ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

子どもの考える力はどこまで伸ばせるのか (2)

第162号 2008/08/23(Sat)
こぐま会代表  久野 泰可

今年からはじめた「夏季難問講座」では、逆思考の要素を取り入れた課題を多く練習しました。ピアジェは「可逆的思考」こそが、論理を育てる大事な柱であると主張し、

(1) 別な視点に立って、物事を考えられるかどうか
(2) 実際には戻せないけれど、思考のレベルで時間的経過を戻して考えることができるかどうか

の2点を重要課題として掲げました。

そうした視点で分析してみると、入試問題にも関連した内容がたくさん出されているのがわかります。(1)の別な観点に立って物事を考えられるかどうかは、「四方からの観察」や「観点を変えた分類」で問われていますし、「数のやり取り」でも、同じような思考法が求められています。また、量の保存が解決できる子にその理由を尋ねると「高くなっているけど、細くなっている」というように、別な視点に立って変化をとられています。
(2)の逆思考に関する問題は小学生の文章題でも良く出され、答えは出るけど式が立てられないという事実を現場の先生たちはつかんでいるはずです。例えば、1年生の問題で次のような問題があります。

  • りんごがいくつかありました。花子さんが3個食べたので、残りは5個になりました。最初いくつあったのでしょうか
  • りんごが8個ありました。花子さんが何個か食べたので、残りは5個になりました。花子さんはいくつ食べたのでしょうか
  • りんごが3個ありました。お母さんがまた何個か買ってきたので、全部で8個になりました。お母さんはいくつ買ってきたのでしょうか

こうした問題は、答えは暗算ですぐに出せるのに、その答えを出すための式が立てられないのです。ひき算の場面でありながら、たし算をしなくてはならない場合や、たし算の場面でありながらひき算をしなくてはならないような場合、式がたたないのです。つまり、時間的経過をさかのぼって、求められている答えを出すための立式が難しいのです。こうした学力の現状があるためか、最近の入試問題にはこの「逆思考」に関する問題が増えています。数の増減においては、最後の答えからさかのぼって、途中の抜けた数を求める問題が増えています。

こうした「逆思考」の問題は、数だけではありません。今後、いろいろな領域において「逆思考」が求められてくるはずです。そこで、これまでと同じ領域の問題でありながら、質問を逆にしたらどうなるかを考え、この夏の「難問講座」で取り上げてみました。その結果、予想以上に子どもたちにとって、「逆思考」が難しいことがわかりました。どんな内容か、いくつか掲げてみましょう。

(1) 方眼上の位置移動の逆思考
(2) 数の増減の逆思考
(3) しりとりの逆思考
(4) 魔法の箱の逆思考
(5) 回転推理の逆思考
(6) じゃんけんゲームの逆思考

この中の(1)方眼上の位置移動の逆思考を例にとってその難しさを考えてみましょう。方眼上の位置移動は、方眼上を指示通りに移動する問題です。例えば、「青い丸から出発して上に3右に4下に2行ったところに赤い丸を書きなさい」というような問題です。言葉の指示による移動や音の指示による移動などがありますが、こうした問題は記憶の要素が絡んでいますが、思考力云々の問題ではありません。しかし、「あるところから出発して、上に3右に4下に2動いて青い丸のところにつきました。最初どこにいましたか。」という問題になると、ほとんどの子が手がつけられません。なぜでしょう。「戻る」という操作が難しいのです。
さてこの問題をどう解決するか。つまり、もどればよいという発想をどう身につけるかということです。そのために、簡単な問題から練習します。

(1) 上に5動いて赤い丸のところにつきました。最初はどこにいたのでしょう
(2) 上に5左に4動いて赤い丸のところにつきました。最初はどこにいたのでしょう
(3) 上に5左に4下に2動いて赤い丸のところにつきました。最初はどこにいたのでしょう

(1)の問題はほとんどの子ができるはずです。しかし、下に5もどって、解決する子はほとんどいません。どうやって解決するか。大体の見当をつけて、そこから上に5動かして赤い丸のところにつくか、確かめるのです。もしつかなければ、違う場所からスタートして、同じように調べるのです。同じ列の下のほうから出発したということはわかるので、見当をつけて、解決できるのです。しかし、(2)のように、1回曲がるような場合は、見当のつけようがありません。そのために、(1)の段階で逆にもどるということを徹底して練習するのです。上に5は下に5もどればいいし、右に5は左に5もどればよいことを徹底します。そうすると、(2)の問題になったとき、何人かの子は、「上に5左に4」動いて到着したのだから、「右に4下に5」動かせばよいと理解できるのです。しかし、すべての子がすぐにわかるわけではありませんから、動いた軌跡を矢印で示し、それを戻すにはどうするかを考えさせます。視覚的な情報があれば、もどることはイメージできるのです。しかし、(3)のように2回曲がるような問題は、10人いて2~3人が1回でできるくらいの難しい問題に変化してしまいます。3つの方向を逆にもどるということは、子どもたちにとって大変難しいようです。しかし、方向を逆にしてもどればよいということが理解できるようになれば、相当程度の問題は解決するはずであるし、そこで学んだ「逆にもどる」という発想は、必ず別な場面で応用できるはずです。

「魔法の箱」や「しりとり」のように、約束がある場合の「逆思考」は、その約束を逆にするとどうなるかを考えさせる意味で、良い問題です。例えば、魔法の箱は、入れた数がどのように変化し、いくつになって出てくるかを問う問題ですが、それを逆にするということは、出てきた数を見て、入れた数を考える問題に変化します。

このように、柔軟な思考を育てるために、「もどる」発想をいろいろな場面で経験させたいと思います。その意味で、今年の難問講座は、子どもたちだけでなく、実践者である私にとっても、幼児期のこどもたちの学力はどこまで伸ばせるか、どのように伸ばせるかという意味で、大変良い経験になりました。この経験を生かして、新しい学習内容や新しい教材を開発したいと思います。

PAGE TOP