■ 「学びが学びを呼ぶ」
第573号 2017/4/21(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可


 ジェームズ・ヘックマン教授の主張が、OECDの保育政策の理論的背景にもなっており、世界各国で幼児教育に対する国家の投資が加速しています。「よい納税者をつくるために教育をどうするか」という、労働経済学の視点に立った考え方が、幼児教育のみならず国家の教育政策に大きな影響を与えています。大学入試の改革、小・中学校でのアクティブ・ラーニングの導入、幼児教育の無償化・・・などに表れた政策に、少なからずヘックマン教授の考え方が反映しています。ヘックマン教授は、著書『幼児教育の経済学』(東洋経済新報社, 2015)の中で、「5歳までの教育が人間の一生を左右する」という主張だけでなく、「非認知能力」の重要性を訴えました。小さいころに学習経験を積んだり、努力することを覚えた子は、新しいことに興味を持ったり、新しい知識を獲得しようとする意欲が旺盛です。ヘックマン教授によるこの「学びが学びを呼ぶ」理論こそが、幼児教育の重要性を改めて世界に示しているのです。

私が海外に出向いて「KUNOメソッド」についての講演会をするようになってから10年が経ちますが、講演の後、必ず質問されることがあります。それは、

「その教育を受けた場合と、受けなかった場合とでは、将来どのように違ってきますか?」

もっともな質問ですが、それは何十年かかけて実証しなければならないもので、今こぐま会では、そのデータは持ち合わせていません。しかし、何をもって「この教育を受けたらこうなった」と言えるのか、これは大変難しい課題です。この教育を受けたから、この学校に入学できた・・・ということは言えても、長い時間をかけて学び、社会に出ていく子どもたちの成長を、「幼児期にこの教育を受けたから・・・」という説明だけでは、少し無理があるようにも思います。幼児期を終え、小学生になり、中学・高校・大学と進んで社会に出ていくわけですから、その成長過程でいろいろな教育を受けたり、いろいろな人との出会いの中で影響を受けたりしながら育ち、成人するはずです。ですから、「こぐま会」の教育を受けたからこうなったなどとは決して言えませんし、そんな短絡的な発想で説明がつくものでもありません。しかし、多くの人たちが持つ素朴な質問には答えなければなりません。

毎年3月になると、中学校受験で○○校に合格しました、大学受験で○○大学の医学部に合格しました・・・というような卒業生からのお便りがたくさん届きます。特に、小学校受験で第1志望校に合格できず、他の私立小学校や公立校から、難関中学校を受験し合格できた知らせを受け、「こぐま会での教育が役立った」とお話しいただけると、やっと肩の荷が下りた気持ちになりますし、心からその努力を称賛したい気持ちになります。幼児期の基礎教育が、「学びが学びを呼ぶ」効果を発揮したとすれば、大学受験や職業選択のような相当先の結果ではなく、当面の課題は、学習面も含め、どんな小学校生活が送れたのかということだと思います。

私たちは「教科前基礎教育」として幼児期の学習を位置づけ、入学後に始まる教科学習の基礎をしっかり身につけておくことが大事だと考えて、教室での指導を行ってきました。決して、どこかの学校に入るための特別なトレーニングではありません。どこの学校に入学しても主体的に学んでいける姿勢と、応用課題を受け止める学力の基礎をしっかり身につけることを目標にしてきました。希望の学校に入学できた子も、できなかった子も、入学すれば次の目標に向かって歩み始めるわけです。その目標に近づくための学力をしっかり身につけることこそが、学びが学びを呼ぶ原動力になるはずです。そして同時に必要なのは、学ぶ意欲を高めるために、学習することの楽しさや頑張ればできるという自信を身につけさせることです。そのために一番大事なことは、子どもを取り巻く環境、特に保護者の見守りです。決して先取りした方針を親が子どもに与えるのではなく、子ども自身が自ら獲得していく環境づくりをどのようにつくり上げていくのかが大事です。第1志望校に合格できず、中学受験で再挑戦、見事難関校を突破したご家庭は、こうした環境があったからこそだと思います。

「学びが学びを呼ぶ」理論は、子どもの主体的な取り組みだけでなく、それを支え、見守る家庭環境があって初めて成立するものです。「この教育を受けたら、受けなかった子とどのように違ってきますか?」という質問に、「この教育を受けることによって、子どもの思考力が鍛えられ、保護者の皆さまの教育に対する考えも変わると思います。その姿勢が継続されて、親子で学ぶ環境が整えば、必ず高い目標が達成できるはずです。」と答えるようにしています。

幼児期にどんなことを学んだかよりも、どんな学び方をしたのかが大事です。小学校受験を目指す子どもたちが、まともな方法で教育を受け、学ぶことに興味を持ち、頑張り抜こうとする姿勢を身につけることが大事です。しかし、今の異常なゆがんだ受験対策では、学びが学びを呼ぶどころか、学ぶことさえ拒絶する子どもを大勢生み出しているのが現状です。強要された環境の中での教え込み教育では、逆に学ぼうとする芽を摘み取ってしまうことにもなりかねません。「事物教育」や「対話教育」によって楽しく学び、その結果として、学ぶ意欲や最後まで頑張り抜く忍耐力を身につけ、自ら主体的に物事を解決していく姿勢を身につけることこそ、次の学びにつながる大事な経験になるはずです。私たちが「幼小一貫教育」にこだわっているのは、まさしくそのつなぎの重要さであり、幼児期の学びが、次の小学校の学びにつながっていくための大事な方法だと考えているからにほかなりません。



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