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週刊こぐま通信
「行動観察だより」

冬休みの思い出

第6回 2013/1/18(Fri)
こぐま会 廣瀬 亜利子
 今週もまた子どもたちの元気なあいさつからクラスが始まりました。
「こんにちは!」
「おとといの雪すごかったわね~!みんなどうだった?」
「ママと雪だるま作ったの!こーんなに大きいの!」
「私はお姉ちゃまと雪だるま作った。小さいのを5個。5人家族だから、みんなに1個ずつね!」
「パパと雪合戦してパパのおしりは雪だらけだったよ~!冷たいよ~って言って面白かった!」
「ママとお兄ちゃんでかまくら作ったの。3人で中に入ったの。寒くなかったよ。まだあるよ。」
と、次々にみんな目をキラキラ輝かせながら雪の日のできごとを夢中になって話してくれました。とりわけお母さまやお父さまといっしょに雪で遊んだことが子どもたちにとってはよっぽど嬉しかったようでした。

さて、今週のテーマは「課題画」で、冬休みについて印象に残っていることを自由に描いてもらうというものでした。ただ、いきなり描き始めるのではなく、何についての絵を描くのか伝えた上で、まず先週に引き続き子どもたち一人ひとりと会話しながら、冬休みのことで何か楽しかったことや嬉しかったことなど印象に残っていることを思い出させてから、それを絵に描かせたかったのです。いわゆる「口頭試問」ではなく、あくまでも記憶を呼び戻すためのものなので、きわめて「普通に」一人ずつ話を聞いていきました:

「前からほしかったものがサンタクロースから来たの。」「ちゃんが良い子だからサンタさんが来てくれたのね!サンタさんにお紅茶用意しておいた?」「うん。全部飲んであったよ。カップが空っぽだった。」「サンタさんも喜んだでしょうね。おいしいお紅茶いただいて。」「うん。」とAちゃん。
「金沢のおばあちゃまのおうちで食べたおせち料理がおいしかった。」「おばあちゃまの手作り?」「ママとおばあちゃまで作ったの。」「そうなの?!それはきっとおいしかったでしょうね。何が一番好きだった?」「黒豆とおいも。」「先生も黒豆大好きよ。」とBちゃん。
「箱根の温泉が気持ち良かった。」「熱くなかった?」「熱くなかった。あ、それから駅伝見たの。」「え~!すごいわね!応援したの?」「うん。ちょっとだけした。」といつもとてもおとなしいCちゃん。話しているときの笑顔が印象的でした。
「パパと羽根つきしたの。初詣にも行ったの。」「ママは?」「ママはおうちでお留守番。パパと2人だけで行ってすごくうれしかったの。」「よかったわね~!パパと仲良しでいいわね~!」「うん!」とDちゃん。彼女ははじめのうちどちらかというとあまり人前で話をすることが得意ではありませんでしたが、少しずつ自分の思っていることを表現できるようになり、この時は本当にうれしそうに力強く話してくれました。
そしてEちゃんは、「ハープの演奏を聴いてすごく素敵だった。」「どこで聴いたの?」「ホテル。ハープがほしいの。」「ハープの音はきれいだものね。」「絶対にハープがほしいの。本当に素敵だったの。」「じゃあ、ハープが弾けるようになれるといいわね。」「むずかしそうだけどね。」先週も今週もこの子の頭の中はハープのことでいっぱいのようでした。

14人全員と話をした結果、約半数の子どもはこのように、冬休みのできごとで印象に残っていることについて、先週とほとんどぶれることなく話してくれました。が、あとの半数の子どもにとっては、先日のあの大雪の日の印象があまりにも強かったようで、冬休みの出来事は、雪の日のことに塗り替えられてしまったようでした。雪を見たのが生まれてはじめてだったということもあったようでしたが、それよりも、この日、お父さまやお母さまといっしょに雪だるまを作ったり雪合戦して遊んだことが本当に嬉しくて何よりも楽しい思い出となったようです。
そういう訳で、今回は冬休みのできごとでも雪の日のことでもどちらでも描きたいことを描くことにしました。

全員がさっと描き始めることができました。そして描いているときの表情を見ていると、皆とても楽しそうでした。絵が上手か下手かと言えば、正直決してすごく上手とは言えない絵のほうが圧倒的に多かったかもしれません。でも皆それぞれに年齢相応の子どもらしい、味のある、心のこもったとても素敵な絵を描いていました。そして何より、楽しそうに描いている表情が本当に愛おしく思えました。

入試において課題画が出題される場合、絵の上手・下手など、技術的な面が評価されることはまずあり得ないことは結果から明らかです。しかし一方でその子の描画からいろいろなことを読み取ることできることも事実です。
子どもは正直で、自分にとって印象に残っていること、この目で見たこと、自分が実際に経験したことはことばや描画で表現できるものです。逆に経験していないことについて「作り上げること」はできません。つまりいかに豊かな家庭生活を送っているか、いかにいろいろなことを数多く経験させているか、描画を通して両親の考え方が見えます。また、たとえひとつひとつの描写がとても上手でも、たとえば黒一色しか使っていない場合や、画用紙に対しての比率があまりにも小さい場合、子どもが何かに対してプレッシャーに感じている、あるいは心が不安さを表すサインであると言われています。
実際、難関校に合格させたいという思いが強く、次の模擬テストで編差値を1点でも上げるために、ほとんど子どもらしい遊びもさせてもらえず、勉強一色の生活を強いられているような子どもは多くの場合、確かに偏差値は高いものの、きわめて日常的な事柄 - 楽しい食卓、日曜日にお父さまと遊んだこと、お手伝いなど - について、経験がないため、ほとんど絵を描くことができないか、あるいは描き始めるのにすごく時間がかかるという傾向にあります。そして、そういう子どもはやはり良い結果につながっていない場合がほとんどです。勉強だけどんなにできても、その年齢にふさわしい幼児らしい生活を送っていない子ども、その年齢に必要な一般常識に欠けている子どもは、学校側としても受け入れたくないという傾向が、最近特に強いように思います。心身がバランス良く育っているか、家庭の教育方針がまともであるかどうか、無意識のうちに子どもを追い詰めていないかどうか、こういうことが、高い学力があるかどうか以上に学校が知りたいことなのです。だから行動観察が重視されるのです。合わせて願書や面接も軽視できないと皆さまに訴え続けていますが、理由はすべて同じです。
「課題画」も、行動観察においてご家庭を知るための重要な課題のひとつですが、それに子どもが取り組むにあたって、自由遊びなどとは決定的に異なる点がひとつあります。それは「描ける、描けない」という意識に多少左右されるかもしれないという点です。せっかく豊かな家庭生活を送っていて、描きたいこともすぐ思い浮かぶのに、描き方がわからないという場合があるかと思います。その様な場合は、お母さまが描いてあげてそれを真似させてみれば良いと思います。そして、普段から、描きたいときに自由に描ける環境を家の中に整えてあげてください。そして、どんな絵でも子どもが描いた絵については必ず褒めてあげてください。描くことに対して苦手意識を持ってしまうと、これもまた問題です。特別なお教室に通う必要は全くありません。ご家庭でお母さまといっしょに楽しく描くこと、絵を描くことが好きになること、それが一番良い方法だと思います。

クラスの14人全員が、本当に皆楽しんで描いていました。そして、皆楽しかったことをはっきりと覚えていたので迷うことなく描けたのです。子どもたちが描いている姿を見て、バランスの良い楽しい生活が目に浮かんでくるようでした。
そして、「この子たちはきっと大丈夫!」と確信に近いものを感じました。

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