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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「今年の入試はどうなるのか」

第724号 2020年6月12日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 緊急事態宣言による休校措置が解除され、6月2日より教室での授業も再開いたしました。幼稚園も保育園も再開しましたが、分散登園であったり時間を短縮したりですから、以前のように園での活動が生活の中心になるにはまだ時間がかかりそうです。今年4月から新1年生になるはずだった子どもたちも学校に毎日は行けないようですし、進級した子どもたちも担任が替わったり、クラス替えがあったりして以前と違う学校生活の再開に不安を抱いている子もいるようです。3カ月近くの休校措置は、学習の遅れだけでなく、子どもたちの心にも大きな負担を与えてしまっているようです。私たちにできることは、そうした子どもたちの気持ちに寄り添いながら、まず話を聞いてあげること、そして、それぞれの子に前向きになれる目標を与えてあげることだと思います。学習の遅れは回復できても、3カ月近くに及ぶ集団活動の欠如は、人間関係の中で学びあい、育ちあう機会の喪失につながり、子どもの心の成長にも大きな穴を開けてしまったようにも思います。1日も早く、園庭や校庭に元気な子どもたちの姿が見られる日が来ることを願っています。

教室での授業が再開できたとはいえ、以前とはまるで違った環境の中で授業を進めなければなりません。子ども同士の感染は少ないとはいえ、どこでどう感染するか分かりませんし、大人から子どもへの感染防止のために、教室の天井から縦1.8メートル横4.5メートルの大きなビニールシートを吊り、教師と子どもたちを隔てて授業したり、子どもたちの座る間隔を2メートル近く取って教室いっぱいに机を並べた授業を試みています。25坪ほどの教室に最大12名の子どもたちを分散させて座らせ、すべての窓は開放し、教師も子どももマスクをつけて授業を行っています。しかし、授業中ずっと話し続ける教師にとってマスクは途中で息苦しくなるし、また子どもの表情を見て反応を確かめながら授業を行ってきた私たちにとっては、マスク姿の子どもたちからは表情が読み取りにくく、とてもつらい授業です。子どもたちは、教師の表情に惹かれて楽しみながら授業に参加しているはずですから、私も時々マスクをはずしフェイスシールドに変えて、表情が子どもたちに伝わるようにしながらビニールシート越しに授業を行っています。また、教室に大勢の子どもと保護者が集まって3密をつくることがないよう、授業後の説明については現在もオンライン配信を継続しています。教育を止めないためにも、子どもに接する教師たちのPCR検査ができれば・・・と思い医療関係者に相談しても、現在それはできないという返事しか返ってきません。当分の間、相当に神経を使いながら教室運営をしていかなければなりません。

ところで休校期間中、私たちは子どもたちの学習の継続性を守りながら、保護者の皆さまに対しては受験に向けて安心していただけるよう、最新の入試情報を送り届けることを約束しました。毎年3月以降に始まる学校説明会もすべて中止になり、オンライン配信に替わっています。また、私たちが毎年実施してきた「女子校合格フェア/共学&男子校合格フェア」も中止になり、現場からのメッセージも送り届けることができなくなりました。多くの会員の皆さまからも、併願校が決まらないので「学校情報が欲しい」とのご要望を多くいただき、過去に行ったセミナーを配信したり、5月末からこぐまクラブを開館(完全予約制)して、入試資料が閲覧できるようにしました。しかし、一番知りたい「今年の入試がどのように行われるのか」については、憶測を避けて学校側に聞かなければなりません。そこで私は、こぐま会会員の皆さまが受験する学校の校長先生にお手紙を書かせていただき、学校説明会に代わるメッセージを、講演会の形でも取材の形でも良いので頂きたい・・・とお願いしたところ、多くの学校で快く引き受けてくださいました。すでに数校の取材が終わり、6月10日にはある女子校の校長先生に教室までお越しいただき、ご講演いただく機会を持つことができました。これからも、いくつかの学校の先生方をお招きする機会を準備している一方で、直接学校に伺ってインタビューにお答えいただく予定もあります。学校の教育方針についてのお話や、小学校入試の受け止め方についてのお考えをお聞ききすることができれば、受験生の皆さまに何を信じて対策を進めればよいのかをお伝えできるのではないかと考えています。

これまでに伺うことができた学校の先生方のお話を総合して考えると、各学校とも今年の入試をどうするかの前に、学校再開に伴う当面の課題をどう解決していくかで精一杯で、今年の入試の変更点はまだ何も決まっていないというところが正直なところのようです。ですから、入試も例年通り行うという前提で動いているようですが、試験期間に感染の第2波が来たら・・・とかなり神経を使われているようです。また、最近重視している行動観察の試験を密接・密集を避けるためにどうするかと頭を悩ませているようです。もし受験が予定通り行われるとしても、3カ月近くの休園で遅れてしまった子どもたちの発達を考慮した試験になることは確かなようです。

今回の校長先生のお話は、質疑応答を含め1時間半ほど続きました。私も拝聴し共感することがたくさんありました。何よりも女子校としての存在の意味を確固とした信念を持ってお話しされていたことに深く感銘を受けました。また、どんな学校であるかを美辞麗句を並べて説明するのではなく、この休校期間中に学校が子どもたちのために何をしてきたか、オンライン学習にどう取り組んだか・・・実際にされたことを具体的にお話しされる中で学校のお考えを伝えようとされていたのも素晴らしいことだと思います。ビデオ通話という便利なツールを使って子どもたちとオンライン上で授業を行ったことに満足するのではなく、そのツールを使って「一体何を子どもたちに届けたか」ということを強調され、手作り教育の重要さをお話しされていました。オンライン教育を手放しで喜ぶのではなく、何が子どもに届いたのか検証をしなければいけないと考えてきた私の想いと重なりました。講演時間の半分以上を費やして休校中の学校の取り組みについてお話しされましたが、そのことを通じて、学校が何を大事にしているかということが参加された皆さまに十分伝わったのではないかと思います。
また、「小学校入試をどう考えるか」については、子どもの成長の過程で、年長児という時期が生活者としてまた学習者としてどんな時期なのか、その置かれた重要な位置づけに基づき、学校側が望むのは今どれだけの力が身についているかではなく、将来の成長にとって今何が大事かを考え、これから伸びようとする芽があるかないかをいろいろな側面から見ていきたいとお話しされていました。そのためには、家庭生活をまず充実させること、その上で、成長にとって意味のある経験を幼児教室での体験で補っていくことが必要であるとの考えを示されました。試験官の先生方は、今見える子どもの向こう側にある「未来に伸びていく力」を見ていきたいし、決して「できた - できない」で子どもたちを見てはいないということをはっきり仰っていました。「型にはめた教育が一番いけないし、ペーパーだけをやってくるような子どもは、将来伸びないのであまり好ましくない。子どもたちを「~漬け」にしてしまわぬよう、年長児にふさわしいいろいろな体験を積み重ねて欲しい」と繰り返しお話しされていました。私が常に強調してきた、入試のための型にはまった教育・ペーパートレーニングだけの学習ではだめだということを、今回のお話を伺ってさらに確信することができました。訓練のための入試対策ではなく、将来の基礎を培う本物の幼児教育で入試を目指すご家庭が増えていくことを願っています。

今年の入試がどのように行われるかについては、どの学校もまだ明確な方針を持っているわけではありません。ただ、私たちの指導の現場から考えると行動観察がどう行われるかには関心がありますし、おそらく今まで以上に面接が重視されていくことは想像できます。そのために願書・面接対策は例年以上に力を入れなくてはなりませんが、面接本を読んで答えを暗記したり、例文を見て美辞麗句を並べる願書を書くようなことでは、最初から学校側に嫌われてしまいます。一番大事なことは、揺るがない「家庭の考え」です。他人任せの入試対策はどこかで学校側に見抜かれてしまいます。

独自の講演会や学校取材により、学校説明会ではあまり知ることができない学校側のお考えについても感じ取ることができました。今回の講演会や取材内容を記録した動画は、こぐま会会員の皆さまにオンライン配信することを学校側に許可していただいておりますので、近いうちに順次ご家庭にお届けいたします。

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