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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「700号達成 現場にこだわり続けて」

第700号 2019年12月6日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 2005年から書き始めたホームページのコラムも、今回で700号を迎えることになりました。毎週お読みいただいている大勢の皆さま、ありがとうございます。激励のお言葉をいただくこともあり、大変感謝しております。2005年から書き始め、15年間ほとんど毎週書き続けてきたことになります。SNS全盛の時代にあって身分を明らかにして「書く行為」の意味を問い続けながら、今日に至っています。自らの実践を検証し、日本の幼児教育の在り方を考え、書き続けることができるのは、教室指導の現場に出ている結果であり、それは健康であることの証でもあるため、私にとっては大変ありがたいことだと思っております。1972年から今日まで、47年間子どもたちの指導に当たってきたことになりますが、70を超えやはり体力の衰えを日々実感しています。あと何年現場でがんばれるかどうか・・・最後の締めくくりをどうしようか・・・そのゴールの情景を思い描いたりしています。いつまで続けられるか分かりませんが、これからも現場にこだわり続け、子どもたちの前に立ち続けたいと思っています。

今、さまざまな視点から教育のあり方が見直されています。特に大学の入学試験のあり方をめぐり、「英語の試験をどうするか」「記述式の試験の導入をどうするか」・・・といった議論が連日報道されています。幼児教育に関しては、保育料の無償化でOECDの勧告に応えているように見えますが、無償化したところで教育の質・教育環境が良くなるわけではありません。AI社会の到来で、人間の労働の質が問われるはずだという考えを前提に、知識偏重の入学試験では社会で活躍できる人材は育たないということで、大学入試のあり方が検討されているわけです。そのことが、すべての段階の教育に影響するのは当然で、小学校教育のあり方にも関わってくるはずです。しかし、最近の議論を見ていると、大学に入るための入り口の議論をしているだけで、本来の大学教育のあり方を議論することはほとんどありません。入り口が狭く、出口が広い日本の大学教育のあり方を根本から変えないと、今議論されていることも根本的な解決にはならないのではないかと思います。大学教育のあり方を変革し、AI社会に役立つ人材の育成を目指すべきです。入り口のところでふるいに掛ける方法だけを議論し、入学した後の学びのあり方や卒業の仕方を検討しないようなやり方では、目指すべき教育改革にはつながっていかないと思います。

12月4日の朝刊に、OECD学力調査(PISA)で日本の15歳の学力が相当落ちているという報告がありました。特に読解力の成績が急落し、過去最低の15位だったようです。この点につきましては、以前のコラム(第653号第660号)でも書かせていただいた、新井紀子氏の警告『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)の予想通りだったということで深刻な問題です。数学的な能力を問うような問題も上位を維持しているとはいえ、以前に比べると学力が確実に低下しているようです。それに比べ、中国は3分野(読解力・数学的応用力・化学的応用力)で1位を獲得したようです。講演会などで中国を訪問した際に感じる異常なまでの親の教育熱や、この度発売した中国版ひとりでとっくん365日の売れ行き状況を考えてみると、なるほどとうなずける結果です。東南アジア・東アジアの国々が、幼児期の教育のあり方を真剣に議論している時代にあっても、のんびりとした自由保育・遊び保育を推奨している国ですから、こうした結果になるのは当然のことです。またKUNOメソッドのような意図的な知育教育はお受験教育だと、色眼鏡で見ている幼児教育関係者がいる限り、この国の幼児教育には何も期待できないでしょう。だからこそ、KUNOメソッドを広げる意味があるのです。実践を通して作り上げたメソッドです。そこに子どもの存在があるからこそ、皆さまに支持されているのだと思います。2年前の第600号でも書きましたが、新しい幼児教育のあり方に関する議論が深まってほしいと願っています。私自身この2年間で多くの人に出会い、またいくつかの新規事業も始まりました。忙しい2年間を過ごしてきましたが、まだやり残していることがあります。それを実現するためにも、まだまだ現役を引退できません。

これまで私が取り組んできた仕事を整理すると以下のようになります。
1. 教室事業
国内および海外7カ国での幼児教室事業
2. 教材制作および出版
こぐまオリジナル教材、 ひとりでとっくんシリーズ、 ハローキティ・ゼミ/のりものゼミ THE RUNABOUTS、 100てんキッズシリーズ、 中国での教具教材・出版活動
3. 講演会活動
国内外での教育講演会、 考える力を育てる「子育てセミナー」の開催、 理論書・実践記録の発行
今後もこうした仕事により磨きをかけ、教育の質を高め、幼児教育に新しい風を吹き込む活動を続けていきたいと思います。さらに、幼児向けに開発した教具・教材が高齢者の認知症対策に有効であるという実証を踏まえ、来年以降高齢者向け教材開発を行う予定です。また、幼児教育の最大の現場である幼稚園や保育園にKUNOメソッドを広げていくために、いくつかの園に協力をお願いし、アフタースクールを開講します。いずれは正課に取り入れていけるよう、カリキュラム作りに力を注いでいきたいと思います。現場にこだわり続けて47年。これからも子どものいる現場に身をおいて、「考える力を育てる幼児教育」の構築を目指して子どもたちの指導にあたっていきたいと思います。


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