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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.62「第1回 TIテスト 2011」

2011年7月15日(金)
こぐま会小学部長 渋谷 充
 去る6月26日(日)にこぐま会小学部主催の「第1回TIテスト2011」を行いました。データの返却面談では、保護者の方々から多くの高評価をいただき、作成担当としてこの場をお借りして御礼を申し上げます。

さて、「TIテスト」の対象学年は小学1年生と小学2年生です。1年生では小学受験も終わり、幼児教育時代に習った事柄を改めて記号や文字を使って導入している頃でしょう。また、2年生においては小学校に入学して1年経ち、算数の得手不得手が見え隠れしている頃でしょう。公立の小学校に進学した場合も然りで、幼稚園の頃には漠然としていたお子さまの算数力を目の当たりにし、保護者の方々におかれましては良くも悪くもさまざまな思いを抱いている頃でしょう。

確かにこの時期は非常に大切な時期です。特に算数や数学という教科においては、この先ずっとこの教科とのつきあい方を確定させてしまう最も重要な時期といってもいいでしょう。しかしながらそれは、文章題ができないから文章題を特訓しなければならないとか、計算が遅いから計算を特訓すればよいなどの類のものではありません。そのような力は後に十分に備えさせることが可能です。この時期に大切なのは、算数という教科をなんとか苦なくこなすための力を備えようとするのではなく、より前向きで理想的な力を得るための準備と実践をすることです。

私はことあるごとに「試行錯誤力」という言葉を使ってきました。非常に漠然とした表現ではありますが、要点としては子どもが問題(算数とは限らない)に直面したときにその時点で持っている技術を駆使して、その問題の解決策を見出そうとしたり、その技術そのものの発展や精査をしようとする力です。本来は言葉では表現しきることのできないものではあるのですが、現段階ではよりイメージに近い「試行錯誤力」という言葉を充てています。
計算の反復演習、そろばん、パズル、算数を得意にする方法論としてはすべて秀逸なものだと思います。しかしその背景にある「試行錯誤をすることを惜しまず、問題解決に没頭できるかどうか」という状況を無視してはすべて空回りしてしまいます。先に述べた、より前向きで理想的な力とは言い換えればこの「試行錯誤力」であり、その力は小学校低学年の時期が備えやすく、良循環に入りうる可能性が高いのです。

「育み」とも言えるこの時期にお子さまに間違った算数対策をしてはいけません。全国的な模試を受験して、そこで出てきた結果から苦手なものをつぶしていくのは最優先ではありません。その結果は、お子さまを取り巻く勉強の環境や方法、果ては親子関係などさまざまな因子が影響して文字通り結果的にでてきているものでしかありません。それを幼い頃から対症療法のみに頼ることに納得する保護者の方はほとんどいないでしょう。指導者(保護者も含む)としては、より本質的な部分へのアプローチを促すべきです。「TIテスト」の主旨はそこにあります。お子さまの算数に対する自発的で能動的な活動を支えるためにも、ぜひ一度受験していただきたいと思います。

<TIテスト2011概要>
(1)回数年4回
(2)内容
  1. 筆記形式技能テスト(30分)  配点4割
     1. 計算技能(計算問題)
     2. 活字把握(文章問題)
     3. 幾何的経験値(図形問題)
  2. 授業形式テスト(講義時間含め30分程度)  配点6割
    担当教官といっしょに※ゲームや法則性の高い現象について学び、その後そのゲームについての設問に答える。
    ※ルールは簡単ではあるが初見性が高い。出題は活字によるものではあるが、活字把握による差が出ないよう問題の意図などは口頭で確認しあう。
  3. 問題用紙  配点0割
    生徒には問題用紙のスペースをどのように使ってもいいことを事前に知らせ、いたるところに書き込むことができるようになっている。問題用紙の試行錯誤過程も確認する。
(3)難易度便宜上配点した100点満点のテストに対して、平均点が40点程度になるように作成。
必ずしも学習指導要領の範囲とは限らない。
(4)データ紙面にて返却(最初の2回は面談を通して返却。以降希望の場合面談)
点数は便宜上のものなので小さく掲載。

実際に小学1年生に出題された問題を抜粋して掲載します。

筆記形式技能テスト (一部抜粋)

[だい1もん-(5)]   正答率 61%
(5)=36
の なかには おなじ かずが はいります。に はいる かずを こたえましょう
<コメント>
この問題は割り算を習っていれば難無く解けるが、こどもの算数力を見たい場合そのような発想は良いとはいえない。割り算を習ったときにはその割り算を駆使してより応用問題を解かなければいけないからだ。実際には、こどもたちは足し算の答えを徐々に36に近づくよう考えたり、点を36個書いて3等分するなどの試行錯誤を行い解答する。正答率61%は予想以上に高くはなったが、作成担当としてはむしろうれしい結果である。

[だい2もん-(5)]   正答率 完答16%
(5)17この おかしを 3人の きょうだいで わけようと おもいます。
としのじゅんに いちばんうえの おにいさんが いちばんおおく もらい にばんめの おにいさんが にばんめにおおく もらうように わけました。 いちばん すくなく もらった さんばんめの おとうとでも 3こよりは おおく もらった そうです。
さて 3人は それぞれ なんこずつ もらえば いいのでしょうか。こたえは 2とおり ありますので どちらも こたえましょう。
<コメント>
この問題は活字把握能力を確かめるための最後の問題である。出題意図は均等割りではない、分け方を問うことで「17」という数の構成を確かめるための能力と、場合を考え抜く試行錯誤力を同時に測っている。
試行錯誤のあり方でを17個書いてそれぞれの間に2本の棒を入れることによる領域分けを行っている生徒がいたが、その思考レベルはかなり高いといえる。
活字の把握力によって差が大きくついてしまう問題ではあるが、配点は100点中4点である。

[だい3もん-(1)]   正答率 6%
(1)おなじ ながさの マッチぼう3ぼんを したの さんかくけいの てんせんの うえに おいたら どのようになりますか。ア~エから えらんで きごうを かきなさい。
<コメント>
正答率が低い図形問題。ところで「TIテスト」では図形の性質の問題を数多く出題する。図形の性質に対する経験値がどのぐらいあるかは、後の図形問題を解答できるかどうかを大きく左右するからである。単なる代数問題としかいえない、面積や長さを求める問題はほとんど扱わない予定である。
この問題の正答率が低いのは、初めは錯視によるものかと思ったが面談で聞きながら吟味したところそうでもないらしい。学習指導要領には図形の性質を扱う単元はほとんど存在しないので、このような問題により生徒の図形に対する認識がインスパイアされることも目的としている。

[だい3もん-(4)]   正答率 6%
(4)したのような かみを おって くみたてて さいころの かたちを つくりました。


できあがった さいころの かたちは みぎの ずの ように なりました。
?の ぶぶんの いろは なにいろに なるでしょう。
<コメント>
空間把握能力は幾何分野の中でも非常に難易度が高い。データ返却の面談の中では、このような問題の対処法として決して受験テクニックのような方法論を教え込まないよう徹底した。大切なのはこのような立方体の展開図を11種類すべて作り上げたことがあるかどうかだ。面や辺に落とし込んで解答する方法を否定するわけではない。実際私も受験生にはそのように指導する。しかし低学年のような余裕のある時期は必ず展開図から作り上げ、そこから言葉にならないような大量の学びを得るべきである。作る過程でのりしろなどの位置を考え始めるよう促すのも発展性が高い。

授業形式テスト (一部抜粋)


[授業形式問題-(4)]  正答率 10%
(4)(3)が おわって ごいしを もとに もどした あと また このゲームを 3かい しました。けんじくんが もっている ごいしを みると くろい ごいしと しろい ごいしを 3こずつ もって つぎのような ことを いっていました。

けんじ「あと1かい かってたら ぜんぶ くろいしだったのに。」

たかしくんは くろいしと しろいしを それぞれ なんこ もっているでしょう。
<コメント>
ゲームはもちろん生徒ははじめて聞いたもので、そのルールを理解してもらった上で解答してもらう。ゲームのルールさえ理解すれば(1)(2)は容易に解答できるように作成している。(3)~(5)は試行錯誤の必要性がある。この問題は、結果からゲームの過程を類推する問題で生徒たちの試行錯誤過程もさまざまで非常に興味深い。(正解した生徒は少ないが、正答率が低い問題はすべて同じ生徒が正答したわけではないことだけは書いておく。)
抜粋で1問だけ掲載したが、この問題を解こうとして正答にいたることが単純な技能を身につけるよりはるかに大切であることは保護者の方にもご理解いただけるであろう。実際小学4年生や5年生でも算数が極端に苦手な場合この問題を解答できない。


以上問題の抜粋でした。得点は優劣は優先順位が低く、あくまでも試行錯誤レベルを判定するためのものなので難易度は非常に高く感じたことでしょう。それでも最高得点は74点で、平均点は45点ですからそこまで難しいというものでもありません。もちろん点数が低かったからといって、類似問題を鬼のように特訓するためのものではありません。あくまでも、試行錯誤力と技能のバランスを見るためのものですのでお子さまにはクイズ大会に参加するような軽い気持ちで受験していただき、保護者の方も広い心で結果を受け止めていただくことが肝要です。
お子さまの算数力を伸ばすため、または摘んでしまわないために、ぜひ受験いただきたいテストです。

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