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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試速報(4) 「なぜ「一対多対応」の問題が多いのか」

第318号 2011/12/2(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 今年の入試問題を見てみると、昨年の特徴であった「数の問題が減り、図形問題が増えた」という現象はなくなったようです。昨年減った数の問題も各校とも復活してきたように思います。女子校10校の数に関する問題を単元別に整理すると、次のようになります。

学校名出題された学習単元
聖心女子学院初等科数の構成、一対多対応の応用(交換)、分類(私は誰でしょう)
雙葉小学校一対多対応、分類(仲間はずれ)、つりあい
白百合学園小学校一対多対応の応用(交換・包含除)
田園調布雙葉小学校分類(仲間集め)
横浜雙葉小学校一対多対応、数の多少、音の計数
光塩女子学院初等科すごろくによる数の変化
東洋英和女学院小学部数の増減
立教女学院小学校一場面の数の総合問題(同数発見・数の多少・数の合成)
日本女子大学附属豊明小学校数の合成
東京女学館小学校数の複合問題(数の多少・合成)

出題された問題のほとんどが当コラムの308号で予想した問題と合致しています。特にその中で、一番に最初に挙げた「一対多対応」(かけ算の考え方)が予想通り、難しい問題の典型として今年も数多く出題されています。この問題が多い理由は以下のように考えられます。

  1. たし算・ひき算につながる内容よりも、かなり難しい
  2. 形式的になりがちな数の問題の中でも、この「一対多対応」の問題は工夫したオリジナルな問題を作り易い
  3. 他の数の操作と絡めて、複合問題化しやすい
  4. 交換やシーソーにおける「つりあい」の問題にも応用できる

かけ算やわり算は小学校2~3年の課題ではありますが、その考え方につながっていく「一対多対応」の考え方は、生活上必要な数の操作として幼児期の子どもたちにも身近なものなのです。また、「数の増減」や「数の多少」と絡ませながら複合問題化していくことによって、数の操作に幅ができ、問題を解くためにどうしても「考える力」が必要になってきます。条件反射的に反応する「数の計算」と違って、数の操作を通して思考力を高めることができる課題です。だからこそ、難しい問題の典型として、今小学校入試において数の中心的な位置を占めているのでしょう。では、どんな問題なのか具体的に見てみましょう。

雙葉小学校 「一対多対応」
机の上のいろいろなお菓子を動物たちが見ています。
(動物6匹、星のクッキー-8枚、ドーナッツ-7個、アメ-9個)
問1:星の形のクッキーを動物たちが1枚ずつ食べると何枚余りますか。その数だけをかきましょう。
問2:1つのドーナッツを2匹で食べると何個余りますか。その数だけをかきましょう。
問3:アメを2個ずつ配ると、何個足りませんか。その数だけをかきましょう。

白百合学園小学校 「交換」=(一対多対応、包含除)
おはじき2個でリンゴを1個、おはじき3個でミカンを1個、おはじき4個でブドウを1個買うことができます。

問1:おはじきが10個あると、リンゴはいくつ買えますか。その数だけをかいてください。
問2:おはじきが10個あると、ミカンはいくつ買えますか。その数だけをかいてください。
問3:リンゴ2個とブドウ2個を買うためには、おはじきはいくついりますか。その数だけをかいてください。

聖心女子学院初等科 「交換」=(一対多対応)
絵本1冊と、鉛筆2本、消しゴム4個は、同じ値段です。
花子さんは絵本を2冊買いました。
問:絵本2冊と同じ値段で買えるものが入っているカバンを探して青いをつけてください。

横浜雙葉小学校 「一対多対応と数の多少」
※たくさんの動物たちがいる一場面の絵を見ながら数の問題に答えます。
(サル4匹、風船7個)
問:サル1匹に風船を2個あげるには、風船はいくつ足りませんか。その数だけ風船のお部屋に青いをかいてください。

雙葉の問題のポイントは、「1つのドーナツを2匹で食べると、何個余りますか」という問題と、「飴を2個ずつ配ると何個足りませんか」という問題との区別です。1匹が2個食べるのか、1個を2匹で食べるのか・・・同じ1対2対応ですがその意味するところの違いがしっかり把握できるかどうか・・・ここがポイントです。また、白百合と聖心の問題は、我々が一対多対応の応用として考えている「交換」の問題です。白百合は、値段の代わりにおはじきの数で表し、10個で何がいくつ買えるのか、また、リンゴ2個とブドウ2個を買うためにおはじきはいくつ必要かを考えさせます。また、聖心の問題は、絵本1冊と鉛筆2本と消しゴム4個が同じ値段という約束を踏まえ、絵本2冊と同じ値段のものを探すという問題です。単純に考えれば、絵本2冊は、鉛筆4本・消しゴム8個と同じになるわけですが、「鉛筆1本が消しゴム2個と対応する」ということがわかるかどうかが決め手になります。横浜雙葉の問題は「サル1匹に風船を2個ずつあげるといくつ足りませんか」ですが、これは「1対2対応と数の多少」の典型的な複合問題」になります。

現在の入試では、機械的に覚えてきた方法で反射的に解く問題はほとんどありません。話を聞いて状況をイメージし、数の変化を考えながら筋道立てて考えなくては答えが出てこないような問題がほとんどです。小学校の算数で、よく「計算問題」と「文章題」が対比されて論じられることがありますが、まさしくこの文章題の解法につながる算数的思考力を求めています。訓練された計算能力のようなものを求めているのではありません。「一対多対応」とその応用問題がたくさん出される背景には、そうした考え方がはっきりと示されています。小学校入試においても、「数の能力イコール計算ではない」ということをしっかり認識しておく必要があります。

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