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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

視点を変えてものを見ることの大切さ

第822号 2022年7月22日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 前回のコラムで、幼児期に大切な10の思考法について述べましたが、その中で特に大事な思考法として「観点を変えてものごとを捉える」ことの大切さをお伝えしました。これは認識心理学者であるピアジェが述べたもので、私たちの日々の実践に生かしている考え方です。ピアジェは「量の保存」に関する思考実験をいくつか行っていますが、その中でも有名なものは次の実験です。

形も大きさも同じ2つの容器(A)(B)に同じ高さになるように水を入れ、2つの水が同じ量であることを確認させます。子どもの見ている前で、そのうちの1つ(B)を細長い容器(C)に移し替えます。そして次の質問をします。「どちらの入れ物のほうに水がたくさん入っていますか?」そうすると、年中児の多くは「細長い入れ物に入っている水のほうが多い」と答えます。しかし、年長児になると何の迷いもなく「同じ」と答える子が増えてきます。「なぜ同じなの?」とその理由を聞くと、

「だってさっき移し替えるときにこぼしてないから」
「背が高いのは、細くなったから」
「もとに戻せばきっと同じになるに違いない」

つまり、背の高さで量の多さを判断していた子どもが、移し替えの操作や容器の太さに着目し、中の水の量は変わらないという結論に至るのです。ピアジェは、論理的思考力はこうした別の観点に立つことによって成立し、1つの観点に中心化しがちな幼児の考え方が、次第に「可逆的思考」につながっていくと考えたわけです。10ある思考法の中で、この「観点を変えてものごとを捉える」ことを大事にしてきたのは、教室での実践でさまざまな領域の難しい課題を解決するためには、どうしてもこの「可逆的なものの見方」が必要だと実感しているからです。

では、具体的にどんな問題の解決に必要なものの見方なのか・・・入試問題からいくつか紹介してみましょう。

観点を変えた分類
  • ここにあるトランプを3つの仲間に分けて、それぞれ同じ仲間を真ん中のお部屋に線結びで入れてください。

12枚のトランプカードを3つの仲間に分ける問題です。このトランプカードの分類では、色で分けると2つの仲間、数で分けると3つの仲間、形で分けると4つの仲間になります。ですから3つの仲間に分けるためには「数で分ける」ことが必要です。このように、自分で分けてたまたま3つになったというのではなく、意図的に3つに分けるにはどうするか、というのは大変難しい課題です。同じグループを違う観点で仲間分けするこうした問題は、子どもたちの考える力を鍛える良い問題です。

四方からの観察を含んだつみ木の数当て
上の絵を見てください。テーブルの上のつみ木をまわりから動物が見ています。前から見ているウサギはつみ木の黄色いところ、右から見ているクマからはつみ木の青いところが見えます。木の上から見ているサルからはつみ木の赤いところが見えています。

  • 下の絵を見てください。下の机の上のつみ木をまわりから動物たちが見ると、それぞれ右のように見えました。机の上の形はいくつのつみ木でできていますか。その数だけ下のお部屋に青いをかいてください。


上の例題を見て、下の問題を行います。3つの方向から見たつみ木の見え方を総合して、何個のつみ木が積んであるかを考える問題です。ウサギのほうからの見え方で、手前には5個のつみ木が積んであることがわかります。隠れている後ろのつみ木は、クマとサルからの見え方で判断しなければなりません。クマからの見え方で、後ろは1段しか積んでないことがわかり、サルからの見え方で一番左のつみ木がないことがわかります。その結果、後ろには2個しか積んでないと判断でき、全部で7個積んであるとわかります。
このように「四方からの観察」では、視点を変えてものを見ることができるかどうかが問われます。ここではそれが「つみ木の数あて」となって出題されています。

数の増減とやりとり
  • クマとイヌとパンダが、持っているリンゴを半分の数だけ、同時に矢印のほうにいる動物にあげます。2回、同じようにリンゴをあげたとき、パンダが持っているリンゴの数はいくつになりますか。その数だけ下のお部屋にをかいてください。

持っているリンゴの半分の数だけ矢印の先の相手にあげる(つまり、あげると同時にもらうことになる)という「数のやりとり」の問題です。パンダの場合、1回目で「8個の半分の4個をクマにあげ、4個の半分の2個をイヌからもらい、6個になる」、2回目で「6個の半分の3個をクマにあげ、4個になったイヌから半分の2個をもらい、5個になる」という具合です。変化する数を「あげる」「もらう」という2つの観点で考えなくてはならず、答えを導き出すプロセスを論理的に考えなくてはなりません。

以上3つの課題を紹介しましたが、難しい入試問題の多くで「視点を変えてものを見ることができるか」が問われています。また、「逆しりとり」に代表されるように「逆からの問いかけ」が増えています。一方で、行動観察においても「聞く」ことの大切さが求められ、自分の考えを言うだけでなく、相手の考えもしっかり聞けることが重視されています。人間関係においても「相手の立場になって物事を考えることができるかどうか」が社会性の発達の目安として大事にされています。知的な発達だけでなく、社会性の発達においても「視点を変えてものを見る」ことを大切にしなければなりません。

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