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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

応用段階を迎えた子どもの学力の現状(3) 領域を貫く思考法

第248号 2010/6/18(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 応用段階で過去問及び難問を学習する際、私たちが指導上大事にしていることがいくつかあります。

1.その問題が出される根拠は何かを明確にする
2.学習単元を超えて求められている「考える力」の共通点を明らかにし、その思考法の習得を強化する
3.子どもたちが本当に理解しているかどうかを点検するために、答えの根拠を必ず説明させる
4.たくさんの量のペーパーをこなすのではなく、1枚のペーパーを大事にし、その1枚のペーパーを使って可能な限りいろいろな質問をする

こうした指導上の方針は、「応用段階のどこで子どもたちが壁にぶつかるか」「何を繰り返し経験させればその壁を乗り越えることができるのか」といった長年の指導経験を踏まえて打ち出したものです。

出題の根拠を明確にする必要性は、「どこまで学習しておけばよいのか」「発展としてどんな学習をしておけばよいのか」を保護者の方々に知っていただく上でとても大事です。小学校の入試問題は、過去40年間で相当変化してきました。

1.知能テストが出題の根拠になっていた時代
2.小学校低学年の学習課題を、幼児の生活や遊びにテーマを求めて問題化され、大量のペーパーが出題された時代
3.ペーパー試験の多さからくる過熱した準備教育の弊害を取り除くために、まったくペーパ―を使わず個別テストを重視した時代
4.少ないペーパーでありながら、論理的思考力がどう身についているかをみるために良質の問題を工夫している現在

こうした出題の背景をしっかり押さえることが大事です。そして、現在の入試で求められている「考える力」をどう育成するかが、入試対策の中心になるべきです。繰り返しのパターン練習で覚えこんできた能力は今の時代には必要ありません。それどころか、柔軟な思考を育てる弊害にもなっています。領域を超えて求められる思考法の中で、応用段階の学習でぜひ身につけなくてはならないのは以下の項目です。

1.関係を考える (言葉による関係推理・ジャンケンによる関係推理・シーソー)
2.視点を変えてものを見る (四方からの観察・数のやりとり・左右関係)
3.変化に対する観察力を高める (つみ木の移動・場面の変化・量の変化)
4.逆から考える (数の逆思考・移動の逆思考・魔法の箱の逆思考)
5.あるものを他のものに置き換えて考える (つりあい・交換・消去)
6.法則性を理解する (変化の法則性・魔法の箱・回転推理)
7.回転の要素を入れた図形問題を解く (回転位置移動・回転図形・半折重ね図形)
8.複合された問題を解く (数の複合問題・図形の複合問題)

領域を超えて共通する考え方を育てない限り、新しい問題には対処できないでしょう。パターン化されたトレーニングでは、そうした思考力を深めることにならず、「転移する学力」を育てることにならないのです。百ある課題を百通りの練習をしなければ解決しないような学習方法では非効率です。百ある課題を解決するのに、基本となるたとえば10の課題を徹底すれば、他の90の課題は自分で解いていけるような思考力を育てることが必要です。そのためには、たくさんのペーパーをこなすことに集中するのではなく、1枚1枚のペーパーを大事にし、可能な限りいろいろな質問を考え、徹底して考え方をトレーニングすることです。またその際大事なことは、必ず「逆の質問」をすることです。今学校側が問題を難しくするひとつの方法として採用しているのが「逆の質問」です。具体例をあげてみましょう。

(ア)量の系列化の際、長い方から何番目を聞いたら必ず短い方から何番目も聞く
(イ)時間的経過を戻して、最後の数から途中の抜けてしまった数を考える
(ウ)方眼上の移動で、出発点から到達点を考えるだけでなく、到達点から出発点を探す
(エ)「魔法の箱」の学習で、入れた数を見て出てくる数を答えるだけでなく、出てくる数を見て入れた数を考える
(オ)じゃんけんゲームで、勝った人の立場から考えるだけでなく、負けた人の立場からも考える
(カ)しりとりで、うしろに言葉をつなげるだけでなく、前に戻りながらつなげていく
(キ)数のやりとりで、もらった人の立場から考えるだけでなく、あげた人の立場からも考える
(ク)シーソーのつりあいで、重い方から軽い方を聞くだけでなく、軽い方から重い方も考えてみる

挙げればきりなくありますが、こうした点が子どもたちのつまずきの原因にもなっています。ですから、同じペーパーを使って違った質問が可能であり、そのたくさんの質問をこなすことによって、考え方の基本がしっかり身についていくのです。ペーパーの量で勝負するのではなく、どこまで理解できたのか、どんな考え方が身についたのかをしっかり確認してから次のペーパーに進むべきです。理解できたかどうかを確認する方法はあります。今の時期、私が徹底して行っているのは、答えの根拠を説明させることです。本当に理解しているのかどうかは、この方法で簡単にチェックできます。解き方のみを指導された子どもは、答えは出せるのに説明できません。これでは応用する力にはなりません。家庭学習においてもぜひ、答えの根拠を説明させてください。しかも、すべての問題とはいえませんが、問題によって可能ならば、子ども自身に質問を考えさせ、それに答えてあげてください。子ども自身が問題の意図を把握できれば、相当理解できたことになるからです。

ところで、夏休みを目前にした今の時期でも、今年受験する方の入会相談が絶えません。これから受験準備を始めようとする人ではありません。すでにいろいろな方法で受験対策を取っている子どもたちですが、「難しい問題はできるのに、基本がわかっていない」「厳しすぎる受験指導で精神的に問題を抱えてしまった」子どもたちです。難しい過去問を、何の脈絡もなくペーパーのみのパターン指導で行ったり、公開授業ゆえに厳しい競争関係にさらされ、また、指導者の厳しい言動でつぶされていく子どもたちが救いを求めて相談にやってきています。ゆがんだ受験指導の弊害が、こうした形で表れていることを知れば知るほど、「間違った受験対策」は、その子のこれからの学習生活にとって決して好ましいものではありません。生まれて初めての学習がこんなにつらいものであるとしたら、受験勉強で失うものの大きさははかり知れません。何も残らない受験のためだけの教育から早く抜け出し、子どもたちを守ってあげてください。

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