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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試速報(2) 「自分で考え、工夫し、行動できるかどうか」

第316号 2011/11/18(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 今年の私立小学校の入試も、早稲田実業学校初等部の発表をもってほぼ終了しました。現在入試問題や合否判定のあり方等について分析を始めています。この結果は、12月18日に行う「2012年度 入試結果報告会」で詳しくお伝えする予定です。また、合格者数についても現在集計中です。来週のこのコラムで第一報をお伝えできると思います。

問題の聞き取りやその後の合格発表を踏まえ、何が合否の決め手になっているのか、また普段の学習や模擬テストの成績と合否の関係がどうなっているのか等の分析も始めています。今年は、面接や行動観察の評価が合否に与えた影響は今まで以上に大きかったのではないかと思います。「学力がありながら、なぜ合格できなかったのか」毎年のように感じることですが、そこが小学校入試の特徴でもあり、また合否判定をわかりにくくしている点だと思います。面接や行動観察が重視されていると言ってしまえばそれまでですが、どんな風に重視されているのか、そもそも子どもの短時間の振る舞いで何がわかってくるのか・・・・そこを明らかにしなくてはなりません。そのひとつの手がかりが、冒頭で掲げた「自分で考え、工夫し、行動できたかどうか」という観点です。それは、これまでの家庭教育の成果でもあるし、また、入学後の成長を支える原動力としてのレディネスでもあるのです。多くの小学校で出題される行動観察の中味を見ていくと、何を評価の対象にしているのかがなんとなくわかってきます。また、実際の試験での個人の動きやグループ内での様子と、その結果としてどのグループからたくさん合格者が出ているのか、出ていないのか・・掲示された合格者の受験番号の数字と実際のグループ行動の様子を付きあわせていくと、明らかにグループ全体で合格できていないと思われる場合があります。そこで一体何が起こったのかも、子どもたちの報告から大体把握できています。

ある学校では、共同で橋を作る課題が出されています。また、ある学校ではグループに分かれてお弁当を作る課題が出されています。いずれも、ひとりで作るのではなく相談し協力してひとつのものを作り上げなくてはなりません。その時の様子が細かく観察されているようです。物事への取り組みや人とのかかわり、人数分用意されていない道具の貸し借り・・・・そんなありふれた行為の中から、「育ち」の背景を垣間見ようとしているのでしょう。その時何よりも大事なのは「自分で考え、工夫し、行動できる子」なのです。子どもたちの物事への取り組みや人への思いやり等は、相手があって初めて成り立つものです。また、それは経験を通して身につけていくべきものです。「こういう時はこうしなさい」と頭の中に叩き込まれても、経験を積んでいかなければ、いろんなことが起こりうる実際の場面で対処しきれないのです。

入試に向けたほとんどの行動観察対策が、見た目の良さ、つまり「お行儀」に象徴されるある「型」を身につけることに集中しています。しかし、学校側が求めているものはそんな外見上の「型」ではありません。集団活動の中で、自分で考え、工夫し、判断し、行動できるかどうか。他人への思いやりも含め、それが入学後に意味を持つ「態度の転移」なのです。姿勢が悪いからと言って、足を縛りつけて学習させることに何の意味があるのでしょう。しばりつけるその紐がなくなったら、また元に戻るだけです。

教え込まれた型どおりの対応は、それを評価する大人には、訓練されてきた結果だということはすぐに解ります。子どもの振る舞いに心がこもっていないからです。私も何度も経験しましたが、それは時に異様な光景とさえ映ります。学校側が見たいのは、普段の家庭生活の中で身に付いた感性・態度なのです。その自然な振る舞いの中に、子どもらしさや他人に対するいたわりの感情がにじみ出てくるのです。あまりにも不自然な振る舞いの背後にある、「家庭教育の放棄・教育の外注化」に対し、今多くの学校が「NO」を突き付けているのです。

身に付いた自然な振る舞いの中に、それまでの家庭教育の成果を見ようとしているのです。5人グループで行う制作時に、わざと人数分の道具を用意しない学校の意図を考えれば、行動観察で何を求めているのか良くわかります。その対処の仕方を形で教え込んだとすれば、あまりにもぎこちない行為、心のこもらない行為に映るのです。

今年、多くの学校で行われた行動観察の様子を子どもたちから聞き取り、それが合否にどう影響したかを分析してみると、「自分で考え、工夫し、行動できる子」に育てるために、どのような経験を積む必要があるのか、また、家庭での母子関係はどうあるべきか・・・・たくさんのヒントが与えられたような気がします。

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