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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

論理を育てる教育」の可能性

第168号 2008/10/03(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 もうすぐ入試をむかえる子どもたちは、最後の総まとめの授業に真剣に取り組んでいます。課題に取り組む子どもたちを見ていると、ちょうど1年前、ゆりクラスから進級してきた当時のことを思い出します。1年間で本当に入試レベルの学力が身につき、試験を受けるレベルまで仕上がるのだろうかと心配しつつ取り組んできましたが、この1年間の成長に驚くばかりです。1番大きな変化は、視点を変えて物事を考えたり、時間的経過を戻して発想したりすること、すなわち「可逆的な思考」ができるようになった点です。機械的なトレーニングによって身につくことは幼児の場合とても多いのですが、そのことが将来の学力の基礎になっていくかどうかは、はなはだ疑問です。訓練によって身につけた能力では、同じ問題はできても応用する力は身につきません。

知能検査的な問題の多かった30年以上前の入試であれば、機械的なトレーニングで小学校入試は対応できました。ですから、夏休みに集中してトレーニングすれば間に合ったのです。迷路・同数発見・仲間はずれ・同図形発見・点図形など、その当時良く出された問題は今でも出されています。しかし、そうした問題はだんだん少なくなる傾向にあり、それに代わって今は「考える力」を求める良質な問題が数多く出題されています。教育全体の「考える力」の欠如が、小学校入試にも反映しているのでしょうか。多くても10枚程度、一般的には5~6枚のペーパーテストで子どもの学力を見るわけですから、おのずから1問1問の内容は、深く検討され、出されているはずです。

この1年間、「論理的思考力」を育てるために、未測量・位置表象・数・図形・言語の5領域中心の学習を進めて来ましたが、今週が最後の授業です。教科前基礎教育の考え方で内容を吟味し、事物教育と対話教育を重要な教育方法としながら、年間40週の授業を積み上げてきました。受験という目前の課題を抱えながら、過去問だけをやるような誤った教育ではなく、基礎から応用へ、具体から抽象へ、それぞれの領域の課題を系統的に指導してきました。理解力には程度の差こそあれ、みんなが、保存課題を何の疑問もなく解決してしまうし、逆思考や違う視点に立って物事を考えることができるようになりました。暗算能力も相当高まりました。受験を目標にしながらも、次のステップにつながる「考える力」は、この1年間で相当高まったはずです。36年間この仕事に打ち込んできましたが、幼児教育の可能性はまだまだ追究できると確信しています。

現在幼稚園や保育園で行われている「遊び中心の保育」だけでは、今の日本が抱えている「学力低下」の深刻な現状を変えることはできません。「受験」という色眼鏡を外し、今受験生が取り組んでいる課題に少しでも関係者の関心が向けば、今の幼稚園や保育園の保育内容は変革されるはずです。「考える力」を育てる教育が、幼児期の教育の中核に定着していくには相当の時間がかかるかも知れませんが、正しい受験教育の成果は、幼児期における「論理を育てる教育」の可能性を示唆しています。

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