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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

言語領域は「聞く」「話す」「一音一文字」の理解がポイント

第694号 2019年10月18日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 将来の国語科につながる幼児期の言語学習は、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能のうち、「聞く」と「話す」に力を入れなくてはなりません。事実、小学校入試でも「読ませたり」「書かせたり」することは基本的にありません。質問を聞いてから問題に取り組み、答え方についても、ペーパーを使わない場合は話して答える形を取っています。こぐま会のセブンステップスカリキュラムでは、ステップごとに次のようなテーマで学習してきました。

ステップ1:同頭音・同尾音、しりとり
ステップ2:短文づくり
ステップ3:話の内容理解、お話づくり
ステップ4:話の内容理解、昔話
ステップ5:言葉あそび、短文づくり
ステップ6:話の内容理解、お話づくり
ステップ7:総合

聞く力の代表として「話の内容理解」、話す力の代表として「お話づくり」を中心に、「言葉の理解」を付け加えた3つの柱で年間のカリキュラムが作られています。幼児期の学習課題を「読み・書き・計算」と考える人たちが、国語につながる内容を「読む・書く」に重点を置いてしまうと「聞く」「話す」がおろそかになってしまい、幼児期にこそ力を入れておくべき課題をないがしろにしてしまう結果になりかねません。どのご家庭でも実践している「絵本の読み聞かせ」に幼児期の言語課題は集約されており、「読ませること」「書かせること」の前に大事な学習があるということを知っておかなければなりません。実際に子どもたちと「聞く」「話す」課題に取り組むと、子どもたちの驚異的な「聞く力」の能力の高さに感心することがたびたびあります。逆に言えば、だからこそ幼児期の聞く力を高める経験を持たせることが大事です。

入試を直前に控えた最後のまとめの授業(ステップ7)では、次のような学習をしました。
  1. 一音一文字
  2. 言葉づくり
  3. しりとり
  4. 言葉つなぎ
  5. クロスワードパズル
  6. 同音異義語
  7. 動きを表す言葉
  8. 昔話
  9. 話の内容理解
  10. 話の内容理解

1~7まではすべて言葉の理解に関する課題です。昔話は常識問題のひとつですが、今回は言語問題としても扱い、残りの2枚は話の内容理解です。お話づくりはカードを使って行うことが有効なので、このまとめのペーパーには入っていません。一音一文字の理解に依拠する1~7までの課題の中で、最近の傾向を踏まえた問題を紹介しましょう。

2. 言葉づくり
  • 上のお部屋のものの名前の、最初の音を組み合わせてできるものを下から選んで青いをつけてください。

昔からある問題ですが、物の名前の最初の音を組み合わせて新しい言葉をつくる問題です。50音すべてあるわけではありませんから、限られた音の中で組み合わせて新しい言葉をつくらなければなりません。今回は最初の音でしたが、下から2番目や真ん中の音を組み合わせてつくる問題もあります。どこに何の音が付くかを素早く発見する学習が必要です。

4. 言葉つなぎ
  • 左のお部屋を見てください。ここにあるものの名前の上から2番目の音を次の言葉の最初の音とつなぎます。の中の「たけのこ」からはじめます。「たけのこ」の2番目の音は「け」なので、次につなぐものは頭に「け」がつきます。続けてできるだけ長く青い線で結んでください。使わないものも入っていますよ。
  • 右のお部屋を見てください。今度は真ん中の音でつなぎます。「きつね」の真ん中の音は「つ」なので、次につながるものは頭に「つ」がつきます。続けてできるだけ長く青い線で結んでください。使わないものも入っているので気をつけてください。

しりとり遊びは、前の言葉の最後の音を次の言葉の最初に持ってくる言葉遊びですが、それを変形させて上から2番目の音でつないだり、真ん中の音でつないだりする課題です。最近の入試でよく出されています。

5. クロスワードパズル
上の絵を見てください。丸いお部屋がつながっています。このお部屋の中には下にあるものの名前の音が入ります。
《れい》の黒いは縦の列を指しています。が4つ並んでいるので、名前は4つの音でできているようです。下の絵の中で探すと、「か・ま・き・り」が4つの音でできています。ですから下の「かまきり」のお部屋に黒いをつけました。
横の列のは「かまきり」の「か」からはじまる3音なので「かえる」が入りますね。下の「かえる」のお部屋にはがついています。

  • 他のものはどこに入るでしょうか。「かまきり」と「かえる」の音から、当てはまる名前を考えて、入る場所の印を下のお部屋につけてください。

この問題はまだ入試問題として出されたことはありませんが、一音一文字の考え方を応用すればできる問題ですので、今回難しいだろうということを想定の上でやってみました。1回だけの指示で理解できる子どもは少数ですが、問題の意図をかみ砕いて伝えてあげると結構できるということも分かりました。一音一文字が本当に分かっているかどうかを見る意味では、最適な問題だと思います。以上、いずれの問題も言葉学習の基本である一音一文字の考え方に依拠しています。

こうした問題が入試で取り上げられるようになったのは、私の長い実践経験の中でもそれほど以前からではありません。私は、この一音一文字の学習は日本語の理解の基本として、開校当初からカリキュラムに入れてきました。それが入試問題にも取り上げられるようになったということは、入試問題が極めてまともな幼児期の学習内容に依拠しているということの何よりの証拠です。入試のための問題などどこにもありません。その意味で小学校受験をする、しないに関係なく、幼児期の学習課題として「入試問題」を見ていく意味は十分あると思います。

従来までは「しりとり」が言葉の理解の典型的な問題でしたが、その根拠になる一音一文字の理解に関する問題がいろいろ多様化してきたということです。その中には、論理性を求める問題も入っています。いずれも言葉の学習の基本である一音一文字の考え方に依拠した問題です。今後の入試においても形を変えていろいろ工夫されて出てくるはずですが、基本は「一音一文字」の考え方ですから、「いくつの音でできているか」「どこに何の音がつくか」という一番基本のところを繰り返し練習してください。

話の内容理解の2枚のうち、1枚は以下の問題です。ある学校の問題を参考にオリジナルなものとして作ったものです。

10. 話の内容理解
次のお話を聞いて、後の問題に答えてください。

サルのモンタ君は、冬が近くなったので、お母さんと一緒に買い物に出かけました。お母さんは木の実を5個と、お庭で採ったカキの実を3個カバンに入れて出かけました。
まずはじめに行ったのは、ネコの洋服屋さんです。モンタ君はお店の中で、自分の帽子とマフラーを探しました。でも、欲しかった水玉模様のマフラーが売り切れていたので、かわりに縞模様のマフラーにしました。帽子は星の模様で、横に飾りの羽がついているものにしました。「かっこいいね」と、モンタ君が言うと、ネコさんが「それはキジさんの羽をわけてもらって作ったんだよ」と教えてくれました。マフラーは木の実1個、帽子は木の実2個の値段でした。木の実が残ったので、お母さんはお花の模様の手袋を買いました。それで木の実のお金はぴったりなくなりました。
次にウサギさんのブドウ畑に行きました。カキの実1つでブドウ2房と換えてもらえます。お母さんは持ってきたカキの実を全部ブドウに換えてカバンにしまいました。
木枯らしが吹くと、もう冬ですね。

  • お母さんが買った手袋は木の実いくつの値段でしょうか。その数だけ木の実のお部屋に青いをかいてください。
  • 出てきた動物に青い、動物たちの話の中だけに出てきた動物に青い×をつけてください。
  • モンタ君とお母さんが買ったマフラーと帽子、手袋には、どんな模様がついていましたか。青で線結びしてください。
  • お母さんが持っていたカキの実は、ブドウ何房と換えてもらえましたか。その数だけブドウのお部屋に青いをかいてください。

話の内容理解に関しては昔から典型的な質問が4つあります。登場人物・順序・数・登場人物と行為の結びつけの4つです。しかし最近は、どんな領域の問題が出されてもおかしくない時代になりました。絵本を使ったり、ひとつの物語を使ってすべての領域の問題を解かせた時代があったからです。最初から最後まで一連のつながったお話を途中で区切りながら、関連する領域の問題を質問していったわけです。それ以来、話の内容理解の中に分類の課題が出たり、関係推理の問題が出たり、地図上の移動の問題が出たり・・・あらゆる領域の問題が、話の内容理解の形で出されていました。学校側は、聞く力を見ようとしていたのでしょう。話の内容理解は話を記憶するのではなく、話を理解するという姿勢で取り組ませることが大事になりました。最近の問題の中には、人の気持ちを考えさせたり、社会的常識を問うような問題も出てきました。将来の国語科の読解につながるような質問が増えてきたように思います。その意味でも、絵本の読み聞かせがますます大事になってきたと思います。

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