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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

学校選択が多様化している背景

第662号 2019年2月22日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 11月から始まった新年度の授業も、先週で「ステップ3」を終了しました。2回の復習トレーニングを経て、来週から「ステップ4」の授業に入ります。ステップ4までが基礎段階の授業ですから、事物教育を中心に考える力を伸ばす指導を継続していきます。ただ、ステップ3とステップ4の学習内容が入試には一番よく出されていますので、基礎段階といえどもおろそかにできません。入試問題が全体として易しくなっている現状を考えると、このステップ4までの内容を完璧に理解すれば、多くの学校の学力問題には対応できます。逆に、ここまでの基礎的な内容をおろそかにし、難しい過去問だけをトレーニングするような学習では合格には結びつきません。基礎をしっかり身につけることが、遠回りのようでも合格につながる一番良い方法だと思います。

ところで、2月8日(金)の夕方、「お受験じょうほう」を運営するバレクセル主催の「お受験じょうほうセミナー」が行われました。私立小学校の校長・教頭・入試担当の先生方が集まる報告会です。私も含め4社の塾の責任者がパネラーとして登壇し、昨年秋の入試がどのように行われたかを塾の立場から分析し、保護者の皆さまの動向や学校に対する注文事項をお伝えしました。そこで配られた志願者数の資料を見ると、首都圏の私立小学校全体として昨年比5%の伸び率が見られたようです。ただし学校ごとに見ていくと、志願者が減った有名校もいくつか見られます。全体として志願者数が下げ止まったといえますが、それでも学校にとっては、厳しい運営が続くことは明らかです。また、都内の国立附属小学校に関しては、全体として昨年比2%の減少が見られ、特に東京学芸大学附属大泉小学校やお茶の水女子大学附属小学校が、90名ほど減少しています。筑波大学附属小学校だけが男女合わせた数では昨年を上回っている状況です。一方、今回初めて募集を行った東京農業大学稲花小学校は、72名の定員に対し、実質約6.7倍の500名弱の子どもたちが受験したようです。新設校が開校初年度にこれだけの志願者を集めるのには、それなりの理由があるはずです。東京農業大学第一高等学校中等部の入試偏差値が男子59、女子61と高く、そこへの内部進学が約束されていることも人気の理由だと思います。しかし、それだけではありません。体験を重視した学びや、小1から週5日の英語授業・7時間授業・食育の一環としての給食、アフタースクールの実施など、時代のニーズに合っていることも見逃せません。慶應義塾横浜初等部の入試が行われた時と比べると、開校前の市場調査では前向きな意見が少なかったにもかかわらず、これだけの志願者を集めた背景には、開校前にていねいに何回も行った説明会の効果があったからです。

さて、こぐま会では1月から2月にかけて、各クラスの担任と保護者の方との個人面談が行われます。今年もほぼ終了しましたが、長年この進路に関する個人面談にかかわっていると、ご家庭の学校選びに変化がみられることを痛感します。学校選択の多様化とでも言うべきでしょうか。40年ほど前の学校選びは、伝統校に対する信頼と大学までの一貫教育の良さを評価し、大学までつながっている学校を第一志望にする方が多かったように思います。代々小学校で教育を受けてきている・・・ということを前提に、学校を選択されていたように記憶しています。その後、中学校受験の厳しさやいじめの問題がクローズアップされる中で、どうしても小学校から私学で学ばせたいというご家庭が増えました。小学校受験が特殊な方々の関心ごとではなく、大勢の子どもたちが参加する時代が到来しました。受験者数が飛躍的に伸びた時代でした。その後志願者の増加がストップしたのは、リーマンショックとそれに続く東日本大震災の影響でした。小さな子どもが遠くの学校に通うことの是非がご家庭でも議論され、その後私立小学校への志願者が減り続けました。3年ほど前からまた増加に転じたようですが、問題は学校選びの考え方に変化がみられているということです。

伝統的なブランド校を選ぶご家庭、宗教教育に期待して学校を選ぶご家庭、中学校入試に向けて学校全体で取り組む学校や、アフタースクールの充実している学校を選ぶご家庭、学校説明会に出てこれからの社会で活躍できる人間を育成してもらえることを強く感じた学校を選ぶご家庭・・・学校選択の価値観が多様化しているのが今の時代の特徴といえます。その背景には何があるのでしょうか。少なくとも昔と決定的に違うのは、仮に大学までつながっている学校を選択しても、そこに行かせようという方は少なく、むしろ大学は本人の将来の職業選択を含め、本人の意思に任せたいと考えているご家庭が多く見られます。そうした将来の受験に備えてどんな対応をしてもらえる学校なのかを考慮して、学校を選ぶご家庭も増えてきています。つまり、選択に際し「教育方針」だけでなく「受験」という柱が明確に入ってきたということです。

AI社会の到来を予測し、社会に貢献できる人間になってほしい、付加価値を創造できる人間になってほしい、そのためにどんな教育環境を子どものために作ってあげたらいいのか。自分で判断し自分で行動できる人間になるために、どんな環境で教育を受けさせたらいいのか・・・最近はお父さまが前面に出て学校を選び、個別面談にも見えるご家庭が増えています。これまでの日本の大学入試に象徴される、知識偏重の偏差値教育だけでは、子どもたちは幸せにはなれないと考えるご家庭も増えています。どこの大学を出たかではなく、将来何をするのか。楽しく人生を送るために、またAI社会の中で活躍するにはどうすればよいかを考えるご家庭が増えています。いまや大学も、日本だけでなく世界のどこにでも留学できるような時代になりました。日本の大学に行かないで、直接海外の大学に行くという選択肢もあるわけです。そうした教育を取り巻く環境の変化が、学校選びに影響しているのは間違いありません。将来の社会を予測した子育てに関する価値観の多様化が、学校選びの多様化につながっていることだけは確かです。伝統校だからと安心してしまったら、時代に取り残されていってしまいます。どこかでこんなはずではなかったということにならないためにも、教育関係者は時代を見通す力を身につけなくてはなりません。生まれてはじめての集団教育の場に身を置く人間の1人として、時代を読み解く努力をしていかないと、保護者の皆さまのニーズに応える教育はできなくなってしまいます。間違いなくやってくるAI社会の中で必要とされる人間を育成するために、幼児期の教育はどうあるべきかを問い続けなければなりません。

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