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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「今私たちにできること (4)」

第720号 2020年5月15日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 4月7日から始まった休校措置も5週間がたちました。少しずつ明るい兆しが見えてきましたがまだまだ予断を許しません。仮に6月から開校になったとしても従来どおりの授業が再開できるわけではなく、感染症の予防をしながら授業を進めていくことになるでしょう。そのヒントはこの5週間のさまざまな試みの中にあるはずです。私たちがこれまでしてきたことは、
  1. 学習の継続性を中断させないよう、年間学習計画に基づいてオンライン学習を行うこと
  2. 受験生の保護者の皆さまに不安を与えないよう、どこまで学習が進み、これからどんな学習が必要かを常に明らかにしていくこと
  3. 家庭学習を授業進度に沿ってコントロールするために、これまでの3倍以上の家庭用教材を作成し、それを使って基礎学力の点検や過去問トレーニングへの導入を行うこと
  4. 子どもとの気持ちの距離感を縮めるために、定期的にWEB上でクラス会を行うこと
  5. 保護者の皆さまのご相談に常に応えられるような体制を作っておくこと
  6. 例年5月の連休中に行っている「女子校合格フェア/共学&男子校合格フェア」に代わる入試情報の配信をオンラインで行うこと

例年に比べると2倍以上の仕事量になり、休校とはいえ職員は交代で出勤し、夜遅くまで映像を撮ったり、それを編集したり教材を作って送ったりと大変な毎日を送っています。こうした私たちの取り組みを保護者の皆さまにも応援していただき、家庭での学習をいろいろとサポートしていただいています。また、保護者の皆さまから励ましのお言葉を頂き、それを支えに職員一同慣れない仕事に取り組んできました。

特に今精力的に取り組んでいるのは、入試情報をどのようにお届けするかです。これまでは定期的にセミナーを行ったり、こぐまクラブに保管している膨大な資料を閲覧していただいたりしながら、第1志望校や併願校の選択や合格に向けた学習法などをお伝えしてきました。今年は合格フェアも中止になってしまったため、来週から学校ごとに出題傾向を分析し、予想問題についてのお話をさせていただく動画配信を始めます。学校説明会も中止になり、保護者の皆さまも情報不足でご不安かと思われますが、そろそろホームページ上で学校説明会が始まるのではないかと思います。5月に入ってから、いくつかの学校からこぐま会に通われている方に対し、学校の考え方をお伝えできないかという相談をいただいています。学校側も例年の説明会ができないため何かいい方法はないかと模索しているようです。こんな状況ですから、私たちの方からも学校側にぜひ説明会を行っていただきたいと申し入れをしています。いくつかの学校でいろいろな形で応じていただけるようです。また、受験を終えたOBの方のメッセージも収録しましたので、こちらも配信する予定です。

今年の入試がどのように行われるのか・・・という質問をたくさんいただいています。それにつながる学校側の考えはまだ伝わってきませんが、おそらく何らかの変化はあるでしょう。昨日(5月13日)、文部科学省の方から今年の高校入試に関し、できるだけ学習が終わっていない範囲からは出題しないこと、また一方で面接や作文も取り入れて行うことなどの要請があったようです。その流れで小学校入試も中学校入試も検討するように・・・といった話があったようですので、それを踏まえて各学校は検討するはずです。秋ごろから再び感染者が増えて・・・という話も聞こえてきますので、学校もどんな入試をしたら良いか迷うところでしょう。しかし、現在は学校再開をどうするかに全力を挙げているようですので、入試に関する情報の発信はもう少し時間がかかると思います。おそらく一番頭を悩ませるのは、最近重視している「行動観察」の扱いだろうと思います。三密を避けて入試を行うとすれば、やはり問題になるでしょう。行動観察は、お行儀をチェックしたり、大人が好む態度をとることを評価するものではありません。「型」を身につけることを行動観察の対策だと考え、それを教え込むことが対策だと考えている人たちは、行動観察の対策もオンラインでできるのではないかと、とんでもない勘違いをしています。何か好ましい「型」を身につけることが対策だと考えているからでしょう。しかし、大人の発想で行うそうしたことを学校側はひどく嫌っています。それぞれの個性を生かして「自分で考え、判断し、行動できる子ども」を求めているのです。今年の行動観察がどうなるかが一番の関心事ですが、いずれにしても今年の入試は面接を重視するはずです。行動観察が形を変えて行われるとしたら、私がこの数年間「KOGUMAひまわり会」の行動観察で実践してきた、テーマを与えた子どもたち同士の「話し合い」が行われるかもしれません。室長のコラム587号で書いたことですが、大事な部分を少し抜粋してみます。

幼児では不可能と考えてきた、「答えの根拠をみんなの前で発表する」こと、また、友だちの答えに対しても自分の考えをぶつけていくことが、5歳児でも十分できることが分かってきました。
こうした集団での討議は、フランスで制作されたあるドキュメンタリー映画を数年前に見て以降、日本の子どもたちもできるのではないかと考え、いろいろな試みを行っているうちのひとつです。
「小さな哲学者たち」というこの映画は、フランスの幼稚園で行われた授業「哲学のアトリエ」に2年間にわたって密着したドキュメンタリーです。「子どものための哲学」という研究が、1960年代、コロンビア大学の教授マシュー・リップマン氏によって発表され、それ以来いろいろな取り組みが行われているようです。子どもが持っている「考える力」を話し合うことでさらに高め、その後の認知能力と学習力、生きる力へとつながっていくことを提唱したようです。その考えに基づき、2007年にフランスの幼稚園で初めての試みが始まったということのようです。

私は、KUNOメソッドの教育理念の中のひとつに「対話教育の実践」をうたっています。単なるコミュニケーション能力ではなく、自分の考えを伝え、他者の考え方も受け止めた上で話し合いを続けることだと考えています。フランスでの実践に触発されて、行動観察の中でも「話し合いの場」をたくさん設けてきました。この幼稚園で実践されたような、「自由ってどういうこと?」「死ぬのは怖い?」「哲学って何?」といったような議論はできませんが、子どもの生活の中で起こるさまざまな出来事に対して、どのように解決するかみんなで話し合うことは十分できることを、この5年間で経験してきました。「哲学」の授業を小学校の科目に入れようと実践や研究も始まっているようです。多くの仕事がロボットに取って代わっていくと言われているこれからの時代の中で、人間が人間らしく行き抜くために「哲学」の果たす役割は大きいはずです。
室長のコラム587号より

48年間の現場での受験指導を振り返ったとき、小学校入試が一度だけ大きく変わった時期がありました。受験が激化し毎日何十枚とペーパーを強制された子どもたちが、心のバランスを崩して体調の変化を訴え、臨床心理や心療内科の先生方に相談に駆け込んだのです。そうした子どもたちを診た現場の先生方が、その原因として幼稚園受験や小学校受験があるのではないかと考え、それは子どもの心の成長にとって好ましくないという警告本をたくさん出しました。それを受け止めた小学校側が、一時期ペーパー試験を取りやめたことがありました。学力試験は具体物やカードを使い、個別テストや小グループテストの形式で行ったのです。その後、少ない数のペーパーと行動観察、三者面談の3つの柱で行う試験が長い間続いてきました。理由は違いますが、もしかしたら試験の形式や内容が今年大きく変わる可能性がでてきました。きっと学校側も小学校入試はどうあるべきかを考えはじめるはずです。教育的に意味のある入試はどうあるべきか・・・そう考えれば、今行われているような訓練による入試対策ではなく、本物の教育の成果としての入試を目指すはずです。どんな子どもも同じような発想しかできないような、個性を活かせない教え込みの受験対策は学校側も望んでいないでしょう。また、今低学年の学力が以前と比べると相当落ちていることにも学校側は危機感を持っています。2年間も3年間も時間とお金を掛けて入試対策をしてきた結果の有様です。ペーパー主義の入試対策では「考える力」は育たないということに学校側が気づき始めています。

今年は限られた条件での入試ですから、入試のあり方も大きく変わる可能があります。試験のあり方が変われば、入試対策のあり方も変わるはずです。子どもたちの将来のために、ぜひそうなって欲しいと思います。ペーパー主義の受験教育に代わって、「事物教育」「対話教育」が意味を持つ入試に必ず変わるはずです。

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