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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「幼小一貫教育をどう進めるか」

第699号 2019年11月29日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 首都圏の小学校入試も一段落し、受験生の皆さまはほっと一息ついていることと思います。毎日机に向かっていた子どもたちも、解放感を味わいつつ4月の入学を楽しみにしている様子がうかがえます。入試ギリギリまで机に向かっていたお子さまが11月に入ってから時間を持て余し、保護者の方から「何を学習したらよいのか」とよく相談をいただいたりします。残ったペーパーを毎日続けているお子さまもいるようです。身についた学習習慣を持続することは良いことだと思います。こぐま会では、入試対策といえども学習することの楽しさを身に付けてもらえるように、事物教育を徹底して行ってきました。楽しく学習をしてきた子どもたちですから、入試が終わっても自発的に学習を継続したいと前向きに取り組むのは不思議なことではありません。1月から始まる「就学準備クラス」は、そうした子どもたちの学びの姿勢にしっかりと応えるために、これまでばらクラスで行ってきた学習を踏まえ、それをより発展させながら、入学後の学習にスムーズに入っていけるような内容を考えています。

11月28日の午前中、入学先が決まった保護者の皆さまを対象に「これまでの基礎教育を小学校の学習にどうつなげるか」というテーマでセミナーを行いました。毎年行っているセミナーですが、今年は取り巻く環境が大きく変化し、保護者の皆さまも大変関心をもって参加されていました。"大きく変化した"というのは、一つには2020年度から新しい指導要領での学習が始まるということ、また一方で「記述式の入試をどうするか」「英語の試験をどうするか」など、大学入試の在り方をめぐって連日報道され、そのことを通してこれからの教育のあり方が議論されているということです。また、皆さまもきっとどこかで耳にされたり読んだりされたことがあると思いますが、「教育のグローバル化」「アクティブ・ラーニング」「プログラミング教育」「AI社会における教育のありかた」など、教育をめぐる聞きなれない言葉が飛び交っています。しかし、そうした言葉で表現される内容があいまいであるため、いろいろな思惑が交錯してより難しくしている面もあることは疑いがありません。「プログラミング教育」ひとつをとってみても、正しく議論されているとは思いません。その結果、文部科学省の方でも、「小学校段階におけるプログラミング教育については、コーディング(プログラミング言語を用いた記述方法)を覚えることがプログラミング教育の目的であるとの誤解が広がりつつあるのではないか」と危惧しています。世界の教育の流れに遅れまいと横文字での言い回しが増えていますが、実体のない言葉が独り歩きすると、大きな混乱が現場に起こるというのはよくあることです。いつもそうですが、日本の教育行政は実体のないまま掛け声だけが先行するため誤解が生じてしまうのでしょう。こうした状況下で行ったセミナーですので、大学教育まで踏まえたこれからの学習課題について、一体何が問題なのかを解説し、その中で就学準備から始まる「算数」と「国語」の課題について具体的にお話ししました。

算数科の課題
小学校6年間の算数は、3年生までは四則演算の計算トレーニングが中心です。1年生でたし算・ひき算、2年生でかけ算、3年生でわり算を学びます。数の大きさは、学年が進むにつれて大きくなっていきますが、特に3年生までで大きくつまずくことはありません。
それが4年生になると、分数や小数が登場し、図形課題も難しくなります。扱う数も大きくなり、計算に費やす時間も長くなります。また四則演算が修了したことで、いわゆる特殊算の文章題も増えてきます。その後決定的な分かれ目は、5年生で学ぶ「割合」です。この割合が理解できるかどうかが、小学校算数の最大の課題です。また図形に数量化が加わり、立式が難しい課題の一つになります。表面的には3年生までで大きな問題は起こりませんが、4年生以降の応用課題で差がついていくのは、いわゆる論理数学的思考ができるかどうかです。それは言葉を変えて言えば、基礎段階の易しい課題をどこまで深く理解しているかということでもあります。例えば、かけ算の3×2が暗算できても、それを使って作問できるかどうか、「3×2」と「2×3」の意味する違いが分かって九九の計算ができるかどうかということです。その理解が不十分なまま、九九ができればいいと考えて進んでいくと、あとで大きな壁にぶち当たるのです。だからこそ計算主義の算数の誤りは、4年生以降に顕在化するのです。私たちが幼児期の学習を小学校の課題につなぎ、幼小一貫教育の考え方で内容を具体的に明らかにしなければならないと考えているのは、そうしたことが起こらないようにしたいと思っているからです。

国語科の課題
小学校以降に学ぶ国語は、聞く力・話す力・読む力・書く力の4技能の育成を目指し、内容が考えられています。KUNOメソッドによる幼児期の言語領域の学習は、聞く力と話す力に力点を置いて内容を考えてきましたが、これからはそれをどう「読む力」と「書く力」の育成につなげていくかが課題です。ばらクラスでは、話の内容理解・お話づくり・言葉の理解の3つの柱で1年間の内容を考えてきましたが、その学習をどのように読解と作文につなげていくか、これが就学準備の大きな課題です。特に読解力が劣っているという新井紀子氏の警告『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)に応えるためにも、読解力を高める学習をしっかりと組み立てていかなければなりません。今こぐま会の就学準備クラスや小1クラスで取り組んでいる課題は、聞く力を読む力につなげていくために、「音読」を徹底して行うということです。声を出して文章を読むことが読解の基礎になっていくと考えているからです。拾い読みをする子、すらすら読める子、感情をこめて読める子・・・読みの違いの背景には、文章理解の違いがあるからではないかと考えています。

幼稚園の新しい指導要領では、「小学校とのつながりを考えた幼児期の教育」を勧めています。しかし、具体的に何をどうすればよいのかの提案もなく、現場の先生や保育士の方は大変困っていると聞いています。こぐま会のKUNOメソッドが小学校とのつながりを考えた教育内容であるということを紹介しましょう。多くの学校で採用している学校図書の「しょうがっこう さんすう 1ねん」の内容とセブンステップスカリキュラムの内容を対応させてみると、次のようになります。

学校図書の単元こぐま会「セブンステップスカリキュラム」
1どうぶつたんけんステップ1-6:分類1
ステップ3-6:分類2
210までのかずステップ1-3:計数、同数発見、5の構成
3いくつといくつステップ1-3:5の構成・7の構成
ステップ5-3:10の構成
4なんばんめステップ1-2:前後・上下関係
ステップ2-2:左右関係
5たしざんステップ6-3:数の増減
6ひきざんステップ2-3:一対一対応
ステップ6-3:数の増減、数のやり取り
710より大きいかず
8とけい(1)
9かたち(1)ステップ1-4:基本図形とその構成
ステップ2-4:立体構成
ステップ3-4:同図形発見、点図形
10かずしらべ
11たしざんとひきざんステップ1-3:計数、同数発見、5の構成
12たしざんステップ5-3:10の構成
13ひきざんステップ2-3:一対一対応
14たすのかなひくのかなステップ6-3:数の増減
15大きさくらべステップ1-1:大きさ・多さくらべ
ステップ3-1:長さくらべ
1620より大きいかず
17とけい(2)
18かたち(2)ステップ1-4:基本図形とその構成
ステップ2-4:立体構成
191年のまとめ

以上の対照表でお分かりのように、1年生で学ぶ学習内容のほとんどの基礎を、すでにこぐま会ばらクラスの1年間の学習の中で学んでいることになります。こうした内容ですので、幼小一貫教育の一つの方法として教育関係者から注目され始めています。これから始まる就学準備の内容は、ばらクラスで学んだ内容を踏まえ次のように考えています。

「就学準備クラス」全10回の内容

【算数】
第1回:たし算・ひき算って何?
第2回:たし算・ひき算の計算法
第3回:隠れた数を探せ(魔法の箱を数式で)
第4回:かけ算って何?
第5回:わり算って何?
第6回:かけ算の答えはどう出すの?
第7回:文章題に強くなる(1)  立式練習
第8回:図形課題(三角形の分割・線対称・展開図)・時計
第9回:文章題に強くなる(2) 数式を見てお話をつくる
第10回:総まとめ
【国語】
第1回:音読 詩の暗唱 文字練習「ひらがな」
第2回:読解(1) 同頭音・清音・濁音・半濁音
第3回:読解(2) 促音・拗音
第4回:読解(3) かなづかい「じ」と「ぢ」・「ず」と「づ」
第5回:言葉の学習 長音表記
第6回:読解(4) 時を表すことば・様子を表すことば
第7回:読解(5) あいさつのことば・反対のことば
第8回:読解(6) 句点・読点・「 」(かぎかっこ)
第9回:読解(7) くっつきの ことば「は」「を」「へ」
第10回:言葉の学習 文を書く(「誰・何どうする」「誰・何がなんだ」)


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