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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

新しい発想の問題集が出来上がりました

第279号 2011/2/4(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 子どもたちの学力を育てる教授法について、昔から今日まで続く論争があります。それは、「生活単元学習」か、それとも「系統学習」か、という議論です。生活単元学習は子どもたちの生活や遊びにテーマを求め、その活動を通してさまざまな学習課題に取り組ませようとするものです。また系統学習とは、ある一つの事項を、生活や遊びと少し切り離してでも教科の系統性を踏まえてきちんと指導すべきであるという考え方です。この議論は、要するに学習の動機づけをどうするかという点と本当に身についた学力として定着し次への学習の基礎になっていくかどうかという点での議論です。生活単元学習の良い点は、子どもが興味を持って学習に取り組むということ、しかし、その楽しい経験だけで、はたしてきちんとした学力が身についていくのかどうかという不安が残ります。一方「系統学習」は、段階を踏んで進む学習で、きちんとした学習はできるけれど、学習の動機づけも含め、それが本当の力となって子どもたちに身についていくのかどうかという疑問が残ります。「生活単元学習が子どもの生活経験とつながることばかりを考えて、各教科の背景にある諸科学の系統性を軽視し、科学文化の積極的な習得という教育の目的を逸脱している」として、生活単元学習が批判されることもしばしばありました。多くの論争や実践を経て、今では学習する内容や学習する年齢などによって、双方の良さを取り入れていこうとしているのが現場の動きではないかと思います。

では、幼児期の基礎教育はどうあるべきでしょうか。私は、低年齢ということも含め、基本的には「生活単元学習」的な発想で学習場面は構成されていくべきだと考えています。しかし、学ぶ順序の大事さや教科学習につなげていくという意味で、やはり系統学習的発想で指導内容が組み立てられないといけないと考えています。生活単元学習的な発想の授業で興味を持って活動に関わり、経験をしっかり積み、興味関心を継続させながら「系統学習的発想」で繰り返しのトレーニングがなされるのが一番良いと考えています。こぐま会の基本クラスは、年間48週の学習テーマを「系統学習」的発想で組み立て、一つ一つの授業の導入部分や具体物を使った授業場面では、生活や遊びを再現する手法で授業を進めていくことになります。そこで課せられる具体物操作やカード操作による試行錯誤で、考え方の基本を身につけるようにしています。

幼児期の基礎教育は、教科書とノートを用意し、読んだり書いたりすることを中心とした小学校以降の学習方法ではなく、具体物を媒介とした「聞く-話す」を中心とした方法で学習が進むのが、発達にあった好ましいやり方だと思います。中でも聞き取る力の育成は大事です。最近の小学校入試においては、どの学校でもこの「聞く」力を大事にしています。ペーパーワークといえども、基本的には設問を聞いて問題の趣旨を理解しなくてはなりません。数の学習といえども、概念の理解や指示の理解はすべて言葉を介して進んでいきます。聞く力を高めるための「話の内容理解」は、昔から小学校入試でも必ず1題は出されていたものですが、設問事項には基本となる4つの柱がありました。登場人物・順序・数・登場人物の行為について・・・この4つが質問事項の中心でしたが、最近ではありとあらゆる質問が用意され、どんな内容の質問がなされてもおかしくない時代になりました。市販されている絵本を使ったり、かなり長い創作童話で問題が考えられたりと工夫されてきています。ひとつの物語でさまざまな内容が問われるという形式は、生活単元的な発想での問題づくりということになり、系統的な学習で身に付けた能力の成果を見るという意味での総合問題であり、優れた形式だと思います。

子どもたちにとって常に興味のある「絵本」を素材に、数や図形、言語の学習などができれば、学習の動機づけとしては好ましいと考え続けてきましたが、この度3年間の教室での実践・検証を経て、新しい発想の問題集を開発しました。それは、「長いお話を聞いてすべての領域の問題を解く」シリーズです。一つのまとまった長い話を聞かせながら、それまで学習した内容が本当に理解できているかどうかを点検し、学力の基礎を固めていこうというものです。こぐま会で発行している問題集の中で、学ぶ順序を示した「ひとりでとっくん365日」の学習内容に即して開発した問題集ですので、まず「ひとりでとっくん365日」で基本を学び、それを踏まえて取り組ませるようにしていただくと効果的だと思います。話の内容をしっかり理解するという基本を常に意識した問題集ですので、「聞く力」の育成には最適な問題集になると思います。

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