ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.15「"Phonics"そのふしぎな力」

2010年7月9日(金)
こぐま会 Primary English代表
第一教務部長
廣瀬亜利子
 中学校の英語授業において、英単語の意味、読みかた、スペルをいっぺんに教えられ、生徒はその単語を何度も読んだり書いたりを繰り返して丸ごと暗記してテストに備える、というのが一般的に見られる光景だと思います。更に大学受験などに備えるとなると、暗記しなければならないことばの数は気が遠くなるほどの数になります。目的を達成するためにはある程度暗記が必要になってくるのも当然なのですが、前にもお話ししましたように、暗記したものは、その後使う機会がないと、時間とともに忘れてしまいます。あれほど苦労して詰め込んだものが消え去ってしまうのはとても残念です。同じ暗記するにしても、もし「土台」があれば定着度もグッと上がります。

この「土台」とは、私の英語クラスで行っているphonicsです。「文字と音を一致させる」というやり方です。同じphonicsの中でも何通りかの方法がありますが、イギリスの小学校1年生(5~6歳児)が習う方法が、同じくらいの年齢の日本人の子どもたちにとっても一番理解しやすく確実だと思い、私はこの方法に従って指導にあたっています。

このphonicsというのは一言で表すと「すべては音の構成によって成り立っている」という考え方です。たとえば“elephant”という単語が出てきたとき、この単語を一塊として左から1文字ずつe,l,e,p,h,a,n,tとスペルを覚えることはせず、e・le・pha・n・tというように、5音から成り立つ言葉と考え、それぞれの音の作り方を順を追って学んでいきます。すべては音の構成という考え方なので、正しい音と規則さえ習得すれば、動詞、名詞、副詞など、品詞の種類などに全く関係なく、また単語であるとか文であるとかにも関係なく自由に読み書きできるようになります。

まず、アルファベットの26文字について、1文字ずつその単体での音を学習していきますが、音と文字を一致させていくという作業も同時に行われる必要がありますので、そのアルファベットの小文字の書き方も練習させます。言うまでもなく英文ははじめの1文字や固有名詞のイニシャル以外ほとんど小文字で成り立っているものであるにもかかわらず、多くの英語教室や小学校でなぜか大文字を教える傾向にあり、これはphonicsを指導する上で大変妨げになります。

26文字の音を学習するのにも順序があり、Aから順番に行くのではなく、まず母音の5文字(短母音)からはじめます。後に子音+母音の合成音を学習するとき、この短母音がしっかり区別できていないと読めないからです。次に子音に入りますが、はじめはcatのt、capのpというようにことばの語尾に来るものとして学習します。そしていよいよ子音+母音の音の学習です。これは、phonics全体の一番高い壁のようです。これが理解できるようになるまでにかなりの時間を要します。単音と単音、それぞれの音はわかっているのだけれど、ミックスされたときどういう音に落ち着くのかがとてもわかりづらいようです。この壁を乗り越えて完全なものにするまで絶対に私は先に進みません。英語を読む上で最高に頻度が高い音の組み合わせだからです。そしてもしマスターすれば、この時点で6歳~7歳児が、“I sit on a sofa.” というような文もすでに読めるはずだからです。子音+母音、子音の単音という音の組み合わせのみですが、立派に文章として成り立っています。

次の段階では合成音を中心に進めていきます。まず子音+子音の音(sh,ch,th,ck,phなど)、母音+母音(ee, ea,oo,ouなど)、続いて“cake, name, rice, rose, cubeなど)のマジックe型長母音、その他の長母音、そして“er,ir,ar,air”の読み方と規則などを、ひとつずつゆっくり時間をかけて習得させます。ここまでくるとかなりの文が読めるようになります :

His name is Mike.
He likes his bike.
It is white with brown stripes and looks very nice.
He went to the Yamanakako lake on his bike last Sunday.
It was a sunny and hot day.
He left home at nine o'clock and arrived there at ten thirty.
On the way home, he went to the super-market and bought five bottles of coke, three chocolate cakes, one pack of paper plates, one pack of cheese and ham sandwiches.
He went home at five o'clock.
He had such a nice time in the Yamanakako lake.
He had a glass of white wine at dinner.
He likes wine very much.
He was so tired that he went to bed at nine o'clock.

中学英語では、教科書の中に知らない単語が出てきたとき、その読み方をまるごと習い、生徒は受身で、習ったとおりに読むしかありません。一方、私のやり方ですと、たとえ初めて遭遇した単語であっても意味がわからなくても、1音節ずつ区切ってあげて左から1音ずつ規則にしたがって読ませようと導くことで、子どもは1音ずつ自分の力で読んでみようという力が自然に働くのです。そして右端の最後の1音までたどり着いたとき、「読めた!自力で読めた」という達成感のようなものを味わうことができるのです。これを地道に繰り返す間には、もちろん音を思い出せないということも多々あります。そういうときは迷わず戻り、そしてまた読んで...を繰り返しているうちに、確実に「読むこと」に自信がついてきます。音と文字が完全に一致しているので、同時に書けるようにもなります。したがって、子どもにとって聞いたこともない単語も音の規則にしたがって「スペルしてみる」ことができます。大きくまちがっていることはほとんどありません。

自分で繰り返し繰り返し進んだり戻ったりしながら苦労してやってきたことはそう簡単には忘れるものではありません。不思議なことですが、本当にいったん読み書きができるようになったものは定着するようです。その子どもたちが中学生になったとき、英語の単語テストだけは本当に楽だと感謝されると、ホッとする思いです。

PAGE TOP