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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

難しい数の問題にどう取り組むか

第382号 2013/3/30(Sat)
こぐま会代表  久野 泰可

 3月21日に行った、 第4回 ひまわり会合格カレンダー連続講座では、「数の学習をどう積み上げるか」というテーマで、入試における数問題の分析と、数における基礎教育のあり方を伝えました。

ひまわり会 合格カレンダー連続講座
第4回 「数の問題に強くなることが、合格の最低条件」
1. 数の能力はどこまで要求されるのか
A) こぐま会における 数の学習単元
 (1) 分類
 (2) 分類計数
 (3) 数の構成(5~10)
 (4) 同数発見
 (5) 一対一対応 (6) 一対多対応
 (7) 数の等分
 (8) 数の増減
 (9) 数のやりとり
 (10) 交換

B) 2013年度入試で出題された問題の分析
2. 過去10年間 難問具体例
問題を一緒に解いてみましょう
3. これからどのように学習を積み上げていくか
A) 暗算能力の高め方
B) 学校側が問題を難しくする方法
C) 小学校高学年で求められる思考法を易しくして問う問題とは

数に関する幼児期の基礎教育は、将来の算数科の基礎を身につけることが最大の課題ですから、四則演算につながる内容を、できる限り具体的な生活場面に即して指導することが基本です。その内容を将来の学習とのつながりで整理すれば、

  1. たし算・ひき算の基礎として:数の構成・一対一対応・数の増減
  2. かけ算の基礎として:一対多対応
  3. わり算の基礎として:数の等分・一対多対応(包含除)

以上の内容を、数値化された世界でのみ学習するのではなく、子どもたちの生活場面に合わせて学習することが大事です。入試問題の多くは上記学習単元に収まりますが、これに収まりきれない難しい応用問題がいくつかあります。それは、

1. かけ算・わり算の考え方を応用した「交換」の問題
2. 視点を変えて、数の違いをみる「数のやりとり」の問題
3. 一度に違った数の操作を必要とする「数の複合問題」

この3つが入試における数の問題を難しくしています。ここでは、最近授業で行った「数のやりとり」や「交換」の問題について、子どもたちがどのように取り組み、また、どのように正解に至るか、子どもたちの様子を伝えます。まず最初に紹介するのは、学校別雙葉小学校クラスの授業で行った次のような課題です。

数の多少(数のやりとり)
表が赤、裏が白の円形カードを使って
 (1) 並べたものを見て、どちらがいくつ多いか(少ないか)を判断する
 (2) 同じ数にするには、どちらを何枚裏返せば良いかを考える


 (3) 同じ数のものの片方を何枚か裏返すと、数の違いはいくつになるか考える

この問題は通常「数のやりとり」と命名している問題で、
1. 数の違いを同数にするためにどうするか
2. 同じ数であったものを「やりとり」した結果、数の違いはどうなるか

この2つが典型的な問題です。1.の問題は、「数が違う時、同数にするために何をいくつ裏返せば良いか」という質問になりますが、この問題は、視覚的な判断にも支えられてほとんど間違いなく答えられます。しかし、2.の問題のように同数であったものの片方をいくつか裏返した時の数の違いになると、正解できる子が少なくなってしまいます。実際のカードを見せて質問しても、間違えてしまいます。赤を1枚裏返せば、白が1枚多いと言い、赤を2枚裏返せば、白が2枚多いと答えるのです。裏返した数だけ、相手の方が多くなると答える子が多いのです。正解した子に「なぜ白を1つだけ裏返すと赤が2つ多くなるの?」と聞くと、「だって、赤が1つ増えて、白が1つ減るから・・・」と答える子と、「赤が6つになるでしょ、白は4つになって・・・だから違いは2つなの」と、変化した数で比較し答えるこの2通りのやり方が見られます。いずれにしても、増えた方と減った方の両方の数に着目し、答えを出しています。このように、同時に二つの視点に立って数の違いを考えられるようになることが大事ですが、4月に年長になる子どもたちの今の時期の思考法は、やはり、同時に二つの視点でものごとを考える事は難しいようです。これは、この時期の子どもたちの思考の特徴です。ですから、考える視点を一つだけでなく複数持つということが、論理的な思考を成立させる大事な観点であることは間違いありません。こうした「数のやりとり」の課題を解決する方法として薦めているのが、「じゃんけんゲーム」を使った数のやりとりです。5個ずつおはじきを持たせ、じゃんけんをします。勝った方が、負けた方から1個もらうというルールで行います。1回勝負がついたところで数をやりとりし、「持っている数を比べるとどちらがいくつ多いか」と質問します。その時、やりとりした1個に着目すると、「私の方が1個多い」と答える子がたくさん出てきます。そこで、手のひらに隠してあるおはじきを出させて比較させ、2個違うことを確認させます。その時に勝った方の数だけでなく、負けた方の数にも着目しなければいけないということを伝え、判断の仕方を学んでいきます。ゲームのルールを変えて行うことで、いろいろな場合の「数のやりとり」の学習ができ、効果的です。

さて、もう一つ現在の子どもの学力の現状を示す、次のような課題を紹介します。

一対多対応の応用 (交換の基本学習)
リンゴ1個とミカン2個が交換できる
ミカン1個とイチゴ3個が交換できる  という約束がある
 A) リンゴ3個はミカン何個分ですか
 B) ミカン3個はイチゴ何個分ですか
 C) ミカン4個はリンゴ何個分ですか
 D) イチゴ12個分はミカン何個分ですか
 E) リンゴ1個はイチゴ何個分ですか
 F) イチゴ12個はリンゴ何個分ですか

これは、春季講習会で行った課題です。最近の入試でも、「交換」の問題として良く出されている問題の一つです。授業は、黒板に絵カードを貼ってこの約束を提示し、子どもたちには、教師の質問に応じておはじきを操作させて答えさせます。

A)・B)の質問に対しては間違いなく答えられた子どもの中にも、C)・D)の問題になると正解できない子どもが出てきます。例えば、「ミカン4個はリンゴいくつ?」と聞くと、おはじきを12個取り出す子が出てきます。この子は、リンゴと聞かれているのに、イチゴで答えてしまっているのです。ミカンからリンゴの数を求める事ができないので、ミカンとイチゴの関係で解決しようとしたのでしょう。単なる質問の聞き間違えではありません。
12個を取った子が複数いるのは、単純な聞き取りミスではなく、子どもの思考に間違いやすい典型があるためです。つまり、「逆からの思考」ができないのです。C)・D)の質問は、まさしく「逆から問う」問題で、わり算の包含除に当たる問題です。また、最後のE)・F)の問題が、いわゆる「置き換えを伴う交換」の問題で、入試で良く出される課題です。今回「リンゴ1つはイチゴいくつと換えてもらえますか」の質問に対し、1回で正確に答えられた子は、12名のうち2名だけでした。他の子には、「2」であったり「3」であったり、「リンゴとミカン」や「ミカンとイチゴ」だけの関係で考えてしまった間違いが多数見られました。あるものに置き換えて(この場合は、1回ミカンに置き換えて・・・)考えるという思考法が十分できていない証拠です。「一度あるものに置き換えて考える」という思考法を身につけさせるためには、2段階思考をトレーニングするプログラムが必要です。このように、数の問題が数値処理の問題ではなく、「論理」の問題であるということをしっかりとらえておかないと、有効な対策はとれません。

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