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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

間違った受験対策が行われる背景

第169号 2008/10/10(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 首都圏では面接が始まり、いよいよ入試本番です。今年もまた、合格・不合格の報告に接し「複雑な気持ちの秋」を迎えるかと思うと、少し憂鬱になります。学力がありながら合格できなかった子のことがいつも気になるのです。それでも、入試の現実がある以上、それに立ち向かっていかなければならないし、できれば、合格-不合格の結果に左右されない、幼児教育の大切さに対する確固たる信念を持っていただきたいという想いで現場指導を続けてきました。避けて通ることのできない入試であるなら、その子の将来にとって意味のある教育、また原則を踏み外さない「まともな準備教育」を目指して、カリキュラムや教材を独自に開発してきました。幸い小学校側が出す問題が変化し、私たちの目指す「教科前基礎教育」と「受験のための準備教育」が一致することが明らかになってきました。

間違った受験対策の結果、子どもの成長の芽が摘み取られていく現実をみるにつけ、当事者のひとりとして複雑な気持ちになります。その多くが、母子関係のあり方に原因があり、母親が置かれている環境を改善しない限り、受験のための準備教育によって、子どもから「学ぶ意欲」を奪い取ってしまうことにもなりかねません。最大の被害者は子どもですが、それと同じくらい辛い立場にいるのは、母親自身です。噂話で足元をすくわれ、塾のカリスマ教師から怒鳴られ、成績が上がらない現実に学習の仕方が悪いのかと自分を責め、受験する学校が同じだと言う理由で、それまで良好な関係にあった幼稚園での人間関係に変化が見られたり・・・・「がんばれお母さん」と声を掛けたくなるほど、お母さんは戸惑っています。

子どもをダメにする間違った受験対策がなぜこうも横行するのか。その最大の理由は、小学校入試に関する情報が当事者である学校側からほとんど開示されていないからです。

1. 実際の入試問題の内容
2. 実力主義である証
3. 行動観察の狙い
4. 入試全体において、子どもや家庭の何を評価するのか

教科書のない唯一の入試であり、また幼児期だからこそ、上級校の入試以上に情報を公開する必要があるはずですが、ほとんどの学校が入試に関する情報を公開していません。そのことが、入試の実態からかけ離れた「噂話」や「商業ベースの勧誘」を助長する結果になっているのです。正しい情報が受験を目指す保護者に伝わっていれば、「間違った受験対策」によって母も子も笑顔をなくすことはないはずです。30年以上にわたり情報公開を求めてきましたが、未だに実現していません。ただ、学校によっては、過去問を公開するところが出てきました。これは歓迎すべきことだと思います。

情報公開がなされていない上に、さらに受験対策を担う教育機関のあり方にも大きな問題があり、間違った方法での準備教育に拍車がかかる結果になっています。それは、

  1. 入試問題が正しく分析されていない
  2. 幼児の発達等に関する専門性を身につけた指導者が少ない
  3. 子どもの理解にあわせた、系統だったカリキュラムや教材作りがなされていない
  4. 発達段階を無視した、過去問ペーパートレーニングのみの指導に終わっている
  5. 入試の実情が正しく把握されておらず、実態からかけ離れた難しい問題を解くことが受験準備の教育だと強要される
  6. 1回しかテストを受けていないのに合格者数にカウントするなど、合格者数を偽装した塾の宣伝が行われている

合格さえすれば、どんなことでもOKとする間違った受験対策は、こうした背景があって行われているのです。正確な情報が学校側から開示されない限り、この由々しき現実は改善されないかもしれませんが、人生の最初の学習で、自信を失わせたり、学ぶことが苦痛であると感じさせるような指導は、絶対にあってはなりません。何が本物か、何が偽者かを見分けるのは親の責任です。受験のための準備教育は決して特別なものではありません。まともな幼児期の基礎教育がなされていれば、必ず合格につながるはずです。

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