業内容のすべては紹介できませんが、例えば先日行った「一対多対応」の授業カリキュラムをご覧ください。

Step4-3 数「一対多対応」
実際にお客さんごっこをして、お客さんの数と1人に配るものの数の関係から全体の数を考えたり、タイヤの取れた自転車・三輪車・自動車を修理するためにタイヤをいくつ用意すればよいかを、ドーナツおはじきを操作させることによって考えさせます。
また逆に、与えられた数の鉛筆を何本かずつまとめるには袋は何枚必要かを考えさせ、包含徐の考え方を学びます。このような具体物操作をさせた後、まとめとしてプリント教材に取り組むわけですが、幼小のつなぎを考えれば、小学校でもこうした生活場面における数の操作を通して幼児期の学びとつなげていく必要があります。いま中央教育審議会の「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」 で審議されている内容は、こうした具体的な授業内容を巡って議論すべきです。入学後に行われるスタートカリキュラムの検討も、こうした幼児期の学びに基礎を置けば、生活科につながる内容だけでなく、国語・算数につながる内容も実践できるはずです。
その意味で、小学校の先生方は、幼児期にどんな学びが可能かを知っておく必要はありますし、逆に幼稚園・保育園に携わる方は、小学校で学ぶ内容とのつながりを考え、子どもに接するべきです。ここに断絶があるために、幼児期の数の教育が計算だけできればいいという間違った発想になってしまうのです。この日本の算数教育はぜひ改善されるべきです。

そんな中、最近の小学校入試における「数」に関する問題に変化が出てきています。それは、「生活の中で数の学びを実践しましょう」というメッセージを持った問題です。ここに紹介するのは2023年度入試で実際に出された問題です。

2023年度入試 A校「数の総合問題」
上のお部屋の絵をよく見てください。
  • 浜辺にカニがいます。さらに海の中から3匹、岩かげから2匹出て来ました。今いるカニは何匹ですか。その数だけカニのお部屋にをかいてください。
  • 飛んでいるカモメのうち、4羽がどこかへ行ってしまいましたが、あとから2羽戻って来ました。今いるカモメは何羽ですか。その数だけカモメのお部屋にをかいてください。
  • クマさんがここにいる魚を何匹か釣ったら、泳いでいる魚は5匹になりました。クマさんが釣ったのは何匹ですか。その数だけ魚のお部屋にをかいてください。
  • ここにあるおにぎりをネズミさんたちで、仲良く残らないように分けると、1匹何個もらえますか。その数だけおにぎりのお部屋にをかいてください。
  • ここにある貝殻をネコさんたちが3個ずつ拾うと、いくつあまりますか。その数だけ貝殻のお部屋にをかいてください。

浜辺で動物たちが遊んでいる様子の一場面の絵を使って、四則演算につながる5つの質問「(1)数の合成 (2)数の増減 (3)逆思考 (4)数の等分 (5)一対多対応と数の多少」が設けられています。このような問題を、こぐま会では「一場面を使った数の総合問題」と分類しています。こうした問題が入試で出されるようになったのは最近の傾向で、以前は1つの課題に対して1枚ずつ別々に出題されていました。

「数の多少」
  • 2つ並んでいるお部屋の中のものの数を比べて、多い方のお部屋に緑のをつけてください。

「同数発見」
  • 1番上を見てください。まず練習してみましょう。左のお部屋に入っているリンゴの数と同じ数のお部屋を右から探して、ピンクのをつけてください。答えは1つとは限りません。下の問題も同じように続けてやってください。

「数の構成」
  • 上半分を見てください。右のお部屋のリンゴを2つ組み合わせて、左のお部屋のリンゴと同じ数にしたいと思います。どれとどれを組み合わせればよいですか。それを選んでお部屋にをつけてくださ い。
  • 下半分を見てください。右のお部屋のリンゴを3つ組み合わせて、左のお部屋のリンゴと同じ数にしたいと思います。どれとどれとどれを組み合わせればよいですか。それを選んでお部屋にをつけて ください。

このように、独立した一つ一つの問題ではなく一場面を使った数の総合問題はよく考えられていますし、「生活の中で数を学ぶ」というメッセージが明確になっています。受験をするかどうかに関係なく、こうした良問をすべての幼児が学べる環境づくりができるといいと思います。

幼児期だけでなく小学校以降の学習においても、算数は現実の生活と切り離したところでの数字の操作だけで成り立つものではありません。日本の算数教育で指摘されている「計算はできても、文章題になるとできない」という現実は、この矛盾を端的に表しています。文章題の中味はまさしく生活そのものであり、その中における数の関係を立式することができるかどうかが問われています。その立式ができない子どもたちが大勢生み出されている現実を変えないといけません。数の学習を生活や遊びと関連付けて行うことは、とても大事なことです。また、文章を読んで立式するだけでなく、式を見てお話をつくることも大事です。こぐま会の就学準備クラスでは、数式を見てお話をつくる練習に力を入れています。たとえば数字の4と2を使って、
  • 4+2のお話をつくってください
  • 4-2のお話をつくってください
  • 4×2のお話をつくってください
  • 4÷2のお話をつくってください
というようなことを行っています。小学部の授業でも行っていますが、この中で何が一番難しいかというと、かけ算の「4×2のお話づくり」であることがわかっています。数の学習が計算主義に陥らないよう、低学年のうちから、立式やお話づくりの練習をするようにしてください。


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