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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

タブレット化への第一歩

第390号 2013/5/31(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 タブレット端末が普及していく中で、今タブレットへの教材の取り込みが話題を集めています。先日も教科書会社を中心に、教材のデジタル化を推進する協議会ができたという報道が見られましたが、この流れは急速に進む可能性があります。ただし、どのような内容を取り込むのか、紙焼きとどのように違うのか、また使用する子どもたちの目に与える影響など健康上の問題はないのかどうか等、解決すべき課題はたくさんありそうです。紙焼きの教科書や問題集がそのままタブレットに取り込まれるのであれば、情報を軽量化して、持ち運びが便利なだけに終わってしまいがちですが、タブレットの特徴を生かした教材作りができれば、画期的なものになる可能性はありそうです。最近、こぐま会で発売している「ひとりでとっくん365日 01号」が、テレビ朝日の人気キャラクター「ゴーエクスパンダ」の知育アプリとして商品化されました。事物教育を実践してきた我々にとって、タブレット上でゲーム感覚で行う「指先の操作」だけで認識能力が育つのかどうか疑問を持ちつつ、テレビ朝日の提案に対し、コンテンツを提供しコラボした形で商品化されました。

取り込んだ問題の内容は紙焼きのままのものを使い、質問を文字とアナウンサーの声で行い、その質問に対して答え、正解か否かを瞬時に判断し子どもに伝えます。もし間違っていたらもう一度チャレンジし、正解であれば次の問題に進むという極めて単純な形です。出来上がった商品を実際に手にとって使ってみるまでは、これまで紙焼きの問題集を作り続けてきた私は、タブレット化の有効性を半信半疑で受け止めていましたが、実際に子どもたちに使わせてみて、その反応を見る限り、紙焼きのドリルとは違った利点がいくつかあることに気づきました。アプリのことについて素人の私にとって、驚くこともいくつかありました。何が良いのか。実際に子どもに使わせてその様子を観察してみると、評価できる点がいくつか見えてきました。

  1. 文章を読んで問題を解く段階にない幼児にとって、アナウンサーの声で質問し、問題の意図を伝える機能はとても有効である
  2. できたのか、できなかったのかを即時に子どもに伝える事は、自学自習に適している
  3. 間違った場合、その場で繰り返し再チャレンジできる
  4. 記憶問題に象徴されるように、見せて、覚えさせて、答えさせるという一連の作業をアプリが即座にやってくれることは、「集中力」を高める練習には最適である
  5. 図形を描いたり、線をひいたり、ものを移動させたり、順番にタッチしたりする操作が画面上でできるのは、タブレット化した場合の特殊な機能として評価できる
  6. ゲーム感覚で繰り返しできる点が、ドリルとは違って楽しく取り組むことができる

商品化されたものを、実際に子どもに使わせて検証してみると、以上のようなアプリのよさがいくつか見えてきました。しかし、同時にいくつかの問題点も見えてきました。

  1. どれくらい持続できるのか
  2. 子どもの目に与える悪影響はないのか
  3. ゲーム感覚で行う、指先の操作だけで、「考える力」が育つのかどうか
  4. 間違えた時、即座に繰り返すことはできるが、なぜ間違えたのかをどのように子どもに伝えることができるのか
  5. ペーパー学習と同様、経験のない、まったく新しい課題を、最初からこのタブレットだけでは学習することはできない

私たちが目指す、幼児期の基礎教育の指導法をこのタブレットで全て解決することはできませんから、何もかも期待することは危険です。つまり、幼児期の子どもにとって一番必要な、ものごとに働きかける事物経験や試行錯誤する時間をタブレットで保証することはできません。しかし、体を使った経験・手を使った働きかけ・ペーパー学習と3段階の学習を前提にしたうえで、タブレットに取り込んだ教材で繰り返しトレーニングする意味は、十分あると思います。たくさんの教材を一つのタブレットに入れて持ち運びに便利・・・という側面だけでなく、幼児期の子どもたちにとって一体何が必要なのか、提供する問題の順序性や操作方法に教育的意味を持たせることを実現すれば、教材のタブレット化は、幼児に一番向いているのかもしれません。

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