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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

今年の入試から何を読み取るか(4)
「考える力」が求められる問題の増加

第468号 2015/1/23(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 以前と比べ、ペーパー試験の枚数が少なくなった現在の小学校入試でどんな問題を出すかは、各学校にとっても大変重要な課題です。それは同時に我々塾側にとっても、指導の在り方を考える上で同様です。実際の入試問題を見ると、試験問題作成担当の先生方の苦労がよくわかります。特に最近は、パターン練習で機械的に解けてしまう問題をできるだけ減らし、子ども自身に考えさせる問題が増えている傾向にあります。年長11月の学力チェックが、将来の成長を保証するようなものであるためには、知能検査の問題に象徴される、パターン化された問題では意味がありません。どんな問題を課し、どんな能力を見るか・・・そこに各学校の子どもを見る眼の確かさが問われているわけですが、出された問題を見る限り、相当研究している様子がうかがえます。教え込みのペーパートレーニングだけを機械的に行ってきた子どもには、到底対応できない良い問題が増えています。これまで定番になっている問題を使いながら、質問の仕方や自ら作業して答えを見つけ出す作業を加味して、新しい問題として作り上げています。以前のコラムでも紹介しましたが、もう少し違った問題をみてみましょう。

図形構成 (2015年度入試より)
上のマスに入るパズルが、下にばらばらに置かれています。
  • 黒く塗られているところには、下のどのパズルが入りますか。をつけてください。1枚目が終わったら、2枚目も同じようにやってください。

これは図形構成の問題ですが、空欄を埋める従来の質問形式と違い、全体を構成した後、指定のところに入るものだけを探さなければなりません。そのためには、

1. まず、全部を合わせるとどんな絵が完成するのかを見通す
2. その上で、全体の絵の位置関係を考え、指定の場所に入るものを探す

少なくともこの2つが求められています。図形構成の問題でありながら、位置関係を問う視点も加味されています。すでにいくつかの絵がはめ込まれていて、空欄を埋めるようにして位置関係を考える問題ならば易しくできますが、ひとつも入っていない状態で全体の絵をイメージし、その上で特定の場所の絵を探すということは、相当難易度が高い問題といえます。

次は、「四方からの観察」に関する問題です。以前からあった典型的な問題ですが、2年ほど前からまた急に復活し、それも、ほとんどがつみ木を使った問題でした。今年も以下のように、その流れは続いています。

四方からの観察 (2015年度入試より)
机の上にあるつみ木を周りから動物たちが見ています。
  • それぞれの動物からはどのように見えますか。左のお部屋から選んで、それぞれをつけてください。

一方で、具体的な生活場面を取り入れた問題も出されました。その設問の仕方は工夫され、子ども自身に深く考えさせる要素を盛り込んでいます。次を見てください。

四方からの観察 (2015年度入試より)
男の子と女の子がテーブルに向かい合って座り、カメラで相手を撮った写真があります。
  • 写真の中で、テーブルの上にあるものの映りかたがおかしいものはどれですか。右の縦に並んでいるものの中から選んで×をかいてください。

カメラで相手を撮った写真ということは、太郎さんが写っている左の写真は、花子さんから見た見え方であり、花子さんが写っている右の写真は太郎さんから見た見え方であるということをまず理解する必要があります。その上で、たとえば右の絵を見ながら、左の太郎さんの立場からどう見えるかを考え、間違いを判断しなければなりません。その反対に、左の絵を見ながら、右の絵の反対側にいる花子さんからの見え方と一致するかどうかを判断しなければなりません。写真に撮るということは、写真に写っていない人からの見え方であるという置き換えをしなければならず、その関係の理解がこの問題の目新しさです。よく考えられた問題であると思います。

ところで、思考力を必要とする問題の典型は、従来から「法則性を求める問題」で、難問とされる問題のほとんどは、こうした範疇の問題でした。その典型は、「図形系列」と「魔法の箱」でしたが、最近の問題はより洗練されてきています。次の問題もその一つです。

法則性の理解 (2015年度入試より)
  • 左の形がハートやほし、ひし形を通ると右のように変わります。どんなお約束で変わっているのかを考えて、1番下はどうなるか、右にかいてください。3つとも全部やってください。

これは以前にも紹介しましたが、ある形を通ると変化が起きるという問題です。どんな変化かは説明されず、自分で発見しなくてはなりません。その変化の法則性を自ら導き出し、それを最後のものに当てはめるというのが、この「魔法の箱」の典型です。魔法の箱といえば、これまで数の変化が中心でしたが、この問題のように、位置の変化や関係の変化になると、どこに目を付けたら良いのかが分かりづらく、大変難しくなります。左の図形がある形を通過することによって、いったい何が変わり、何が変わらなかったのか。3つの例を見て法則化することとそれをあてはめることの2つの作業が必要です。たとえば一番左の問題では、ハートの形を通過すると並んでいたものが重なり、その重なり方が左のものが右のものより外側になるという法則性を導き出さなければなりません。3つになれば、左のものが一番外、右のものが一番中になるということです。何となく見ていてわかるものではなく、法則性を掴みしっかりと言語化できなければ解けません。変化するものと変化しないものを観察し、その変化の法則性をしっかり導き出せる思考力が求められています。

以上見てきたように、従来から出されていた問題であるにもかかわらず、質問の仕方や変化の法則性をより複雑にすることによって、問題がより難しくなっています。そしてここでも、教え込まれた知識・解き方を使って解ける問題ではなく、問題の意味をしっかり聞き取り、それにあわせて自分で考え作業し、答えを導き出す経験がないと、かなり難しい問題だと思います。これが最近の傾向で、小学校入試の問題づくりが中学校入試の問題づくりのように、応用する力を見る形式になりつつある前兆かもしれません。

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