ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「考える力を求める入試問題(2) 位置表象の課題」

第711号 2020年2月28日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 昨年秋の入試で出題された問題の中から、考える力が求められる典型的な問題を以前のコラム(708号)でお伝えしましたが、今回は工夫された問題が出始めている「位置表象」領域の問題を紹介し、何をどう学習したらよいのかをお伝えします。その前にまず、「位置表象」で学ぶ学習の基本をお伝えします。

こぐま会では、就学前の教育を「教科前基礎教育」として6つの領域を設定し、小学校の教科学習につながる「基礎教育」を実践しています。その6つとは、未測量・位置表象・数・図形・言語・生活他ですが、その中の位置表象は、将来の図形教育の前提としての空間認識の学習です。ステップごとにテーマを設け、以下のように学習を進めています。易しいものから難しいものへと積み上げていく系統性を持った内容です。
step1「前後・上下関係」
・前後関係の相対化・系列化
・上下関係の相対化・系列化
・方眼上の位置の対応
・位置の記憶(つみ木・方眼)
step2「左右関係」
・右手・左手の理解
・交差点の曲がり方
・生活空間での位置関係
step3「方眼上の位置と移動」
・右手・左手の理解(復習)
・方眼上の位置の理解
・方眼上の位置の言語化
・方眼上の位置の移動
step4「四方からの観察(1)」
・四方からの具体物の写生
・カードを使った場所さがし
・いろいろなものの四方からの観察
step5「四方からの観察(2)」
・四方からの観察(二者)
・反対から見たときの位置関係
・反対から見たときの写生
step6「地図上の移動、飛び石移動」
・地図上の移動
・すごろく移動
・飛び石移動
step7「総合」
・総まとめ

位置表象の学習で中心となる課題は「左右関係の理解」です。「方眼上の位置」「地図上の移動」「四方からの観察」など、入試で中心となる課題には必ず左右関係の理解が伴います。その意味で、ステップ2で学習する「左右関係の理解」が空間認識のポイントになります。
では、2020年度入試で出された位置表象の問題の中から5つを紹介します。

1. 地図上の移動
  • 赤い枠のお部屋を見てください。
    矢印からスタートしてはじめの交差点をまっすぐ進み、次の交差点を右に曲がりました。その次の交差点を左に曲がり、次の交差点をまっすぐ進むと、どのお家に着きますか。着いたお家に赤のクレヨンでをつけてください。
  • 青い枠のお部屋を見てください。
    矢印からスタートしてはじめの交差点を左に曲がり、次の交差点をまっすぐ進みました。その次の交差点を右に曲がり、次の交差点も右に曲がりました。その次の交差点を左に曲がり、次の交差点も左に曲がり、次の交差点をまっすぐ進むとどのお家に着きますか。着いたお家に赤のクレヨンでをつけてください。

典型的な「地図上の移動」の問題です。最初の問題はお話を最後まで聞いて、どこの家に着いたかを考える問題です。話を聞きながら指などを動かせないため、目で追いかけるしか方法はありません。2問目は、お話を聞きながら動いていくことができるため、記憶したり、目で追いかける必要がなく簡単なように見えますが、実はこちらの方が間違いが目立ちます。なぜでしょう。それは、話を聞きながら曲がり方をとっさ に判断がしなければならないからです。今回の問題にはありませんが、平面に描かれた地図を上から(自分と向かい合う方向から)交差点に入ることがあり、その場合は左右が自分の左右とは逆になります。そこを間違いなく判断できるかどうかが問題です。地図上の移動の問題にはこの2つの他にもうひとつの出題方法があります。それは、話の内容理解の中で出題される場合です。この場合は、移動する地図を見ることはできないため、お話をしっかり記憶しておかなければなりません。しかし地図を見ることができない分、曲がり角には必ずお店などの目印があるため、それを覚えておけば大体思い出せるようになっています。ですから、話の内容理解の中で出題される地図上の移動が一番難しいかというとそうではありません。授業経験を踏まえると、お話を聞きながら移動する問題が一番間違いが目立ちますので、そこをしっかり学習してください。

2. 方眼上の飛び石移動
動物たちがお部屋の中の点を飛んで進みます。上のお部屋にお約束がかいてあります。ブタは1つずつ進みます。ウサギは2つずつ進みます。クマは3つずつ進みます。
  • このお約束で進んで行くと、2匹の動物が同時にぶつかる場所があります。その点を見つけて、で囲んでください。

縦軸と横軸が交差する点を飛び石に見立て、3匹の動物が約束通り動いたときにそのうちの2匹がぶつかる場所を探す問題です。これは難しい「旅人算につながる飛び石問題」とは意味が違いますが、3つの動物を同時に移動させる作業が必要になりますので、飛び石移動の基本である移動のさせ方が大事だという点においては共通しています。入試全体として作業能力が求められていますので、こうした問題もていねいに解く練習をしっかりやってください。

3. 四方からの観察
  • 1番左を見てください。つみ木を向こう側にいるネコから見たら、下のように見えました。では他の動物たちからつみ木を見たらどう見えますか。下の点を使ってかいてください。

位置表象の中で入試で一番よく出される課題は、この「四方からの観察」です。もともと四方からの観察は認識心理学者のピアジェも行っているテストで、空間認識の発達を診断する意味でとても大事な問題です。小学校の入試問題に最初に取り上げられたのは、具体物の見え方がほとんどでしたが、慶應義塾横浜初等部の最初の入試でつみ木を使った問題が出題されて以降、毎年のようにどこかの学校で「つみ木を使った四方からの観察」が出題されています。立方体のつみ木をいくつか積んで出題するのが一般的ですが、異なる立体を使う場合もあります。また、「四方」からの観察ですから、前後左右からの見え方が問われるわけですが、今回のように一番難しい反対からの見え方に絞った問題もあります。そしてこの問題は、選択肢から選ぶのではなく、点図形のように点を使って描く課題として出されています。こうした問題を見ていくと、同じ趣旨の問題でも出題の方法はいろいろあるということであり、学校側も過去に出た問題と同じにならないように工夫しています。基礎がしっかり身についているかどうかが問われます。

4. 四方からの観察
  • 左のつみ木を矢印のように上から見ると、どのように見えるでしょうか。それぞれ右から選んで青でをつけてください。

これまで慶應義塾横浜初等部では、つみ木を使った四方からの観察では立方体のつみ木を使うことが多く、また、四方からの観察における前後左右の中でも特に反対からの見え方を問いかける問題が多く見られました。今回は、円柱・立方体・三角柱のような異なる立体を使って組み合わせたものを、上から見るとどう見えるかを問う問題です。この、上や下からどう見えるかという問題は、つみ木を使った四方からの観察が出されてからずっと予想していたものですが、今回は選択肢の中から選ぶという形式で出されています。こうした問題が出てくることを考えると、今や「四方からの観察」が「六方からの観察」に変わってきたといっても過言ではありません。次に予想されるのは、下から見た形を描いてくださいということになりそうです。

5. 位置の移動(推理)
  • 左の形から1つだけ動かしてお日様のお部屋の形を作りました。どこを動かしたのでしょう。動かした形にそれぞれをつけてください。
  • 左の形から2つ動かして雲のお部屋の形を作りました。動かした形にをつけてください。

この問題は確かに「位置の移動」の問題ですが、いわゆる「飛び石移動」や「地図上の移動」とは少し違って、変化した部分と変化しない部分を考える問題でもあります。こぐま会では、ある形からひとつだけ位置を変えてできる形を自分で作ってみるという課題を、三角パズルやつみ木を使い「山手線ゲーム」として行っています。今回の問題は動く要素が正方形1枚です。三角パズルの移動も1枚だけ動かす問題で共通していますが、動く形が正方形であるという点が、これまでの山手線ゲームとは勝手が違います。上の問題は1枚動かした時、下の問題は2枚動かした時のものを探す形になっていますが、何を基準に考えるかが問われます。どこに目をつけるかが問題ですので、まず子どもがどのように取り組むかを見てからアドバイスしてあげてください。

以上、2020年度入試で出題された典型的な「位置表象」の問題を紹介しましたが、過去にさかのぼってみると、さまざまに工夫された問題が多くあります。どれも「考える力」や「作業能力」が求められる問題です。数・図形・言語の問題が中心の小学校入試ですが、図形の基礎となる空間認識の問題として、これからもいろいろ工夫された問題が出されていくはずです。基本をしっかり身につけておくようにしてください。

PAGE TOP