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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼児期に大切な10の思考法 (1)

第821号 2022年7月15日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 2017年に発表された「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」は、当時幼児教育関係者や現場の先生方にとって画期的な指針として歓迎されたものでした。しかし、具体性を欠いた理念の羅列に、日常の保育で何をどうすればよいのかがわからず、いろいろな考え方が混在し、カリキュラム作りや実践があまり進んでいないのが現状です。そうした状況を打破するために、より具体化した形で10の姿を示す必要があるということで、昨年、中央教育審議会の中に「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」 が立ち上がりました。その中で、理念を具体化するためにモデル地域における調査研究事業に関し、19の自治体での取り組みが委託事業として採択されました。「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」を実現するための取り組みですが、果たして期待される実践が出てくるのかどうか、はなはだ疑問に思っています。なぜでしょうか。まず改めて10の姿をここに掲げてみます。

「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」

  1. 健康な心と体
  2. 自立心
  3. 協同性
  4. 道徳性・規範意識の芽生え
  5. 社会生活との関わり
  6. 思考力の芽生え
  7. 自然との関わり・生命尊重
  8. 数量や図形,標識や文字などへの関心・感覚
  9. 言葉による伝え合い
  10. 豊かな感性と表現
(幼稚園教育要領 第1章 総則 第2より抜粋)

  1. 10項目あるうちの最初に掲げた5つは、いわゆる非認知能力にかかわるもので、この点についての実践の積み上げはたくさんあり、また海外からも評価されている。東南アジアで「日式」と掲げただけで大勢の生徒が集まってくるほど、日本のこれまでの幼児教育はある面で高い評価を受けている
  2. しかし、6項目以降の5つの課題に関しては実践の積み上げが少なく、幼稚園の学校化に反対してきた指導者の中に、この5つの項目課題に関するきちんとした理念が定まっていない。特に、
     6. 思考力の芽生え
     8. 数量や図形,標識や文字などへの関心・感覚
     9. 言葉による伝え合い
    といった、将来の学力の中心として判断される「数」「図形」「言語」の土台となる教育内容の考え方が明確になっていない
  3. それだけでなく、従来の保育者の養成機関で行ってきた教育の見直しや、小学校で起こっている学力問題を詳細に把握していない。幼小連携というけれども、形だけの連携で終わってしまっていて、教育内容としての幼小一貫の考え方が成り立っていない
  4. 民間の教育機関で積み上げてきた幼児教育の成果を活用しようとする考えがない。もっと民間の教育実績を評価すべきだ

委託事業での実践が10の姿の1~5の項目に偏らず、学力形成にかかわる6~10の項目のカリキュラム化が期待されるわけですが、認知能力の育成に力を入れるべきだという考え方が指導者の中にあるのかどうかついては、あまり期待できないと感じています。非認知能力の育成に力を入れてきたこれまでの教育内容に認知能力の実践が加われば、この10の姿は幼児期の子どもたちの教育にとってバランスの取れた素晴らしい内容になると思いますが、実践する教師が「思考力の芽生え」や「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」が大事だという考えがない限り、おそらくこの項目の実践は、避けて通って行ってしまうのではないかと危惧しています。

こうした動きに対し、民間の教育機関では「幼児の考える力」の育成に力を入れようと実践を積み上げています。しかし立ち止まってみて、いったい「考える力」とは何を指すのでしょうか。意外とこの「考える力」があいまいなまま、何でもありの状態になっているのではないかと思います。逆に「考える力」を育てますという宣伝文句で納得してしまっていないでしょうか。「考える力」と言いつつ、その内容が明確ではなく、挙句の果て「読み・書き・計算」ではあまりにもお粗末です。10の姿の中にあった「思考力の芽生え」や「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」などについて、具体的な内容を示さないといけません。私たちは40年近い教室での実践をもとに、幼児期の子どもたちに必要な10の思考法を掲げ、3歳から6歳までの教育内容をらせん型に積み上げてきています。こうした具体的な内容において議論していけるような環境づくりが必要ではないかと思います。幼児期に必要な10の思考法として実践してきた内容は以下のとおりです。

「幼児期に必要な10の思考法」

  1. ものごとの特徴をつかむ
  2. いくつかのものごとを比較する
  3. ある観点に沿って物事を順序づける
  4. 全体と部分の関係を把握する
  5. 観点を変えてものごとを捉える
  6. ものごとを相対化して捉える
  7. 逆に考える
  8. あるものごとをひとまとまりとして捉える
  9. ものごとの法則性を発見する
  10. AとB、BとCの関係からAとCの関係を推理する

この内容は、数や図形といった特定の領域に合わせたものではなく、「未測量」「位置表象」「数」「図形」「言語」「生活 他」のすべての領域にかかわるもので、便宜的な領域を越えて「考える力」の育成に必要な10の思考法です。現場で子どもたちを指導してきた経験に基づいたもので、論理学や哲学などから導き出したものではありません。そうした視点からみると不十分な点や重複してところがあるかと思いますが、子どもたちの指導現場から導き出したものですから、実践活動の参考にしていただけると思います。この10の思考法のうち一番大事な課題は、「5. 観点を変えてものごとを捉える」です。これについては、次回のコラムでより詳しく解説させていただきます。

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