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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

論理的思考を重視する次期学習指導要領

第68号 2006/08/04(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 7月29日の朝日新聞は,次期学習指導要領の改訂で、文部科学省が、国語を他教科も含めた学習の基本と位置づけ「論理的な思考力」を向上させることを軸に教育内容を見直す検討をはじめたことを報じています。ゆとり教育の反省に立ち、日本の子供たちの学力低下に対する具体的な対策について、「論理的思考力の育成」を軸に検討していることには大賛成です。「読み・書き・計算」の徹底だけでは学力は向上しない、ということをはっきり示したことは大変評価できます。計算が速くできる・漢字をたくさん覚えている・・・それだけでは今の学力低下に歯止めはかからないのです。計算力を高めるのは確かに大事です。しかし、計算が早くできれば、算数や数学で問題になっている思考力の低下がすべて解決すると勘違いしていたところが問題なのです。そんなことで、論理数学的思考が身につくはずはありません。

 私は、幼児期の基礎教育のあり方を現場で考え始めた当初から、幼児期の基礎教育は「論理的思考力をいかに育てるか」が最大の課題だと主張し、実践を積み重ねてきました。われわれが目指してきた教育が正しかったことが証明されてきたのです。今回の指導要領の改訂では、「思考力の向上に向けては、国語を基本に見直したうえで、他教科についても議論していく」ことになるようです。その点についてはまったく異論はないのですが、国語力だけが前面に出すぎてしまう点を懸念しています。「論理的思考力」は、算数科においてはっきりと求められているわけですから、国語だけが突出してしまうと、その点を忘れられる懸念があります。数学的な思考力が「計算力」だけではないということをもっとはっきりいわなければ、「計算力の育成が最大の課題」と考えてきた、教師や親の意識を変えることはできません。国語力だけで論理的思考力が身につくはずはありませんから、その点をしっかり踏まえた内容の検討が必要です。

 特に、文字を読んだり、書いたりすることが不十分な幼児の場合、言語の「技能」を身につけ活用して思考を深めることには、おのずから限界があります。「聞く」「話す」ことが中心の幼児の場合は、相当の工夫が必要です。私たちが幼児期の基礎教育において「論理的思考力」を育てることに苦心してきたのは、その点なのです。遊びを活用したり、ゲーム化したり、実験をしたり、・・・と実践的にはいろいろ積み上げてきましたが、最終的には、根拠を説明させる「対話教育」が一番効果的であると考えています。それは、今回の方針である「国語力」の育成にもつながっているのです。

 論理的思考力の育成を歓迎しつつ、パターン化された内容の押し付けにならないよう願っています。子どもと接する教師が、現場で創意工夫できるような余地を残しておかないと、ダイナミズムに欠けた教育がはびこることになりそうです。また、子どもたちを教育する前に、まず教師や親が「論理的思考」ができるように、トレーニングすることが大事です。

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