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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

紙芝居制作に見られる子どもの成長

第547号 2016年9月23日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 こぐま ひまわり会で行う「行動観察」は、毎月1~2回テーマを変え4月から行ってきました。日常行う講座に通えない子どもたちに、集団活動の経験を積んでもらうことを目的に、そしてまた、一人一人の子どもの評価を保護者の皆さまに正確に伝えるために、日常の講座とは少し違った方法で授業を行っています。

  1. 授業をDVDに録画してお渡しする
  2. 声かけをする教師以外に、一人一人の子どもの動きを観察し評価する教師を置く
  3. チーフ・サブ・評価者・撮影者の4名の教師が、12名の子どもを受け持つ

4月から行ってきた行動観察のテーマの中で、同じテーマで3回行うものがあります。それは「紙芝居作り」ですが、3回とも子どもの成長に合わせ、違った方法を取ります。

1回目長いお話を聞かせ、それを4~5名で相談し、紙芝居に仕上げる
発表会では自分の描いた絵を担当し、お話を再現する
2回目自分たちで話を考え、紙芝居を作る前に、話をつくりやすいように題名だけを複数与える。その中から相談して選び、話をつくり、紙芝居に仕上げる
3回目最後は、話も自分たちで創作し、それを紙芝居として完成させる

9月は、2回目に当たる「題名だけを与えた紙芝居作り」を行いました。
その内容は、

4人グループで相談して紙芝居を作る
まず、題名を2つ与える
A : 花子さんのお手伝い
B : 花子さんと仲良しポチの冒険
  1. どちらの話にするか相談して決める
  2. 決まったら、お話をみんなでつくる
  3. どこを描くのかを相談して決め、決まったら描き始める
  4. 出来上がった紙芝居を使って、みんなの前でお話を発表する

9月に行った2回の授業で、合計6グループが紙芝居制作をしましたが、予想した通り、そのうちの5グループは「花子さんと仲良しポチの冒険」を選び、話をつくり、描く場所を決め、紙芝居を作りました。完成した紙芝居をもとに発表の練習をし、その後グループごとに前に出て発表しました。この紙芝居作りの授業は、最初の相談から最後の発表まで約1時間を必要としました。一つの活動にこれだけの時間をかけるのには、わけがあります。みんなで力を合わせて一つのものを作り上げる経験は、その場を意図的につくっていく必要があります。受験の行動観察対策といえども、振る舞い方を教え込んでやれるわけではありません。他人が存在すれば、自分の思い通りに行くわけではないからです。自分も主張し、相手の意見もしっかり聞き、4~5人の考えを一つにまとめていく作業は大人でも難しい作業ですが、その経験が大事です。子どもたちは、紙芝居を完成させるという一つの目的に向かって、考え方をまとめ上げていきます。そのまとめ方にも、経験することによって大きな変化が見られます。一般的に「相談することの大切さ」を教え込んでも、何を相談するか、その目的がなければ発言できないし、できてもおしゃべりになってしまいますし、まとまりもしません。

最初のころ(4月ごろ)の相談は、発言力のある強い子の主張に皆が引きずられ「いいよ」とだけ相づちを打っていた子どもたちが、この夏休みを越えると毎年のように、みんなが自己主張し始めます。時に意見がまとまらないこともありますが、その間教師がじっと我慢して様子を見ていると、不思議なことに、全体を取りまとめる子が出てきて、一つの方向にまとまっていくのです。

私は、仮に5分間何も言葉が発せられず沈黙が続いても、じっとその様子を見守っています。すると必ず誰かが口を開きます。1人が口を開くと必ずそれに反応して話す子が出てきます。そうした子ども自身の自発的な行動を見守らず、こういう場合はこうしなさい的なアドバイスを教師がするのが、今盛んに行われてる教室での行動観察対策だと思います。しかし考えてみてください。入試は、全く知らない子どもたちがその場でグループをつくり、それで活動しなければなりません。予測もつかないことが起こるでしょう。その際に自主的に解決できるのは、その場の子ども自身の判断でしかありません。教えられた通りに事が運ぶことは皆無と言っていいでしょうし、頭に刷り込んでいった解決法は、ほとんど使えないのが現実です。どれだけ時間がかかっても、子どもたち同士で解決していく経験を持たせなければ、臨機応変に対応する力は身につきません。

今回の紙芝居作りで子どもの成長を感じたのは、次のような場面です。

  1. どの課題にするかのはじめの相談の際、一方的な自己主張をする子はほとんど見られず、常に相手の存在を意識しています。「~さんはどちらがいいと思う?」「~さんは何を描きたいの?」といった具合に、あまり発言しない子に発言を求めていきます。前回の紙芝居づくりで元気な子の主張にほとんど流されていた雰囲気とは、格段の違いです。

  2. 意見が違った場合、簡単に譲ることはせずに必ず理由を言い、それに対抗する子の意見もその理由を聞き、最後はみんなで決めていくルールのようなものが、暗黙のうちに出来上がってきているようです。初めて参加した子と、4~5回参加し相談の経験がある子の違いは、こうしたところに現われてきます。決して何かを教え込んできたわけではないけれども、経験して積み上げていくことの重要さを痛感します。

  3. 特に今回顕著であったのは、前回の紙芝居作りでは、登場人物の服装はまちまちであっても無頓着だった子どもたちが、今回はどのグループも、登場人物の服装や持ち物をみんなでそろえていく動きが見られました。紙芝居の特性を認識し、そろえなくてはいけない部分と、それぞれが受け持つ場面の違いをしっかりと認識していることがうかがえます。同一性の概念がしっかりと身についてきたことの現れです。変わっていいものと、変わってはいけないものの理解が出来上がりつつあるということです。

1人だけの学習ではどうにもならない「相談する」という経験や、共同して一つのものを作り上げていくという経験は、ペーパーテストの点数で測れない大事な能力であるし、今はやりの「非認知能力」の一つだと思います。こうしたことを学校側が大事にし始めていることが、小学校入試の先進性だと思います。

第3回目の紙芝居作りは、10月に入ってから行います。今度は、自分たちですべてを相談して作り上げる紙芝居です。そこで子どもたちは何を表現し、どうまとめ上げていくか楽しみにしています。こうした活動の中にも、はっきりと子どもの成長が見られるわけですから、ペーパーを使わない学校の入試が正当性を持っていることは理解できますし、今後こうした動きは増えていくかも知れません。

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