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週刊こぐま通信
「行動観察だより」

お店作り

第24回 2013/7/5(Fri)
こぐま会 廣瀬 亜利子
 今回は「お店屋さんごっこ」をテーマに行いました。
机を8個合わせて正方形の大きな島を作り、その上にいろいろな種類の食べ物の模型をランダムに置きました。そのテーブルを子どもたち全員で囲みました。2日間とも18~19人もいたので、少しずつお互いに譲り合わなければ全員で囲みきれないという状況でした。

「わ~! 本物みたい!」と目をキラキラ輝かせる子どもたち!

「今日はみんなでお店作りをしましょう。ここにいろいろな食べ物がたくさんあるでしょう。何があるかよく見てください。4つのお店を作りたいのですが、何屋さんができるでしょうか。全員で一緒に考えてみてください。」と声掛けをした瞬間 ;

「八百屋さんとケーキ屋さんとハンバーガー屋さんとパン屋さん?」と誰かが言うと、
「ハンバーガーはパン屋さんで売ればいいんじゃない?」という意見がすかさず出てきました。
そして黙って話を聞いていた子どもが突然発言しました :
「私もそう思う。八百屋さんを果物屋さんと野菜屋さんに分けて、あとケーキ屋さんとパン屋さんがいいと思う。」
「みんなどう思う?」
「それがいいと思う。」「私もそれがいいと思う!」ということで、
野菜屋さん、果物屋さん、ケーキ屋さん、パン屋さんの4つの店に決まりました。

「ではお店が決まったのでみんなでお店作りをしましょう。」という合図とともに、もともと設営してあった4か所の「お店」にそれぞれの売り物を子どもたちがせっせと運び、きれいに商品を並べて4つのお店が完成しました。

いよいよ何屋さんになりたいかについての話し合いのときが来ました。
各自とりあえず希望の店に行ってもらいました。予想通りケーキ屋さんに集中し、野菜屋さんの人気が今ひとつでした。ケーキ屋さん希望の子どもたちに聞いてみました :
「野菜屋さんに行ってもいいと思う人いない?」
「......」
「絶対に嫌だ」
「ケーキ屋さんがいいの!」
と譲らない様子。
何となく重~い空気が漂ってきました。
そんな中、他の店を希望していたある子どもが言いました :
「私、野菜屋さんに行ってもいいよ。」
「本当に?ありがとう!」
すると、さっきまで絶対にケーキ屋さんしか考えられないと言い張っていた子どもの一人が ;
「じゃあ、やっぱり私もいいよ。」
「ありがとう、ちゃん。」
「いいよ。」と笑顔で快く野菜屋さんに移ってくれました。
野菜屋さんは、もともと希望していた子が一人。別の店から移ってくれた子一人、そしてケーキ屋さんから移ってくれた子一人の合計3人になりました。一方ケーキ屋さんは、定員4名のところにまだ6名いましたので、若干定員オーバーということもあり、再び聞いてみました :
「ケーキ屋さんがまだ2人多いの。そして野菜屋さんとパン屋さんがあと一人ずつ足りないんだけど、移ってもいいよっていう人はもういない?」
「......」
「大きくなったらケーキ屋さんになりたいから、今もケーキ屋さんがいいの。」
「パン嫌いなの。」
すると、一人の子が何かを決心したような表情で口を開きました :
「やっぱりジャンケンで決めようよ。負けた人が2人移ることにしない?」
「わかった。いいよ。」
あれほどケーキ屋さんにこだわっていた6人の子どもたちでしたが、その中の一人からようやく「ジャンケン」という提案が出ると、皆あっさりそれを受け入れてジャンケン勝負に応じたのです。そして負けた2人の子どもは全く引きずることなく、潔くそれぞれの店に移っていきました。

このケーキ屋さんの一件について、確かに初めから「ジャンケンで決めよう」という発言が出てきていれば理想的だったのかもしれません。しかし、実際に近くで子どもたちのやりとりを見ていて、「どうしても屋さんになりたい」という子どもらしい率直な希望が痛いほど伝わってきて、愛おしいと感じました。その後全体を2組に分けて、お店屋さんとお客さんを交代して行ったのですが、その表情はどの子も真剣そのものでした。現場は子どもたちの生き生きとした声が飛び交っていて活気に満ち溢れていました。他人事のように知らん顔して輪から外れている子どもは一人も見当たりませんでした。
お店屋さんのときは、何とか店の商品を「完売」させようと皆必死で、光景はまるで市場そのものでした。そしてお客さんのときの話し方が、まさに自分のお母さんの「受け売り」で可笑しくも微笑ましかったです。

店作りから設営、何屋さんになるかの役決め、ごっこ遊びまですべてを、子どもたち全員が一斉に関わり、自分たちの力を合わせて行いました。4~5人ずつのグループにあえて分かれず18~19人一緒に話し合ったのは、子どもたちにとっても初めてだったと思います。このクラスが始まったばかりの頃、2~3人の小グループですら上手に話し合うことができなかった子どもたちでしたが、今やクラス全員を相手に自然体で自分を表すことがいつの間にかできるように成長したのだなぁと実感しました。
いつの間にか自由に発言できるようになっていたことに本人たちも気づいたようで、皆いつも以上に生き生き見えました。「ジャンケンしようよ」という一言がなかなか出てきませんでした。しかし、時間はかかりましたが、子どもたち自身の力を合わせて解決策を見つけ出したのです。自分たちで決めたことだから、爽やかな笑顔で受け入れることができたのでしょう。初めから100点である必要はありません。なかなか意見が出てこなかったり、お互い譲れなかったり、反対意見を言い合ったりという経験は子どもにとって通るべき道だと思います。そういう経験をして収拾がつかなくなった状況に陥った末に解決策が生まれるからです。子どもが自立へ向かう大切な一過程だと思います。

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