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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「あたらしい年を迎えて」

第704号 2020年1月10日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 あけましておめでとうございます

大学入試をめぐる改革が頓挫し、2020年から始まる教育大改革のスタートに暗雲が立ち込めはじめています。新学習指導要領の本格的な運用開始の時期にこうした混乱が起こるのは、もしかしたら必然だったかもしれませんし、結果的に日本の教育改革にとっては良かったことかもしれません。特に、記述式入試の難しさが数年前から言われていたにもかかわらず、実際の運用が明らかになった途端、あまりにもひどいやりかたに国民が黙っていなかったわけで、明らかに政治と教育の癒着が見られます。合否につながる作業を民間の一業者に任せること自体が如何に異常な事態なのか、冷静に考えれば誰にでも分かるはずです。官邸主導の教育改革に周りの人間が忖度した結果で、国民の理解が得られなかったのも当然です。教育が政治と癒着するとろくなことにならないというのは、海外に出て仕事をすると大変よく分かります。教育に力を入れている現政権主導の改革は、これまでもいくつか問題になってきたことも合わせて考えると、公平さを欠く「私」が前面に出すぎていることが、その背景にあることだけは明らかです。そして、いつも指摘してきたことですが「教育改革に現場の意見がどれだけ尊重されてきたのだろうか」という思いは、今回の大学入試改革においても感じざるを得ません。

幼児教育をめぐる状況に関しては、昨年「幼児教育の無償化」が決まり、幼児教育改革に期待する雰囲気が盛り上がりましたが、その後一向に教育の質に関する議論が進む気配は見られません。お金をばら撒いておけば、消費税を上げる口実ができると考えたのでしょうか。「無償化したからこそ教育の質を高めなくてはならない」と考え、大阪市保育・幼児教育センター を設置し、カリキュラム作りと人材育成に具体的に取り組んでいる大阪市の動きを国も見習うべきです。文部科学省の役人と現場のことをあまり知らない有識者が作る方針書が、子どもの存在が見えない曖昧なものになってしまう背景には理由があるのです。それは、今回の大学入試改革が頓挫した背景と同じです。子どものいる現場を軽視しているからにほかなりません。期待された「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」も今では骨抜きになってしまい、現場は混乱しています。何を指針に教育内容を改革すればいいのか・・・それを期待していた現場の人間は大変失望しています。

教育行政が官邸主導で行われ、私的な人間関係が国全体の方針を左右するような改革に持ち込まれることは断じて許されません。教育改革が政策の大きな柱であったはずの現政権が行った間違った取り組みに対する怒りは、消しようもありません。ただ、結果的にそれを受け入れなかった国民の良識に、まだかすかに期待できる部分があることにある種の安堵感があります。大学が変わらなければ日本の教育は変わらないと言われてきました。その意味で、大学入試改革は小学校から高校までの教育の在り方を方向づける意味でも重大です。この際、入試の在り方を変えるだけでなく「入るのは難しいけれども、出るのは易しい」と言われる日本の大学教育の在り方そのものを議論するきっかけになれば・・・と思います。AI社会の到来で、働き方も含めて社会に出た後の生き方も変わるはずです。そうした時代にふさわしい、生涯学び続けられる環境づくりを大学は目指してほしいと思います。高校を卒業してそのまま海外の大学に進学する高校生が増えています。一方で日本の大学を目指す留学生も大勢見られます。その意味で、日本の大学教育も世界標準にならなければなりません。そうした大学改革と入試改革がセットになってこそ、目指すべき改革が進むのではないかと思います。

幼児教育の改革については、先ほど述べた「望ましい10の姿」と同時に「小学校へのつながりを考えた教育を・・・」という幼小一貫教育の課題があります。この課題については、いろいろな試みが始まっているようです。幼稚園と小学校の交流が始まったり、幼稚園・保育園と小学校で協力して研究授業が活発に行われています。ただ残念なことに、知・徳・体のうち小学校に入ってから一番深刻になるはずの「知」の部分に関する研究がなぜか避けられている感じがします。10の姿のあいまいさがこうしたところに影響しているのでしょう。「知育」を軽視する傾向を見ると、「幼児教育の学校化」に対する異常なまでの拒絶意識が関係者の意識の中に根強くあるように思います。この問題を解決するためには、日本における教員養成の在り方を根本から変えなければならないと思います。私が「幼児教育に新しい風を」と訴えている理由は、こうした幼児期における「知育」に対する日本人の意識変革を目指さなければ、日本の幼児教育は何も変わらないと考えているからです。

幼小一貫教育がどうあるべきかをさまざまな角度から研究し、具体的なカリキュラムを作って実践してきた私たちにとって、今年から大事なプロジェクトが始まります。それは、幼稚園におけるアフタースクールの実践です。すでに2年前からおおや幼稚園 で実施してきましたが、小学校入試が絡まない幼児期の基礎教育として、森村学園幼稚園 でのアフタースクールが5月から始まります。数年前から準備してきたプロジェクトですが、乗り越えなければならない問題が多くあり、時間が必要でした。それがようやく今年の5月から開講できるようになりました。歴史ある幼稚園のこれまでの教育方針を踏まえて、独自にカリキュラムを作成して実施することになります。それだけでなく、子どもたちが進級していく小学校の先生方とも連携をとりながら、幼小一貫教育のあるべき姿を実践を通して研究していくことになります。KUNOメソッドが小学校受験のためだけでなく、幼児期の基礎教育として意味のあるメソッドであることが証明できれば、この経験を全国の幼稚園・保育園に普及させることができると考えています。

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