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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

第3回 合格のための室長特別セミナー

第639号 2018年8月31日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 8月30日(木)夕方5時より、来年秋に受験する年中児の保護者の皆さまを対象に、「雙葉に合格するために」と題したセミナーを行いました。当日は、子どものスタートチェックテストも同時に開催しました。雙葉小学校の入試問題を分析し、学校側が何を求めているか、また合格するためにどんな学習を積み上げていけばよいのかを1時間半かけてお伝えしました。

合格のための室長特別セミナー 第3回「雙葉に合格するために」
  1. 昨年度入試から何を読み取るか
  2. 過去10年間の問題分析を通して、この学校の傾向を知る
     2-1. 10年間の問題分析
     2-2. 典型的な過去問の紹介
     2-3. 10年間の行動観察
  3. こぐま会の雙葉対策

まず最初に、昨年秋に行われた2018年度の入試問題について解説しました。ペーパー問題は次の6問でした。
  1. 話の内容理解
  2. 理科的常識(断面図)
  3. 折り紙を使った線対称
  4. 数の総合問題
  5. 聞き取り・数の総合問題
  6. 方眼上の位置の移動

女子最難関校の学力問題としては物足りなさを感じますが、これが最近のひとつの傾向で、2008年前後の問題と比べると格段に易しくなってきています。この背景に何があるのか、いろいろ考えられることはあります。これまで、入試問題づくりのリーダーシップ的存在であった学校ですが、その地位は、いまや聖心女子学院初等科や慶應義塾横浜初等部に譲った感があります。それでも、1. 話の内容理解や4. 数の総合問題などを見ると、かなり細かいところに工夫を凝らした問題づくりを行っています。

数の総合問題は4問ありましたが、その質問の中身には学校側の工夫が見られます。

  1. りんごの部屋を見てください。4枚の袋があります。ここにあるアメを3個ずつ袋に入れるには、アメはいくつ足りませんか。その数だけ下の部屋にを描いてください。
  2. イチゴの部屋を見てください。ここにあるアメを3人の男の子に2個ずつあげると、アメはいくつ余りますか。その数だけ下の部屋にを描いてください。
  3. バナナの部屋を見てください。ここにあるアメをお兄さんと弟で分けたいと思います。お兄さんが弟より2個多くなるように分けるとすると、お兄さんのアメはいくつになりますか。その数だけ下の部屋にを描いてください。
  4. ブドウの部屋を見てください。四角いお皿から、丸いお皿にアメを1個移しました。2つのお皿のアメの数の違いはいくつですか。その数だけ下の部屋にを描いてください。

お皿にアメが描いてあるだけの問題ですから、質問を見なければ簡単な数の操作のように見えます。しかし、1~4までの一つ一つの質問を見ると、小学校入学以降に学ぶ数の操作の大事な観点が網羅されています。1. は、一対多対応と数の多少に関する問題で、数式で表せば 3×4-7 となります。また、2. は 9-2×3 となり、ここにもかけ算の考え方が求められています。3. は、現実的な課題でありながら結構難しく、子どもたちがよく間違える問題です。10個のアメを、同数ではなくお兄さんのほうが弟より2個多くなるように分ける問題です。同数に分けてから数のやり取りをして解く場合と、はじめから2個取っておいて残りの8個を半分にして4個ずつとし、お兄さんには最初に取っておいた2個と合わせて6個にする方法などが考えられます。正解は6個ですが、これを7個とする子が多くみられます。その多くは、まず半分の5個ずつにした後で2個あげているのです。同数の場合、1個あげると差は2個になるという「数のやり取り」の考えが十分に応用されていないと、こうした間違いが起こります。また、最後の4. は数のやり取りの問題ですが、この問題が工夫されているのは、最初から6個と4個というように、数が違っているところです。数のやり取りの場合、多くは同数から始めますが、1個あげたら差は2になり、2個あげたら差は4になるというように機械的に覚えこんでも駄目だということを、こうした問題を通して学校側が警告しているのだと思います。こうした問題を見ると、よく工夫されているということが分かります。いわゆる新傾向の問題はあまり見られませんが、雙葉らしい「考えさせる問題」が多く出題されていることが分かります。

ところで、冒頭で述べた問題が易しくなってきた背景には、子どもを送り出す側から見てみるといろいろな理由が考えられます。

  1. 難問を出題しても、教え込まれた方法で解くだけでは将来の学習の基礎にならない
  2. 基礎的な問題をしっかり解ける子のほうが入学後伸びていく
  3. 難問を出し続けることによって、「受験校である」というイメージを拡散したくない
  4. 非認知能力が求められる「行動観察」をこれまで以上に重視したい

いずれにしても、問題が易しくなれば平均点は上がるわけですから、1問の取りこぼしの意味が以前より大きくなってきていることだけは間違いありません。

昨年秋の問題を分析した後、ここ10年間の問題を日常授業の領域に分けて分析すると、明らかにこの学校の傾向が見えてきます。それをひとつずつお伝えした後、考える力が問われる具体的な問題を提示し、子どもはどのように解くのか、どこで間違えるのか、どんな学習をしたらよいのかなどをお話ししました。また、過去問の中から考える力が求められる典型的な問題を4問ほど選び、この問題の解説を通して、これからの学習で何を大事にすべきかを次のようにお伝えしました。

  1. 工夫された考える力を求める問題が多いため、基礎学力をしっかり固める。そのためには、ペーパートレーニングの前に、事物に働きかけ、試行錯誤し、自ら答えを導きだす経験をたくさん積む
  2. 指示をしっかり聞き、約束事をよく理解し、作業を通して答えを導き出すトレーニングを積む。何の事物経験もさせないで、ペーパーを使って解き方だけを教え込むことはしない
  3. 基礎学力を定着するためには、答えの根拠を必ず言語化させる。難しい問題であればあるほど、合っていても間違えていても必ず説明させる。言語化によって自らの間違いに気づいたり、考え方をより定着させていくことができる
  4. ペーパートレーニングは、量よりも質を重視する。そのためには、1枚のペーパーを大事にし、いろいろな角度から問いかけてみる。特に逆からの問いかけにも正しく答えていけるようにしておく必要がある。どれだけ深く学習したかが、特にこの学校では求められている

学習面の解説を終えた後、入試本番では別日に行われる「行動観察」についても実際に行われた課題を紹介し、何が求められているのか、どのような対策が必要なのかをお伝えしました。最近よく言われる「非認知能力」は、この行動観察においてチェックされます。最近は、課題を与え、相談し、ひとつのものを作り上げ、その後でみんなで楽しくごっこ遊びをするという形式で行われることが多くなりました。相談時の子どもの様子や、コミュニケーション能力、協力関係のあり方などがチェックされているはずですが、自己主張するだけでなく、相手の意見も受け入れられる「聴く力」も大変重要視されています。行動観察において、大人の思惑も働いた「型」を教え込むようなトレーニングは、学校側が一番嫌うものです。今でも自由遊びが重視されている背景には、子ども本来の姿を見たいという学校の考えが見て取れます。学力問題が易しくなっている背景には、学習場面でも教え込みの訓練を行う受験塾のやり方に対する学校側の批判が反映しているのかもしれません。

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