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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

最後の授業

第78号 2006/10/27(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 雙葉クラスの補習授業があった水曜日、休み時間にAちゃんが私のそばに寄ってきて「先生内緒の話があるんだけど、聞いてくれる」というので、教室の隅のほうに言ってAちゃんの話を聞いてみました。
 「この前ね。横浜の学校にお試験に行ったとき、どきどきしちゃったので、右の肩を触ったの。そしたら、どきどきがなくなって、先生の話が良く聞けたの」
 「そう、それは良かったね。おまじないが効いたんだね」

 子どもたちの精神的なプレッシャーを少しでも和らげ、普段の力が発揮できるようにと、毎年最終授業で「お守り」を一人ひとりに渡しています。ブレスレット形式のお守りには、真ん中にニコニコマークのさいころ、その両側に2個ずつのビーズがついています。「真ん中のニコニコマークはね、みんなが学校に行ったとき、寂しそうな顔でお友達とお勉強したり、運動したりするのではなく、このニコニコマークのように、笑顔で元気に行ってこれますようにとお願いしてきたんだよ。そしてね、その横についている黄色の玉はね、右側は学校に行くまでに風邪を引かないように、そして左側は先生の話がよく聞けますようにとお願いしてきたんだよ。その横にある赤い2つの玉はね、まだお願いしてないから、今日中に、お母さんやお父さんと相談して、決めてね。」と、言って渡すのです。その日のうちにどのご家庭でも、心配なことを、そうならないようにと、2つお願いしたはずです。

 そのお守りを渡した後で、「それでもみんな心配になることが多いから、先生がみんなと一緒に学校に行けたらいいね。でも、それはできないから、これからおまじないをかけて、先生がみんなの右の肩に小さくなって乗っていくね。もし、学校に行ってどきどきしたら、右の肩を触ってごらん。きっとスーとして落ち着くから・・・・・・・」 そう言ってから、小さくなって右の肩に乗る儀式をしたのです。さっきのAちゃんの内緒話は、どきどきしたので右肩を触ってみたら、先生が言ったとおりに心が落ち着いて、話が良く聞けた・・・という報告だったのです。

 試験に対する子供たちの不安を少しでも取り除こうと、10年以上も前からはじめた些細な仕掛けが、1年間の教育活動を通して培ってきた教師と子どもとの信頼関係に支えられて、効果を発揮するのです。見方を変えれば、不安をかかえて試験場に向かう子どもたちにとって、何かの支えが必要なのです。それは、見送る母親の笑顔かもしれないし、「がんばってきてね」という父親の一言かもしれません。私たち教師に唯一できることは、「先生も見守っているからね。心配しなくていいよ」というメッセージを送り続けることです。

 最後の授業で、一人ひとり前に呼び、印刷された文面ではなく、アドリブでその子との思い出や1年間のがんばりに対する評価を、修了証として読み上げた私に向かって、「先生そんなこと書いてないよ」という子どもに「でもね、先生には、そう読めたの」というとみんな神妙な顔をして、そこに書いてある文章をまた読み返すのです。1年間苦労して育て、一緒にがんばってきた一人一人の子どもに、形式的な、同じ文章を読むわけはいかないのです。どんなに些細なことでも、大勢のお友だちの前で、これまでのがんばりを評価されるということは、子どもが自信をつけ、大きく変わるキッカケになっていくからです。

 「修了証!!○○ちゃん。あなたは1年間、遠いところから通って、よくがんばりましたね。最初のころは、数のお勉強が嫌いで、時々涙も出ちゃったけど、よくがんばって、今では指を使わなくても、全部できるようになったね。それから、大きな声でお話できるようになったね。
 小学校に行っても、こぐま会のことを忘れずに、がんばってくださいね・・・・・・・」

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