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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

園長研修会での講演

第680号 2019年6月28日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 大阪市に本部のある「一般社団法人 総合幼児教育研究会」の創立35周年の記念行事の一つとして行われた園長研修会において、『幼児教育に新しい風を「考える力を伸ばす幼児教育」』と題してお話しさせていただきました。この研究会に関しては、以前講演会をさせていただいた幼稚園の園長先生から活動内容を伺っておりました。このたび会長から会の沿革を伺い、また、ホームページに掲載されている活動を拝見し、とても熱心に幼児教育の改革に取り組んでいる組織であることが分かりました。そして、さまざまな研修会を通して人材育成に相当力を入れていることも知りました。こうした民間の研究会がどれだけあるのか分かりませんが、KUNOメソッドの普及や、実践の場から教育のあり方を変えていくべきだと考えてきた私にとって、とても学ぶことの多い組織だと感じました。全国で220近くの園が参加され、3万人近い子どもたちが、同じような考え方のもとで幼児期の教育を受けているとのことで、その組織力にも大変驚いています。遊び保育だけでなく、知・情・体の意図的な教育活動の中で次の世代を担う子どもたちをたくましく育てようと結集している園が、こんなにもたくさんあるということを知り、私と同じように、遊び保育だけではいけないと考えている幼児教育関係者が大勢いらっしゃる現実に大変勇気づけられました。

今回のセミナーは、参加者が幼稚園の園長先生であるということでしたので、KUNOメソッドの内容と方法について詳しくお話しさせていただきました。その内容は以下のようなものです。

総合幼児教育研究会 第33回 園長研修会
記念講演『幼児教育に新しい風を「考える力を伸ばす幼児教育」』
1. はじめに - 私が幼児教育の世界に飛び込んだ理由
2. 幼児教育をめぐる現在の状況
  1. ジェームズ・J・ヘックマン
  2. 新しい指導要領による教育改革
  3. 第二次幼児教育ブーム
3. KUNOメソッドをどのように構築したか - 過去の遺産に学ぶ
  • モンテッソーリ
  • ピアジェ
  • ブルーナー
  • ヴィゴツキー
  • 遠山啓
4. KUNOメソッド 3つの教育理念
  1. 教科前基礎教育
  2. 事物教育
  3. 対話教育
5. 考える力を伸ばす - 10の思考法
  1. ものごとの特徴をつかむ
  2. いくつかのものごとを比較する
  3. ある観点に沿ってものごとを順序づける
  4. 全体と部分の関係を把握する
  5. 観点を変えてものごとを捉える
  6. ものごとを相対化して捉える
  7. 逆に考える
  8. あるものごとをひとまとまりとして捉える
  9. 法則性を発見する
  10. AとB、BとCの関係から、AとCの関係を推理する
6. 幼児教育に新しい風を - 幼児教育の変革を担う人材育成を
  1. 理念を共有する
  2. 目指す目標を明確にする
  3. 「読み・書き・計算」の前にすべき大事なこと

講演が終わり、昼食会の席で大勢の園長先生から声をかけていただき、名刺を交換させていただきました。今回参加された園長先生の中には、2代目・3代目の方も大勢いらっしゃったようです。先代がはじめられた幼稚園を継ぎ、これからの時代の要請に応えるべく、伝統を守りながら新しい発想で園の経営に当たろうとしている先生方が多いように感じました。今でも「系統立てられた知育は幼稚園では必要ない」と考えている園も多い中で、KUNOメソッドに大きな関心を持っていただいたことを大変うれしく思います。いろいろお話しさせていただくと、30人1クラスの現状で集団での意図的な指導を行うのは大変難しく、アフタースクールのような形でやらざるを得ないということです。形ばかりの教え込みの教育ではなく、考える力を伸ばす幼児教育を実践したいというお考えをお持ちのようでしたので、ぜひ私の授業を見学にいらしてくださいとお伝えしました。

私が今回のセミナーで園長先生にお伝えしたかったことは、
  1. 幼児期の基礎教育は、教科学習の前倒しではなく、教科学習につながる基礎をしっかり身につける教育であってほしい
  2. 教育方法は、事物教育対話教育を中心とする
  3. 遊び保育の良さを評価しながら、遊びと関連付けながら系統性のある教育内容を実践することが大切である
  4. 認知能力と非認知能力を別々に考えるのではなく、一体のものとして考えること
  5. 幼児教育の改革は、子どもたちのいる現場から始めるべきで、そのために有能な人材を育てる努力が大切である

  6. 1990年~2000年代、幼稚園関係者の集まるところで今回のようなお話をさせていただいたことを覚えています。その頃は今と違って、意図的な知育を受け入れない雰囲気が強く、あまり関心を示していただけなかったことを覚えています。遊び保育でよいという雰囲気が強く、意図的な知育は小学校受験対策を必要としない人たちにとっては関係ない・・・というような時代でした。しかし、幼児教育の重要性が認識され始めている今、我々が実践している「事物教育・対話教育」に強い関心を持たれている園の関係者が多く、アフタースクールで実践したいと相談に見えるケースが増えています。

    ペーパーだけを繰り返す間違った知育ではなく、事物教育・対話教育の実践を望む声が多くなれば、その時こそKUNOメソッドの出番です。今回、大勢の園長先生にKUNOメソッドの考え方をお伝えできたことは大変良かったと思います。園長先生との出会いが、私自身の活動の次のステップにつながるよう、これからも現場に張り付き、幼児教育のイノベーションについて考え続けていきたいと思います。

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