ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

品川区ラグビーフットボール協会での講演会

第871号 2023年10月6日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 9月30日に、一般社団法人 品川区ラグビーフットボール協会 が主催する「熱心なあなたは、教えすぎていませんか」と題したセミナーに登壇いたしました。ラグビーを通して子どもの成長にかかわっていこうとする親やコーチに欠かせない指導の視点を、幼児教育の視点から学ぼうということでの依頼でした。

実はこのセミナーが企画される前に、協会の幹部の方が私の授業を見学されたことがありました。その際に、知識を教え込むのではなく、主体的な学びを引き出す子どもたちとのやり取りをご覧になって、スポーツの習得との共通点を感じられたそうです。それがきっかけとなって、ぜひ子どもの成長にかかわる指導のポイントを親やコーチに伝えてほしいというお話をいただくことになりました。これまで、教室に通われているご家庭の保護者の方や教育関係の方を対象としたセミナーは数多く行ってきましたが、スポーツ指導をされる方を対象にした講演は初めてでしたので、どのような話をしたらよいのか迷いましたが、参加された皆さまから多くの質問をいただきながら話を進める形式で、1時間半のセミナーを終えました。

「熱心なあなたは教えすぎていませんか」というキャッチフレーズは、受験に臨む保護者の皆さまにも当てはまることですが、スポーツの場合も、早く高度な技術を身につけてほしいという大人の願望に子どもがつぶされていくのではないのかという懸念が常につきまとうことから、幼児を対象とした教育からヒントを得たいと考えたのだと思います。

セミナーは次のような内容で行いました。

  1. 幼児教育を中心とした教育の現状
  2. 幼児期の基礎教育の課題は何か 読み・書き・計算の前にすべきこと
  3. 考える力とは何か
  4. こぐま会が提唱するKUNOメソッドの内容と方法
  5. 幼児になったつもりで考えてみよう
  6. 幼児期の子どもたちにとって、なぜ運動は大事か
  7. 私が、授業で大切にしてきたもの

先日授業を見学された幹部の方は、特に「読み・書き・計算の前にすべきことがある」というキャッチフレーズを気に入られたようでした。読み・書き・計算という目に見える形の前に、それを支える「考える力」がなかったら本当に身についたことにならないという私の講演をお聞きになって、スポーツも同様に、目に見える技術だけでなく、それを支える運動の基礎がしっかりできていなければならないとお考えになったそうです。そして、技術主義に流れる指導を変えていかなければ、本当の意味で子どもの成長にかかわることにならないと思われたようです。

知識や解き方を教え込むことが多いペーパー主義の受験準備教育の中にあって、事物を使い、対話を通して授業を進めていくKUNOメソッドの指導方法に、スポーツ指導者にとっても大事な視点があると感じていただいたのが、今回のセミナーが実現するきっかけになったように思います。そのことを実感していただくために設けた「幼児になったつもりで考えてみよう」というコーナーでは、授業で行っている問題を実際に解いていただき、指導のポイントは何かということを一緒に考えました。躓いた時にどのような声掛けをするのかを、具体的な問題を通してお伝えしたため、参加された皆さまにも実感いただけたことと思います。また、幼児期の運動についても、「逆上がりができる」「跳び箱が何段飛べる」といった技術的なものではなく、「リズム感」「バランス能力」「反応能力」といった、運動を支える能力をしっかり育てることがいかに大事かをお話ししました。そして、小学校受験で問われる運動能力はそうしたものであることも伝えました。それは、数学の基礎を「原数学」と提唱した遠山啓氏の考えになぞらえていえば、「原運動」ということになるでしょうか。今回のセミナーを企画された方は、そうした基礎運動をなおざりにして、技術面だけを教える方法では結果的に技術も伸びないと考えていらっしゃるのだと思います。保護者やコーチが、目に見える形での技術を早く身につけさせようとするのは間違っていると考え、自分たちのすべきことのヒントを、幼児期の教育方法に求めたのだと思います。

このような集まりであったため、普段はあまり話すことのない「私が授業で大切にしてきたもの」という私自身の授業観をお伝えしました。
  1. ものに触れ、働きかける経験をたくさん持たせる(ペーパー主義の指導では考える力は身につかない)
  2. 子どもの考え方を引き出すために、教え込みの教育はしない
  3. 考えるプロセスを大事にするために、正解でも不正解でも答えの根拠を説明させる
  4. 幼児教育の源は「生活と遊び」であり、その経験をいかに学習につなげるかを常に考える

特にこの中で、BとCの教育方法に注目されたようでした。教室での学習指導とスポーツ指導に共通点があるという指摘は、私たちにとっても意味のある視点です。以前は、幼児期のスポーツはスイミングが中心でしたが、最近は、サッカー・野球・ラグビーなどの球技を幼児期から経験させるご家庭が増えているようです。スポーツを通して空間や時間を把握する認知能力を高める側面もあり、私たちが3段階学習法の最初に行う「身体活動」の中に、これまで以上に運動的要素を取り入れる必要性を感じました。


 こぐま会代表 久野泰可 著「子どもが賢くなる75の方法」(幻冬舎)

読み・書き・計算はまだ早い!

家庭でできる教育法を一挙公開
子どもを机に向かわせる前に実際の物に触れ、考えることで差がつく。
  • 食事の支度を手伝いながら「数」を学ぶ
  • 飲みかけのジュースから「量」を学ぶ
  • 折り紙で遊びながら「図形」を学ぶ
  • 読み聞かせや対話から「言語」を学ぶ
お求めは、SHOPこぐまこぐま会ネットショップ 全国の書店・各書籍ECサイトにて

PAGE TOP