週刊こぐま通信
「室長のコラム」なぜ3段階学習法が大事なのか
第843号 2023年1月27日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可
幼児期に何をどう学ぶかの議論が盛んにおこなわれるようになってきました。とてもいいことだと思います。中央教育審議会の「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」 の議論も進み、実践も始まっています。幼児教育の無償化だけでは何も解決しないと、ようやく重い腰を上げたように感じます。「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」を参考にして動き始めていますが、基本理念が共有されておらず、具体性がないところでは新しい実践は生まれてこないでしょう。そもそも日本では、幼児期における意図的な基礎教育の蓄積がなく、これまで「知育」に反対してきた幼児教育関係者が、いきなり「知育が必要だ」と言い始めても、現場は何をやったらよいのか混乱するのは当然です。
幼児期の教育を改革しようと思えば、まず学習内容をどう構築するかが問われますし、教育方法をどう確立するかの議論も必要でしょう。具体的な実践の場で子どもと向き合う保育者や教師が、「何を教育の課題とするのか」「どんな方法で教育するのか」といった議論がないまま、上からの指示で改革しようと思っても、うまくいくはずはありません。
民間の幼児教室で50年間実践してきた立場から、日本の幼児教育改革の動きを見てきましたが、はっきり言って50年前と何も変わっていません。その間、文科省は何をしていたのでしょうか。そもそも意図的な幼児教育の必要性を感じていなかったのではないかとさえ思います。OECDの勧告で重い腰を上げ、幼児教育の無償化だけには手を付けたものの、教育の質を改善する方策を何も取ってこなかったのがこれまでの動きです。行政がからむ幼児教育の改革は、既得権益を守る人たちが新しい動きを拒否する側に回ることが多く、改革などできる雰囲気はありません。そんな現状ならば、新しい試みをする民間の教育機関に補助金等を出して、その実践を支援するようにした方が、日本の幼児教育改革にとってはよほどましだと思います。
こぐま会ではこの40年間、「教科前基礎教育」として6領域指導の内容を確立し、教科学習の基礎をしっかり身につける指導をしてきました。そして教育方法として、事物教育・対話教育を実践し、子どもの発達に合わせた指導によって主体的に学ぶ姿勢を育ててきました。特に指導法として確立した「3段階学習法」は多くの皆さまに支持され、現在に至っています。幼児期の教育が盛んに議論され、一方で過熱化する小学校受験に向けた教育の現状を見るにつけ、改めてこの3段階学習法の意義を確認しました。幼児教育に携わる皆さんにぜひ実践していただきたいと思っています。
ところで3段階学習法とは何でしょうか。少し解説しましょう。 上の写真は「シーソーによる重さくらべ」の学習です。まずはじめに、重さを体で感じとってもらうために、袋や箱を手に持って重い順・軽い順に並べます。その経験を踏まえ、今度はシーソーを使って3つの箱の重さくらべをします。手で持って重さの違いが分かってしまっては意味がありませんから、その差は微妙にしてあります。載せたり下ろしたりする経験をしっかりさせ、その繰り返しの経験をイメージ化し、最後にペーパーを使ってシーソーにおける関係推理の課題を学習します。自らの経験を思い出しながら、三者関係や四者関係のシーソーの問題に挑戦します。
このように子どもの認識能力を高めるためには3つのステップが必要です。
- 身体を使って物事にかかわり、その経験を通して物事を理解していく
- その中で大切な課題については、意図的に用意された具体物や教具に働きかけ、試行錯誤しながら自ら解答を導き出す
- 体を使い、手を使った活動を踏まえ、最後にワークブック等を使って具体から抽象への橋渡しをする
- 物事に働きかける経験をたくさん持たせる
- 試行錯誤する時間を保障する
- 具体から抽象への橋渡しをどうするかを考える
- 重版決定!! こぐま会代表 久野泰可 著「子どもが賢くなる75の方法」(幻冬舎)
読み・書き・計算はまだ早い!
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家庭でできる教育法を一挙公開
子どもを机に向かわせる前に実際の物に触れ、考えることで差がつく。- 食事の支度を手伝いながら「数」を学ぶ
- 飲みかけのジュースから「量」を学ぶ
- 折り紙で遊びながら「図形」を学ぶ
- 読み聞かせや対話から「言語」を学ぶ