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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

2019年度私立小学校「入試結果報告会」

第652号 2018年12月7日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 首都圏における私立小学校の入試は、11月26日の慶應義塾横浜初等部の発表をもって終了しました。国立附属小学校でも発表が始まり、残すところ数校となりました。例年この時期に行ってきた私立小学校入試結果報告会を、今年は12月2日の午前と午後の2回に分けて行いました。どちらもキャンセル待ちが出るほど盛況でした。報告会の内容は以下の通りです。

私立小学校入試全体の総括
「2019年度 入試結果報告会」
  1. 2019年度入試はどのように行われたか
    1. 入試日程
    2. 問題傾向に変化はあったのか
    3. 合否判定について
    4. 補欠合格者の動き

  2. 学力テストの傾向
    1. どの領域から、多くの問題が出されているか
    2. 典型的な入試問題の分析
      「何を求めているのか」また「子どもにとって、何が難しいのか」

  3. これからの入試問題を予想する
    1. 入試に臨む学校側の基本姿勢
    2. これから学校側が重視する学力の質
      (1)基本がしっかり身についているか
      (2)聴く力がしっかり身についているか
      (3)指示通りに作業して答えを導けるか ・・・そのプロセスを重視
      (4)自立した判断・自分で考え抜く力が身についているか
      (5)知識だけを機械的に教え込まれていないか
    3.  
  4. 行動観察の傾向と対策
    1. 総括
      テーマは「人の話をしっかり聴く」「自分で考え行動する」「チームワーク」
    2. 学校別出題内容の紹介と全体の傾向
    3. 入試に向けた対策のあり方について

最初に、2019年度の入試がどのように行われたかを「入試日程」「問題傾向の変化」「合否判定について」といった視点で分析しました。入試日程には大きな変化はありませんが、今年最大の話題は、東京農業大学稲花小学校が開校したことでした。倍率も大変高かったようですが、この学校が小学校入試全体に与える影響は、もう少し時間が経たないと判断できません。慶應義塾横浜初等部ほど他校への影響はないかもしれませんが、上級校である系列校の偏差値が高いこともあり、志願者が大勢集まる学校のひとつになるのではないかと予想されます。また、再び試験日を11月1日に設定した東洋英和女学院小学部に関しては、女子の併願校の組み合わせにかなり影響したのではないかと思います。立教女学院小学校の試験日が11月3日だけの1日になったことも、併願校を考える方にとってはよかったのではないかと思います。 問題の傾向に関しては、主要校の出題単元を一覧表にした資料をお配りし、それを使って分析しましたが、予想通りの単元からたくさんの問題が出され、聞く力・作業する力・考える力が求められた試験でした。特に入試前から注目していた以下の単元が複数校で出題されていることを考えると、これからの入試の傾向は、かなりはっきり読むことはできそうです。

未測量逆対応
位置表象四方からの観察・位置の移動
数の構成・一対一対応・一対多対応・数の増減
図形同図形発見・図形構成・線対称・回転図形
言語話の内容理解・一音一文字
生活他理科的常識・社会的常識・法則性の理解

特にこの中で作業を伴う課題は、位置の移動・四方からの観察・線対称・回転図形・法則性の理解です。今後の入試問題の中でも難しい内容として、各学校がいろいろ工夫してくるだろうと考えています。

こうした中で、典型となる問題を30問ほど用意し、特にその中でも今後の試験に関係のありそうないくつかを詳しく解説しました。「どんな力が求められているのか」「子どもにとって何が難しいのか」「どう学習したらよいのか」などについてお伝えしました。今年の入試問題の特徴のひとつに「位置表象」の領域からの出題が多かったということがいえます。特に、位置の移動・地図上の移動・四方からの観察・応用的な回転位置移動(回転推理)の問題などが多く見られました。そのうちのいくつかをご紹介しましょう。

1. 位置の移動

  • お日様のドングリの道を見てください。
    クマとウサギがドングリの道を進みます。クマもウサギも1回に1個ずつドングリを踏んで進みます。1個ずつ進んで2匹が出会うのはどこですか。その場所に青いをつけてください。
  • お月様のドングリの道を見てください。
    今度はウサギは1回に1個ずつ進みますが、クマは1回に2個ずつ進みます。2匹が出会う場所に青いをつけてください。それはクマが何回飛んだときですか。その数だけ下のお部屋に青いをかいてください。

作業能力が求められる典型的な問題です。クマもウサギも1回に1個ずつ進む場合と、クマは1回に2個、ウサギは1回に1個ずつ進むという場合があり、それぞれの約束をしっかり守って作業できるかどうかが問われます。簡単なようで結構神経を使う作業です。この学校では以前、こんな問題も出ています。

バッタとカタツムリがマスの中を矢印のほうに進みます。
バッタは3つとばしで4つずつ進みます。カタツムリは1つずつ進みます。
  • 2匹が一緒に進んだとき、同じところに着いた場所に青でをかいてください。
また元の場所に戻ります。今度はお約束が変わります。バッタは1つずつ進みます。カタツムリは1つ進んだら、1回休みます。
  • このお約束で2匹が一緒に進んだとき、同じところに着いた場所にエンピツでをかいてください。

この問題に比べれば易しい感じもしますが、どちらの問題にも共通して言えることは、約束どおりに作業できるかどうかです。そこがしっかりできていれば、問われていることが難しくても解くことはできます。しかし、一番基本となる動かし方で躓いてしまうと、どんなに易しい問題でも正解できません。その意味で問題は以前より易しくなってはいますが、一番大事なところを出題している点がすばらしいと思います。

2. 地図上の移動

クマさんのバースデーパーティーをレストランでやることになりました。ウサギさんはネコさんのお家に寄ってからレストランに行こうと思っています。ネコさんのお家からレストランまでの間に花屋さんがあるので、お花も一緒に買おうと思います。
  • ウサギさんのお家は教会の隣にあります。ネコさんのお家は赤い車がとまっているお家です。ウサギさんがネコさんのお家に行くとき、右に見えるものは何ですか。1つのお部屋から選んでをつけてください。
  • ウサギさんがネコさんのお家に行くまでに左に何回曲がりましたか。その数だけ2つのお部屋にをかいてください。
  • レストランでパーティーをしたあと、ウサギさんは近道をして帰ることにしました。信号をいくつ通りますか。その数だけ3つのお部屋にをかいてください。
  • ウサギさんはお母さんに「ポストに手紙を入れてきてね」と言われていたことを思い出しました。お家に帰る途中、1番はじめにあったポストに手紙を出しました。それはどのポストでしょうか。左の絵にをつけてください。

一般的な地図上の移動は、交差点がいくつかあって、それを指示通りに曲がっていく課題です。この問題は、一本道で繋がっている町の絵の様子です。交差点はありませんが、何回か曲がっていかなければなりません。また、歩いていて右に見えるもの、左に見えるものをさがさなければなりません。歩く人の立場に自分を置いて考えることができるかどうか、また「近道」といったときにどちらの道を通るべきかの判断も必要になってきます。

実はこの問題は、だいぶ以前に東京女学館小学校でよく出されていた問題で、今年も同じような問題が出ています。

  • キリンがケーキ屋さんに行くには、左に何回曲がりますか。左に曲がる角に青いをつけてください。
  • 帰り道、右側に見えるお花は全部で何本ですか。その数だけ右下のお部屋に、緑のをかいてください。

子どもの空間認識を問う良い問題です。ある学校で出された問題が他校に波及するということはよくあることです。

3. 四方からの観察

机の上のつみ木を動物たちがいろんな方向から見ていました。でも今は、箱でつみ木が隠れています。左下のお部屋の絵は、動物達から見たつみ木の絵です。
  • この箱をとって正面からつみ木を見ると、どのように見えるでしょうか。それぞれ右から選んでをつけてください。

今年の入試問題の中でかなり難しい問題のひとつがこれです。つみ木を使った四方からの観察は、数年前に慶應義塾横浜初等部が開校初年度の入試でこの問題を出して以降、いろいろな学校で取り上げています。今回の問題の難しさは、横や上から見たつみ木の絵を見て、正面からの見え方を推理する問題です。具体物であれば簡単に分かるものですが、今回の場合、つみ木の見え方を投影図のように平面で描いているため、前後が隠れて見えないところは表現されていません。前に何個あっても、一番高いつみ木が表現されるだけです。そう考えると、横からの見え方だけでは、つみ木がどのように積まれているか判断はできません。いろいろな積み方が可能です。その際決定的な判断は高さです。高さはどの視点からも同じように見えますので、4個積んであるのに3個しか見えないということにはなりません。そこに気付いたかどうか、子どもたちにとっても、何を手がかりにしたら良いのか難しかったはずです。 例えば、正面から見たとき左から1個・2個・3個と一列に並んでいる場合、場所を変えて左から見ると、縦一列の3個になります。それが、2個・3個・1個でも同じ縦一列の3個になります。こうしたことがわかるかどうかは、幼児の場合かなり難しいはずです。一つ一つを点検し、問題によっては消去法で考えるしかありません。「高さ」に着目できるかどうかがポイントです。

4. 回転推理

果物の円盤は白い矢印の方に動きます。動物の円盤は黒い矢印の方に動きます。
  • お日様の円盤を見てください。
    クマが2個動くと、ウサギの前には何がきますか。その果物にをつけてください。
  • お月様の円盤を見てください。
    ウサギが2個動くと、ミカンのところにはどの動物がきますか。その動物にをかいてください。
  • お星様の円盤を見てください。
    今いるところから動物は1つ、果物は2つ動きます。ウサギのところにはどの果物がきますか。その果物にをかいてください。

回転推理の典型は、観覧車の問題です。その観覧車が、ルーレットや回転するテーブルに変化するのですが、回転テーブルの場合、周りに動物や人間が座り、食べ物が中で動くようになっているのが普通です。今回は、動物が右回り、食べ物が左回りというように、2つのものが同時に回る約束になっています。1問目は、「ウサギの前に何が来ますか?」と問いかけ、2問目は「ミカンのところにはどの動物が来ますか?」というように、全く観覧車の問いかけと同じです。この問題の目新しさは、3問目の両方が回る条件です。「今いるところから動物は1つ、果物は2つ動きます。ウサギのところにはどの果物が来ますか?」この問題は、これまで出されたことのなかった問いかけだろうと思います。このようにひとつの問題がいろいろな視点から問われて問題が進化していくのが受験の実態です。だからこそ、パターンで解き方を身につけるような学習は、実際の試験で力を発揮できないのです。何よりもまず、自分で試行錯誤して考えることが大事です。

回転推理の問題を位置の移動と考えれば、今説明した4問はすべて「位置表象」の問題です。これまでの入試が数・図形・言語が中心だったことを考えると、位置表象の問題が多く出されるようになったのは最近の傾向です。空間認識の基礎を身につける領域ですから、図形問題が増えていることを考えると、なんらかの関係がありそうです。今後の予想問題を考える際に、ぜひ押えておきたいポイントです。

以上のような今年の入試問題の分析を踏まえて、家庭学習の対策として、学校が入試において重視する学力の質をお伝えしました。特に今回の出題内容を見ても「聞く力」「作業する力」が求められていることは歴然としています。これを家庭学習でどう解決するか、答えははっきりしています。それは、ペーパーだけの学習では駄目だということです。解き方だけを教え込むのではなく、事物を使って自分で考え、作業させることや考え方を言語化することがいかに大事かということは、今年の問題を見ても明らかです。

最後に、行動観察の傾向と対策についてお話ししました。今年の入試を見ても、行動観察の重要性は増しています。学力があってもそれだけでは合格できないのが今の入試です。では何が求められているのでしょうか。出題された問題を見ただけでは分からない評価の観点として、「人の話をしっかり聞けるか」「自分で考え行動できるか」「チームワークはどうか」などが考えられます。今年の入試の実際の場面で起こったいろいろなことと合否との兼ね合いで見ると、やはり学校側が一番求めているのは「自立している子ども」だということが分かります。

自立しているから 人に流されない
自立しているから 自分で考えて行動できる
自立しているから 人の話をしっかり聞けるし、協力できる

学校側は、面接と行動観察を通して年齢相応に「自立できているか」を見ているはずです。「型」を教え込むような行動観察対策が、いかに学校側が求めているものと正反対のことをやっているのかがお分かりいただけると思います。

学習も行動観察も「自分で考え、解決する」ことがいかに大事かということだと思います。
当たり前のことだと分かっていても、「入試」となるとそれが実行できないのはなぜなのでしょう。ここに大きな落とし穴があるように思います。

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